よんっ。(こーへん) 「家族旅行の話がわいて出たー(2)」
「え? 生徒会長? 惟人が?」
バイトから帰宅しての夕食。
食べ終わった食器をかたしてるときに、陽葵に惟人の生徒会長立候補の話をしたら、えらく驚かれた。
冷蔵庫に貼ったバイトのシフト表にチラリと目線を送った陽葵は、いつも不在の彼の予定に舌打ちし、「どーでもいい話」と、泡まみれのスポンジを流しに投げつけた。
「陽葵はこないだの期末テスト、トップ成績やったんやて? 補習のとき担任に「妹を見習え」ってハッパかけられたよ。惟人も陽葵もホントよくガンバってんね」
「人族の知識技能なんぞ、たかが知れてる。この程度、努力するまでもなくマスターできるわ。ハナヲお姉ちゃんが不器用なだけや」
ゆーねー。耳が痛くて千切れそうデスヨ。
「ところで、さ。ちょっと相談なんやけど」
「相談? ハナヲお姉ちゃんが?」
いぶかしげな陽葵に、若干心が揺らぐ。
「あ。いや、そんな気構える話やないねん」
「ハナヲ姉の相談なんて、警戒するくらいでちょうどええ。ナニ? 塾でも行きたいって? 自力でガンバれんモンが、他力でなんとかしたいってムダやない?」
……ま、まだ何もゆって無いのに……グスンと泣けてくるよ、陽葵ちゃんめ。
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実はミスドでの雑談中のコトだ。
南田センパイがこんなコトをゆい出した。
「夏旅行するぞ」
「なつりょこう?」
マナがずり下がった眼鏡を上げつつ反復。
「そーだ。何を隠そうわたしは3年生だ。受験生だ。なので受験勉強を始めなきゃならない。よって中学時代の良き思い出作りの最後の機会を持ちたいと思い付いた」
「きゃー。そういうコトなら、賛成っすよー。ハナヲも同意でござろーな? な?」
「じ、受験生って。南田センパイ、高校に行く気になったんですか?!」
「あたりきよ! 人並みに学をつけてやろうと思い立ったのさ」
……でも、夏旅行には行っちゃうんや。
「まさかハナヲ、お前。わたしの誘いを断る気じゃ無いだろーな?」
あ……いや……そんなつもりは……。
「心配すんな。オメーとこの陽葵ちゃんと惟人クンも同行させていいから。暗闇姫家の夏旅行も兼ねりゃいーでしょ? わたし、なかなかの妙案思い付いたんじゃね?」
「きゃーきゃーッ! 惟人くんも?! ハナヲ、ゼッタイに行くでござるよ? 行きたい場所の希望はちゃんとあなたの意見聞くから」
いや。違うくて……。行きたく無いのではなく……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハナヲお姉ちゃん、それホンキなん? 家族旅行なんて! いったい幾ら費用が掛かるか、分かってんの? アホなん? ブルジョワなん?」
陽葵が怒鳴るんも当然や。
今の暗闇姫家に旅行なんて行けるような余剰金などないっ!
「それはわたしもゆったよ? そしたらさ、マナのヤツ……」
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「じゃ、こーしよう。行き先は南紀白浜、水無月家の別荘。そこに数日間ステイする。決定でいーか、マナ?」
「りょーかーい。お父さんにいっときマース」
「べ、別荘?」
「そ。コイツんち、金持ちだから」
「そ。わたしんち、じつわ、カネモなのだよ、ハナヲしゃん」
――カネモ、ねぇ。
前にこの子んちに行ったコトあった。
和風建築で、確かに良いカンジのオウチだった。でも大邸宅ってほどやなかったよ。わたしんちより少しだけ大きいくらい。そんな別に金持ち感はなかったよ?
わたしのアタマの中を覗いたかのように、南田センパイが一言差し入れた。
「あの家な、マナが勉強するため用の別宅だそうだ」
……あー。
またひとつ、アニメっぽい設定、飛び出したー。
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ちなみに陽葵のカオが、最近見たコトないほど高揚したのをわたしは見逃さなかった。




