さんじゅうきゅうわっ 「おしおき延長した」
パヤジャッタ陣営で動揺が起った。
その混乱を衝く!
「魔狼隊、突進! 行くぞッ!」
号令するはリボルトセンセ。
巨大な銀色毛のオオカミたちが実に50体以上、人馬の兵軍と一丸となって敵陣営になだれ込んだ。
「人間と魔物たちの混成部隊だ……!」
「……アイツらは【疾風の銀色狼】。……シンクハーフの仲間たちや。それが騎士たちと――!」
陽葵の補足には感極まった震えが滲んでる。
人と魔物が同一部隊を組むのはよっぽどあり得ん出来事らしい。
なわ締めの魔法でオタオタしているところを攻め込まれたパヤジャッタ勢は当然大混乱。
人質兵らは助け出され、突撃部隊に加わった。
シータンが生徒らに「大変よくできました」と拍手。
「では続いてココロクルリ」
「はいっ。シンクハーフ先生!」
「同じ要領でスピア姫を解放しに行きます」
「はいっ、先生! それでは跳びます。みんな、いーい?」
「はーい。ココロクルリさん! お願いしまーす」
「んじゃっ。本陣へごー!」
行っちゃった。慌ただしいな。
「今の、漆黒の指図?」
陽葵の問いに首を振る正冠さん。
「わたしはただの引率者や」
「じゃあ」
「そこなハナヲお姉ちゃんとシンクハーフからの依頼や。ふたりして相談に来おったんや。ま、二つ返事でオッケーしたよ。だってオモシロそーやったし。生徒らも張り切っとったし、ヨカッタヨカッタ」
すっかり興ざめしたカオで口をつぐむのはシカトリス。
惟人と陽葵からも見張られ退散もままならない。
「シカトリスよ。さっきの生徒らを見たか? イキイキ明るくしておったろう? オマエはそんなあやつらの通う学校を蹂躙しようとしとったんやぞ?」
「……」
「400年前、どうしてわたしが黒姉さまをオマエから引き離したか、分かるな?」
シカトリスのまぶたがピクリ。
恐らくコイツは思った。
――また始まったぞと。正冠さんの長説教が、と。
でもその態度がアカンのよ?
いーコトゆってんだよ。正冠さんはな。
「正冠さん。わたし本陣の様子、見に行ってきます」
「……なんやとォ、わたしの長いお説教に付き合われへんと、そーゆーワケか?」
う! そ、そーゆーワケや無いのデスガネ。
ヤベー。勘がスルドイなーこの幼女。
「幼女のクセにと思ったか? ハナヲお姉ちゃん?」
「ゆってません、ゆってません。シカトリス、ここは素直にお説教を聞いて。そうして黙って手を引き給えよ?」
「ハナヲ姉。ゆっとくがな、シカトリスは400年前、アンタにも手を出そうとしたんやで?」
ん?
なんですと?
「そして真偽を問い質すため呼び出した漆黒にも手を出そうとした。……で妹は怒ったんや」
「……陽葵、知ってたんか、それ?」
「当時ハナヲ姉から聞いた。それで冷めた」
ジロリと両娘からにらまれるシカトリス。
「キミに聞きたい。キミは今でも黒姫を愛してるんか?」
「……当然だ。だから迎えに行こうとした」
「当時、わたしを口説こうとしたのは、わたしが好きだったからか?」
「間違いない」
首をかしげ考える風の正冠さん。
「ではナディーヌは今でも好きか?」
「ああ。間違いない。生涯の愛を捧げたい」
うーんと唸る正冠さん。
「つまるところ、わたしら三人とも愛したいとゆーコトなん?」
「……そうなるな」
「うーんと。それなら仕方ない。……シカトリス。やったらわたしのお願いを聞いてくれるか?」
……あ。
「なんなりと」
……それ!
「グリーンルームでさらにしばらく反省してくれ。【記録】」
来た!
やっぱり!
グニャリと二つ折りになったシカトリス。
その顔は青ざめていた。




