さんじゅうはちわっ 「正冠さん。」
「シカトリスよ。わたしゆったやんなぁ? グリーンルームを出所したら、何をさておいてもまずはわたしの愛しきお姉さま、黒姫嬢に詫びに行けよ? とな」
「……。それは果たした」
ケタケタ笑い染まらんうちに「シラッ」と冷血な真顔に移ろう。
氷のような目付きでシカトリスを睨めつける漆黒姫こと正冠さん。
「アンタさんはその応え、ウソやないと胸を張ってゆえるのか? 黒姫三位『本当だ』と、相違なくゆえるのか?」
「……言える」
……わーお。正冠さんペースに迷い込んでるよ、剣士くん? だいじょうぶなの? そんな答えでホンットに?
場を和ませるために割り入る。
「ところで正冠さん、遅いよ。ちゃんと約束した時間に来てよ。学校で習ったでしょ? 遅刻はダメやって」
「ああ、ごめんごめん。なんせ外に出るの久しぶりやったし、日焼け止めしっかり塗っとかな思って。にしてもハナヲお姉ちゃんが殺されてなくってよかったよぉ、テヘ」
「日焼け止めって。それ年中ゆってるね。アンタ、ドラキュラ?」
「ドラキュラは塗らんぞ、クリーム?」
相変わらずのマイペースぶり。この幼女さんも。わたしも。
「ときにシカトリスよ。あんさんオーサキアンに城を築くとゆーたか?」
「……城? ……それが?」
シカトリス、トボけてる。
「偶然なんやがなあ。オーサキアンの地には、わたしにとってすごーく大事な物があってなぁ。……質問なんやが、シカトリス君はそのことを知っとりましたかー?」
「……あ、いや」
シカトリスの握る剣の先がブルッと震えた。
面頬の隙間から多量の白い息が漏れ始めている。
「そっかあ、知らんか。知らんなら仕方ないよな。実はその地にな、人魔共学の魔法学校があんねん。わたしと黒姫お姉ちゃんは、その学校のエライさんやねん。……やからな」
リラさん、言葉を止めた。
シカトリスに近接し、彼の面頬を剥ぎ取った!
「――!」
うっわ! ナニッ、その透き通るようなキラキラ艶の肌! その涼やかな眼元。まっすぐ通った鼻すじ! 予想外の美形に愕然だ! 元オジサンだったわたしの嫉妬心が疼きまくるッ!
「……やから。うかつなコトゆーたら、すっごーく辛い目に遭わされるかも。やーで?」
「……」
正冠さん、胸のあたりに挙げた手をヒラヒラさせた。合図や。
数秒後、シータンとルリさまが裂けた空間からあらわれた。
ふたり以外にも、ぞろぞろと! 出てくる出てくる! ざっと20人くらい。
全員、その恰好は同じ。なじみ深い魔法学校の制服だ。
いたずらっ子みたいに「ニッ」と歯を見せる正冠さん。
「今日は実地で特別実習や。シンクハーフ」
「……はい。……では皆さん。向こうに数十人のパヤジャッタ兵が見えますね?」
ルリさまはじめ、生徒らが「はーい」と返事。人間もいれば人外種の子もいる。完全に魔物の形態をした子もいる。その子たちがシータン先生を取り囲んだ。
「では今から一斉に、【静止命令】の魔法をかけてみましょう! はいっ!」
ルタンサレト。
それは、相手の動きを止める魔法!




