さんじゅうごわっ 「シカトリス」
惟人がモニターを揺さぶった。
「トチ狂わないでください。壊れてしまいます」
「陽葵ッ! ハッキリ断れ! 騙されんな!」
画面越しに叫んでる。ムダだよ。
直線距離で約400メートルか。いっそ直接射殺すべし。……だよ?
人差し指の先に魔力光弾を詰めて……!
「……惟人もハナヲもイカレてる。わたしもうこれ以上戦意保てないよ」
それじゃあ、ルリさま。わたしのあり余る戦意を分けてアゲル。一緒にあのかどわかしヤローをとっちめてやろーよ! オーケー?
モニターから二人の会話が流れてくる。
あーっ、手の平がワキワキ&ムズムズするぅ。
『帰れ。もう終わったコトや。もうオマエとは何の関係もない』
『承知した。では力づくで言いなりにしてやろう』
『何やと?』
『聞き分けの無い子にはしつけが必要だ』
ダメぽ、もーガマン出来ないよ!
けど先んじたのは惟人の方。
目を見開いた彼が、ルリさまに叫ぶ。
「ココロクルリ、頼む!」
「えッ?! おっけ!」
「ルリさまッ、わたしも連れてけッ!」
ルリさまの両肩にそれぞれ手を載せる。
ぐにゃりと歪む景色。
寸時後に見た光景は――。
男の剣を、惟人のそれが止めていた。陽葵の身体、ほんの数十センチ手前だ。ギリリと刃同士が共鳴した。
「自信があるようだな。小僧」
「黒いな、アンタ。身も心も」
「……光の者か。何故このような僻地に?」
「僻地じゃねえ。ここはアステリア領だ。ボクの生まれ育った場所だ」
ブンと男が腕を振る。
陽葵ごと跳ね飛ばされる惟人。
「だいじょうぶか、陽葵」
「……な、なんで来たん?」
「それはないだろ。特に理由がいるのか?」
ムクッと立ち上がる陽葵。
「……別に。要らない」
ふたり、申し合わせたように男――シカトリスを両左右からはさむ位置に立った。わたしも正面に移動し臨戦態勢をとった。三方向からの包囲だ。
「しょせん光の者と魔の者は交じり合えぬ。重々承知しているだろう」
「そんなキメツケ、ダレがしたの? 日本人でもそんな考えの人いないよ。改心した方がいいよ?」
シカトリスの面頬から白い息が漏れた。
今更だけど、コイツ、大きい。そびえるような上背。気を許したら圧倒される。
「ハナヲちゃん! 離れてッ!」
腹部に衝撃を受けた。
痛いとかゆーレベルじゃない。コンクリートの塊がぶつかったかのようなダメージだ。
どう近づかれたのか、まったく知覚できなかった。物理障壁を展開してなかったらと思うとゾッとする。
「ハアアアッ!」
陽葵の魔力砲が炸裂!
近距離での禁じ手だ。嘔吐しつつ魔力障壁を重ね、巻き添えに備えた。
――なんと。
ヤツは防御を行わず陽葵弾を頭部に受けた。直撃だ!
それなのに何事も無かったかのように弾は逸れて行った。直後に遥か先の森で爆発。
ウソ……。
「なんてやつ」
片手持ちした大剣で反動をつけ、ねじり回転しながら挑み掛かった惟人に対し、シカトリスは同じく片手持ちの剣を高速に回して刃先を合わせていなす。上半身をしならせ、彼にカウンターの頭突きを喰らわせた。
――が、さらに惟人はこれを回避。崩した態勢のまま剣を横に払った。立てた剣でシカトリス、その剣撃を止める。
そこへ矢継ぎ早の陽葵のカカト落とし。上体を半歩ずらして男、避ける。
フリーの手で彼女の足首を掴むと、ハンマー投げの要領で振り回した。
「こっの!」
手を黒々とした霧で包んだ陽葵の、2度目の魔力砲。
今度はさっきよりも更に近接している。
だけど首を捻じ曲げてあっさりかわしたシカトリスは、彼女を手放し、離れ際剣を小刻みに突き立てた。単になぶっているように見えた。
それでもダメージは受ける。血まみれになり軽く10メートルほど跳ばされる陽葵。
惟人が地面に衝突寸前の彼女を抱き止めた。
「機敏だな。それに剣の扱いも若い割になかなかいい。まだまだ甘ちゃんだが」
「は。オジサン言うね。久しぶりに熱くなれそうだよ」
――次元の差を感じる。
わたし、実況してるだけでちっとも動けてない。




