さんじゅうよんわっ 「ヨリ戻したいってか!」
あと1時間ほどで太陽が沈む。
約束の時間だ。
わたしらはこれから一個の国を掛けた果し合いをする。
アステリア、パヤジャッタの両陣営が向かい合う中、土石の転がる草原の真ん中でドラが打ち鳴らされた。
事前の申し出通り、合図を境に前面にあらわれたは剣士シカトリス。ただ独りだった。
「面頬つけてる。ホンモノかな?」
「やはりハナヲには理解できませんか? ……この鬼気迫る圧が」
シータン。それは本陣におわすスピア姫さまからの圧では?
ダレから聞いたのか、(シータン、あなたデスネ?) 確かに日本で女子の応援衣装はソレが定番ですが……。わざわざチアガールのコスプレで陣頭に立っている。
「間違いない。アイツや。グリーンルームから出所したってウワサは本当やったんか……」
陽葵、男を遠望しつぶやく。
――ここで解説するね。
【グリーンルーム】ってのは魔族界での刑務所的懲罰房にあたり、ここに入れられるってのは実質極刑に等しい刑罰やの。形のあるものはおろか、時間感覚もなーんもない無限の空間に置き去りにされんのよ。
【さんきっ】で収監されたわたしは、10日後に釈放されたんだよね。……そのときはアタマがヘンになっちゃってたし。
「グリーンルーム……」
呪文のようにそのおぞましき単語をなぞるシータンも過去の受刑者だ。
「……仕掛けるぞ」
大剣を出現させた惟人が一歩足を前に出した。
「待って。戦う前に話したい。……アイツと」
皆、一斉に陽葵を見た。数秒おき、惟人が「いいぜ」と背中を押した。
「ただし、話がついたら戦闘開始だ。いいな? 戦いが始まったらオマエは黒姫だ」
「陽葵。もう別人になっている可能性があります。くれぐれも気を付けてください」
シータンの軽い抱擁を受け、陽葵はヤツに近付いて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「一緒に行かないんですか?」
と、シータン。
「なんでわたしが」
ヤボやろが。そのくらいの節度はさすがにあるよ!
――ってそれ、なんだ? ナニを覗いてる?
「え、これ? わたしの発明品、『超小型カメラ&マイクう』です。……それが何か?」
「何か、じゃないよっ! ノゾキ見なんて、趣味悪いよ! 犯罪だよっ!」
さては、さっきの抱擁で陽葵に仕込みやがったな?!
「心配なのです。彼女がいつ襲い掛かられるかワカンナイでしょう? スグに救援できるように、です。……げんにほら。惟人クンだって食い入るように画面に見入ってるでしょう?」
「うっわ、惟人! 何アンタまで!」
「あ、い、いや。陽葵、ヘマしないかなぁと思って、ハハハ……」
ヘマねえ。
どんなのが君のゆうヘマなのかなあ?
『オレもナメられたものだ。たった数人で倒せると思われたのか』
き、聞こえてきた……!
「映像入ります」
パッ! と鮮明に表われたモニターには、ほぼ陽葵の目線でオトコが映っている。
暗黒王なんてゆーから例えば全身黒づくめかと想像した。
あ、いや。まったくその通りでして。逆に拍子抜けした。カオも含めて黒い防具で包まれている。
「懲役400年。彼に課せられた量刑です。そのうちの大半を彼はグリーンルームで過ごしました」
「……よく生きてたね」
「漆黒姫の慈悲で全期間眠らされていたようです」
「いったいどんな犯罪をしでかしたの?」
「……それは」
シータンでも遠慮するんやな。
『オマエ、わたしが誰だか気付かないのか?』
『オレに子供の知り合いはいない』
『……リラの姉、アヤだ。わたしは』
シータンの補足が挿入。
「アヤというのは、陽葵が黒姫を名乗る前の名前です」
男の疑問符が続いた。
『……アヤ? オマエ、三位なのか?』
数舜の沈黙。
『何故魔女が人間の味方をしている?』
『アステリアは人魔が共存する国や。シカトリスの常識はここでは通じない』
ふたたび無言が続く。
『出所のとき、漆黒姫から居所を聞いた。オレの目的はオーサキアンにいるお前に会うことだった』
『オーサキアン? 魔法学校か? ……わたしを?』
パヤジャッタ軍の狙いはエメラルド鉱山だったでしょ? 違うの?
『随分容姿が変わったが、アヤである事には違いあるまい。オレは過去の過ちを詫び、再びお前に愛を捧げたい』
ぬな?!
聞き捨てならないセリフ、飛び出た!




