さんじゅういちわっ 「パヤジャッタの提案」
整然と行進する集団に行き当たった。
旗幟はアステリア!
数百人単位だ。
陽葵がゆう。
「領府レイシャルへ撤兵させているのだな。……恐らくシンクハーフの差し金だ」
少し離れた山林から眺めおろしているわたしと陽葵、そしてルリさまは、それぞれの想いを抱いて行く手を凝視した。敵のいる前線へ。
「いい? じゃあ最前線に跳ぶよ?」
「待て、ココロクルリ。その前に問い質したい。……アンタわたしに何か隠してるやろ? 白状し」
するとルリさま、口をとがらせ。
「だってえ。惟人がさ、戦場に連れてけって。……だからさ」
「……惟人を? 連れてったんか?」
「……とりあえず、レイシャルまで」
なんやとォ? 惟人が来てるやとォ?!
アステリア領府の療養所に置いて来たそうで。
陽葵、「うーっ」と唸って頭を掻いた。
「ごめんなさい。だってアイツ、泣いて頼むから」
ま、また泣いたの? ホントに? アイツ、泣くの? それとも魔女が言い訳するときの常套句?
「過ぎたものは仕方ない。領府なら戦場まで距離がある。病身をおすのにも限界があるしな。……良かろう、行くぞ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
前線で、スピアさんのお出迎えを受けた。なんと白一色の軍装が泥だらけだ。
御大将自ら敵兵と渡り合ったのか……と思いきや、さっき水溜まりでコケたのだとゆう。……なんとゆーべきか。
「有難うございます! あなた方が来られて百人力ですわ! これで我が軍は勝ったも同然です!」
意外にも明るいやん。てっきりメソメソオドオドしてるとばかり。むしろ領府に居るときよりもイキイキしてんじゃない?
「姫。シータン……じゃなかった、シンクハーフは?」
「彼女なら、主だった将軍たちを集めて【しりとり大会】だそうです。面白そうですのに、わたしには本営の留守番をしてろと。まったくヒドイですわ」
「なーるほどォ! 留守居であるか!」
陽葵、得心しすぎ。
その【しりとり大会】が催されているとゆー幕営の周囲は、物々しい空気が張り詰めていた。
「しりとり大会って【お楽しみ会】でするヤツでしょ? こんな状況で気は確かなのかしら」
ルリさま。空気を感じてクダサイ。
入口に立つ騎士がわたしらを通せんぼしようとして、あわててお辞儀をした。
「失礼しました。お待ちしておりました」
中ではシータンやリボルトセンセはじめ、老若男女問わずアステリア有数の騎士らが円卓を囲んでいた。わたしは脱力してしまった。
「……ホントにしりとり大会してたんや。ナニやってんの!」
リボルトセンセの「カバン!」で「ブブー」とシータンがコールし、彼が「クッソー」と叫んでいる!
「貴様ら! ここは戦場ぞ! もはや勝利を諦めたかッ!」
陽葵、そのちっちゃな身体のどこでそんな大っきな声量を発生させてるの? でも気持ちは理解できます。
「……これは立派な作戦会議です」
「ほえ? どこが作戦会議なん……?」
さすがに理解不能です。
長老級の騎士さんが「グホン」と咳払いし説明を始めた。
「パヤジャッタより一騎打ちの申し入れがござり申した。儂らはその重責を求めて争っているのです」
「一騎打ちと? ――で皆その役を引き受けたいと? ――ナルホド殊勝な心掛けじゃ。だがその役はわたしが引き受けよう」
ざわつきが起る。一同、険相立った。当然かも。――が、シータンの一言で落ち着く。
「黒姫よりも自分が強いと思う人は挙手を」
「……」
「……恐れながら。適任かと」
皆を一渡り眺めてうなづくシータン。
「万余の敵に対し良くここまで持ち堪えました。しかし形勢を挽回するには到底至りません。一騎打ちの提案を受け勝利することで逆転を狙うしかないでしょう。姫には内緒ですが、負けた場合を想定し、兵らの領府への転進は続けます。8割がたを返してしまい、領府の防備に充てます。……一同、異存はないですね?」
シータンの意思に、並み居る将軍らは一様に首肯した。
そこへ、一人の騎士が入ってきた。シータンに耳打ちで注進する。
「……ふ。パヤジャッタの大将は太っ腹の大バカ者ですよ。一騎打ちに擁するこちら側の人数は制限無しで良いそうです。ナメた御仁です。でしたらわたしたち全員で掛かりましょう」
ふたたびザワッ。
そして、怒りのこもった興奮の叫び。
「なんだと、やったろーじゃねーか!」
「吠え面かくな、後悔させてやる!」
ウオーッ! ビリビリと幕内が微震する。
――けど冷めた者一名アリ。それはわたし。
「……それすでに一騎打ちと違うよね」




