にじゅうきゅうわっ 「これヨモギだよ?」
耳元にカオを近付ける陽葵。――ナニ? ちょっと息がくすぐったいんだけど?
「ゴソゴソせんと。しっかり聞きや」
ささやいた言葉にしばし絶句。
「えー、マジなん? わたしが?」
「ああ、そや。……ヤだもの、わたし。その役」
うへえぇん。そんなのわたしもヤだよォ。
しかしながら、この場の指揮官さまは黒姫陽葵。ムリ難題でも、ゆーコト聞くしかあるめーよ、もーっ。
「ガメガメーラの居所は基本的に水中や。けども攻撃時は空中に出る。飛び上がって回転する。そのタイミングを計って【弾幕】を張る。えーな?!」
「『ガメダが回転しながら飛ぶ』、ね。ソレは古い記憶でなんとなく知ってるよ。そのタイミングで作戦決行やと? んもぉ、りょーかーいッ!」
まるでモンスター退治のゲームみたいやね。
――と解釈に浸ってたら、来た!
ザバと水の中から出現し回転飛行。
「弾幕開始! 陽葵!」
上ずり気味に合図したわたしに呼応し、陽葵が冷気の魔力を地面全体に滑り渡らせる。途端に洞窟内の温度が急低下し。
「よし行けいッ、ハナヲ姉!」
「うんっ!」
ガメダが離れた水源目掛けて火弾を発射! ――ゴォッ! と火が流れて着水し、勢いで多量の水が渦状に跳ねた。それに向けて2波、3波と火弾を連射!
あたり一帯に水蒸気が立ち込め、瞬く間に、まさにわたしらの狙い通り、弾幕っぽい状況が作り出された。ただの霧か霞みたいなもんやけど、別に弾幕って言い張ってもいーんじゃない? と。
で、問題はここからだ。
わたしは陽葵に命令された通り、人工的に作り出された【煙幕】の中でミズーリさんの用意した【スクール水着】を手に取った。
わずかの間、カオをしかめてから自分の名前をチェック。確かに間違いなく【はなお】と書かれてるな。熱湯コマーシャルばりに大慌てで着替える。ムネの部分が微妙に余裕アリなのが、ムカつき度倍増。
「着替え。終わったよ!」
「了! ガメガメーラ! いまからオマエの苦手な氷結波を喰らわしたるッ!」
陽葵の放った氷刃の鎖を懸命に避けたガメダ、狭い空間なのであちこちに身体をぶつけながら何とか巣である水源に逃げ込んだ。
それを視認し追尾するわたし、ドボンと水中へ飛び込む。
深く潜るのか……と思ったら、案外浅いところの岩肌に張り付き、ジッとしてたガメダ。そこにそろっと近づき甲羅の草をむしる。
ヤッタ!
――と、ガメダと目が合った。ヤツの口が開くのより早く、わたしの魔力砲が発砲された。
フフン。チミの攻撃はもう見切っていたのだよっ!
ラスボス撃破ッ!
「ギョエーッ!」
ガメラが水辺に逃げ出て行った。
「ガメガメーラ! 覚えておろう、わたしだ、黒姫だ」
陽葵の顔面に静止するガメダくん。
「元気にしてたか?」
ヘコヘコと頭を下げ、縮こまった。完全に恭順の意思アリだ。
かれのオデコに触れる陽葵の手。
「よしよし。怖い思いをさせたな。……それと。長年苦労をかけて済まなかった。許せ」
「ガオガオ」
卵を産みそうな表情で涙を流すガメダ。
「陽葵。ゲットしたよ薬材。見た目はよもぎソックリ。……これよもぎだよね?」
「よもぎ? ……そんな名前なんか? 善萌草や無いんか?」
手に取った陽葵は「よもぎってのなら、これや無いんか?」 と眉をひそめた。
「陽葵。よもぎと、陽葵のゆう善萌草は、言い方違うけどおんなじやし。心配せんでえーよ」
「そーか!」
パアッと、彼女のカオが嬉しそうに輝いた。……けどもじきにブスッと元の愛想無しに戻った。
「……あそ。んじゃ、帰ろ」
このツンデレ怪獣さんめ。ホンットに素直やないね。




