にじゅうななわっ 「ゴングが鳴ったよ」
『どっちが先にこの洞窟を出られるか、勝負デース! さあ一いってみよ―ぞッ』
開始の合図と共に天井からトロッコ台車が落下! しかも二台! うっわ、あっぶな!
『自力で軌道に乗せてねー。ちなみに自重は120キロよん』
……ヘンタイ・イカレの仙人ミズーリ翁。カンゼンに調子に乗ってんで。
うう、ハラ立つ。横をチラ見すると陽葵の全身からもうもうと蒸気が。こっちもカンゼンにアタマに来てる。
「陽葵……!」
スピーカーに相対した陽葵が叫んだ。お腹の底が裂け出るような咆哮だ。
「ヌシらあーッ! 儂が黒王と知っての非礼かッ! この狼藉者どもめがあッ! ヌシら全員、地獄の底に落としてくれようぞッ!」
これにはさすがに一瞬の静寂があった。
『フン、地獄に落としたければ落とせいッ。孫のズーリーに会えるで本望じゃあ! なーにが黒姫さまじゃーて! エラそうにぬかしながら孫を見捨ておって!』
今度は陽葵が黙った。やが、ややあって彼女、深々と頭を下げた。
「すまぬ。それについては儂の落ち度や。幾ら猛省をしようと賄えん。本当にすまぬ。――だが、それとこれとは違う。貴様らの行いは万死に値する無礼ぞ。覚悟をせい! ハナヲ姉え!」
「は、はいっ」
急に呼ばんといてえ!
「なんやの?」
「お姉ちゃんも啖呵切らんかい」
ええ? それ義務なん?
「お孫さんのコトは申し訳なかったです。でもわたしらを罠にハメて面白おかしがってんのは許せませんっ。それに、わたしらはカモナン病の薬の材料を貰いに来ただけで」
「ぬるいっ! もーええッ!」
……お、怒られた。シュン。
「ヌシらッ、このダンジョンは地下10階まであると聞いたが?」
『その通りじゃ! 地下10階の奥部屋に脱出用のエレベータがあるけん、それ目指しや! ひゃひゃ。それとのう、薬の材料は一部の魔物が持っとるけんな、よーく注意しさらせえよ?』
――ダルイことぬかすな。
ボソリ……こぼした陽葵の口の端が吊り上がった。……嗤ってる!
「グダるな。儂が、んなクソタルイ決め事に付き合うわけがなかろうが! えーから、このダンジョンで飼ってる魔物、ぜーんぶここに集めて一斉に掛からせい! 束にして地獄便に乗せたるわい!」
数秒の間。
『言うわ小娘! 死ねえいッ、黒公めがッ! ひゃひゃひゃあ!』
「ハナヲ姉。魔力、全開放や。汝の魔剣を発現させ給う!」
「は、はいっ! 出でよっ、双妖精!」
地面。壁。天井。空中。
――四方八方から魔物と名の付く生き物が湧き出でた。ジーサンの言い値通りの登場数や! だけども驚く間も与えてくれない。
ニッ。
突撃寸前の戦友に向けるような、黒姫陽葵の破顔。
「姉。殺生は認めぬ。良いな?」
「せっしょう?」
「殺すな。半殺しで留めよ」
ああ。オッケーや。
「――了!」
ブンッ! と両手持ちの双妖精がうなった。




