第82話
翌日の早朝、アランとユーラは次の目的地をどこにするか相談していた。
「どこか面白いところはないものか...」
「アラン、面白いとはどういう意味だ?」
「うん?何か特徴のある街とか、とにかく何でもいいんだよ」
なかなかの無理難題に、ユーラは頭を絞り近くの地理を思い出す。
「ならば聞くが、綺麗な景色は好きか、アラン?」
「景色ってどんな?」
「ここから馬車で3日くらいの距離に、ハルという観光に特化した街があるんだが、その街にある湖は七色の輝きをしていてとても綺麗らしいぞ」
「ふむ...湖か」
ベッドに寝たままユーラの方を向いて話を聞いていたアランが、天井に目を移し考えていた。よくよく考えてみればアラン自身も綺麗なものは好きだった。綺麗な剣をコレクションしているし、王都の摩天楼に感動もした。
「行ってみるか」
長い間アランと行動を共にしてきたユーラでもこの決定は少々以外だった。アランに対する新たな一面を見ることができ内心喜んでいると、彼が大事なことを忘れていたと呟いた。
「そういえば、あの4人はどうするんだ?いつまでも一緒というわけにはいかないだろ?」
「...そうだった、聞いてくる」
その後全員を呼び出し、話し合いと朝食を兼ねて全員で食堂へ集まった。
「みんなは、これからも一緒に旅をするということでいいのかな?」
その質問に、代表してセインが答えた。
「もう少しお供させてほしい。ただ、あまりにもマキドから離れるのもまずい。次の街までくらいにさせてもらおうかと思っている」
「そっか。それならハルまでの道中でもう少し戦闘の訓練ができるように配慮するよ」
「ありがとう。よろしく頼む」
「ちなみに、終着点になる街はハルだ。皆は行ったことあるか?」
「私はまだないですね、その湖のこと自体は知っております、有名ですので」
「あたしも知ってるよぉ!!」
「へえー、有名なんだな。楽しみにしておこう」
出発は翌日にすることで一致した。それなら今日のうちに出立の準備をしなければいけないが、アランとユーラはアイテムボックスがあることと、必要な荷物は常に最小限にまとめているのですでに準備はできていた。
なので最後にこのマキドの街を巡ってみることにした。
ダンジョンがある街ほぼ全てに共通する特徴、それは様々な店がたくさん存在することだった。武器屋や防具屋、道具屋はもちろん雑貨屋から宿屋など、商店がたくさんある通りをアランとユーラはのんびりと散策していた。
すると、大きな建物に挟まれた小さな店の外観の建物を見つけた。看板には観光案内所と書いてある。アランは小走りでそこへと向かう。露店のような作りになっており、2人の女性が営業用の笑顔で待機していた。
「すみません、ここで一番性能の良い武器を売ってるお店はありますか?」
「それでしたら、このまま北へ歩いて頂いて左に曲がってすぐのところにある金色の看板を掲げているお店がおすすめでございます」
「分かった、ありがとう」
教えてもらった道を駆け足で辿り、武器屋を見つけると迷わず中へ入る。
「いらっしゃいませ、どのような物をお探しでしょう?」
「見た目が綺麗で性能も優れている剣を探しているんですが」
「かしこまりました。剣のコーナーがございますので、案内させていただきまず」
この武器屋の中はとてつもなく広かった。闘技場一つがまるまる入るのではないかと思うほどで、突き当りの壁が見えない。そんな広大な敷地の中に様々な武器が整列されて並べられている。
迷路のようにくねくねと通路を曲がってたどり着くと、圧巻の光景が広がっていた。恐らく数百本はあろうかという剣が色別で分けられ、その中でさらに種類別に分けられ並べられている。
「色によって性能に違いはあるんですか?」
「いえ、色は性能とは全く関係ございません。冒険者さまのご要望で見た目にもこだわりたいというご要望が以前ございましたのでこのように様々なものをご用意させていただいております」
「なるほど...」
「アランは剣となるとほんと我を忘れるからな...」
アランがゆっくりと歩きながら購入する剣を吟味している。そして一通り見て回ると、アランの爆買いがが始まる。
「じゃあ、まずはこれと、こいつと...」
「は、はい、これと、えーっと」
店員はアランが欲しいと言った剣を必死に紙にメモしていく。
「おー、これは素晴らしい、これも買います」
アランが欲しいと言ったワインレッド色の刀身を備えた大型の剣の値段をユーラはちらっと見た。
「えっ...」
貴族のユーラでも一瞬戸惑うほどの値段だったが、今のアランは魔導車に関しての莫大な報酬が定期的に入ってくることもあり、文字通り億万長者だったので、このまま好きに買わせることにした。
しばらくしてアランがようやく満足したとき、購入した剣は42本にも及んだ。
「お客様、ご購入いただいた商品の納品はどのようにいたしましょう?」
「あ、この場でいただけますか?俺無限級のアイテムボックス持ってるので大丈夫です。それで値段は...あ、意外と安い」
「アラン...」
存分に買い物を楽しんだアランにユーラは前から思っていたことを聞いてみた。
「アランはどんな剣を持ってるんだ?一度見せてくれないか?」
「お?おお?ユーラも俺のソードコレクションが気になっちゃう??」
「あ、ああ...ぜひとも見せてくれ...」
「よし、ちょっと待ってて」
通りの邪魔にならない場所に移動し、アランがアイテムボックスから窮屈そうに出した一本目の剣は、身の丈を超えるよりも更に大きな大剣だった。だがただ大きいだけではなく刀身が薄緑色に輝いており、芸術品としても通用する見た目だった。
「アランが今持ってる大剣より更に大きいじゃないか...これ使うのか?」
「いつか使うかもしれない!...だろ?」
「なるほど...確かにそうだな。他には?」
アランは嬉々とした表情で次の剣を取り出した。柄の部分から刀身までが薄ピンク色で統一された中型の剣だった。
「これは...綺麗だな。私も欲しいと思った」
「これはいくらユーラでも譲れないよ?」
「いや、いいよ。というか私達婚約してるからいつでも見せてもらえるし...ありがとう。色々と良いものを見せてもらった」
こうして存分にマキドの街を楽しんだアランとユーラは、翌日新米冒険者を連れてハルの街目指して出立した。
ハルの街までの道中、新米冒険者は魔導車には乗らず周囲を警戒し、魔物が出現した場合には協力して対処することになっていた。万が一強力な魔物が出現しても、背後から隠れて後をつけているゴリアテがいるので問題ない。
アランが彼らの戦いを見守る。4人とも最初の頃よりも見違えて動きがよくなった。これなら無茶をしなければ冒険者として活躍していけるだろう。
これが指導できる最後の機会ということもあり、積極的にこうすれば良かったのではという一例を4人に示していく。
順調に旅路は進み、2日後の早朝にハルの街が見えてきた。意外だったのは、王都ほどではないがそれなりに高い建造物がちらほらと見られたことだった。
「結構発展してるんだな」
「そうだな、会議では聞いていたが、上手くいっているようだ。元々観光を売りにしていたがそれだけなく、商業関係にも強くなりたいと領主が言っていたのでその影響だろう」
「なるほどねえ。あっ、みんなはこれからどうするんだ?」
アランは新米冒険者の4人に問いかける。
「街を入ったところで別れようと思う。一緒に湖を見れないのは残念だが、俺たちもギルドを通してマキドに連絡をとらないといけないからな」
「そうか、分かった」
ハルの街の正門前は長蛇の列だった。だがこの街は衛兵が多く配置されているらしく、どんどんと人をさばいていく。それほど待たずにアラン達もチェックを受け、中に入ることが出来た。
正門を抜けるとすぐ正面に大きな噴水付きの広場があり、一同はそこに集まった。
「じゃあ、ここまでだな。みんな頑張ってマキドの街を盛り上げてくれ」
「ああ。アラン、ユーラ、本当に世話になった、ありがとう。ぜひまたマキドに来た時は会いに来てくれ」
セインを筆頭に4人が最後の挨拶をし、一同は解散した。
「これからどうする、アラン?」
「その湖ってここから遠いのか?」
「いや、そうでもない。歩いて1刻もかからないくらいだ」
「じゃあ行ってみよう」
魔導車を走らせ湖へ向かう。しかしかなり人が多い上に、魔導車が珍しいのかかなりの人の目線を集めたり、それのせいでなかなか道を開けてもらえなく、近くに到着するまで思いの外到着するのが遅れてしまった。
半刻ほどの時間が過ぎた頃、ようやく道が開け湖に着いた。邪魔にならないように街路の端に魔導車を停め、湖へと向かう。
「へえ...思っていたのと違う」
アランは最初湖の色が虹色なのだと勝手に思っていた。だが実際は湖の色が青色であったり、次に緑色になったりと、徐々に色が変化していた。
「これ、湖の色が変わる仕組みとか分かっているのか?」
「この土地の精霊が湖に干渉して色を変化させている、という説が有力だ」
「まあともかく、幻想的な景色だな」
2人はしばらく地面に腰を下ろし、湖を眺めていた。心が癒やされていく。本当ならいつまでも眺めていたいが、アランはユーラに声を掛けた。
「ユーラ、ギルドに行かないか?」
「いいぞ。もう湖は良いのか?」
「確かにとても綺麗だが、十分に堪能したよ。それにそろそろ体を動かしたいから、ギルドでなにかよい依頼はないか探したいなと思って」
「分かった」
2人は魔導車へと戻り、ギルドへと向け走り出す。ギルドへ向かう途中でも興味の視線がたくさん注がれる。
王都とは比べるべくもないが、ある程度の高い塔が10棟ほど空へ伸びていた。ギルドへ向け魔導車を走らせ続けると、そのうちの塔のひとつにたどり着いた。
「この塔の20階がギルドらしい」
何か良い依頼などはないか、アランは期待を抱きつつユーラとともに塔の中に入っていった。




