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第81話

 扉を開けた先にいたのは、身長がアランの7倍はあろうかというオークだった。4人の新人冒険者はその姿を見ただけで萎縮してしまっていたが、ユーラとアランの様子はと言うと、これといって動揺した様子はなく、ケロッとした調子だった。



 「あいつは、ジェネラルオークだな。倒してくるから待っててくれ」


 「倒してくるって、かなりの強さのはずじゃ...」


 「まあ見ててくれれば分かるよ」



 余裕の表情でアランはそう言うと、大剣を構えジェネラルオークへと向かっていった。


 近づいていくと途端にジェネラルオークが壮絶なスピードのパンチを繰り出してきた。それを両手を突き出し真正面から受け止める。


 まさか回避すらされることなく攻撃を止められるとは思っていなかったらしく、ジェネラルオークが僅かながら動揺する。


 アランはそのままパンチを放った右手にジェンプして乗ると、一気に肩まで駆け上がっていき、思い切り頭を回し蹴りを食らわした。


 フルスイングされた蹴りによってジェネラルオークは脳震盪になったようだった。立ち上がろうとしても酔っ払いのようにふらふらとしてうまく立ち上がれない。



 「油断はできないにしても、これがオークの限界か」



アランは、脳震盪のダメージから回復するまえに止めを刺すことにした。この前訪れた謎のダンジョンで手に入れた書物を参考に、ひとつの魔法を試してみることにした。



 「深淵の黒炎(ダーク・フレイム)



 簡易詠唱で魔法名を唱えると、アランの手のひらに真っ黒な炎が出現した。その炎はあまりにも熱く、後ろで見守る一同にまで熱気が伝わってきた。


 アランが炎をジェネラルオークに投げつける。黒炎は目でも追えないスピードで衝突すると、一気にジェネラルオークの体全体に燃え広がる。


 悲鳴がダンジョン内に木霊する中、またたく間に全身を燃やし尽くし、コトン、と魔石だけが地面へと転がった。



 「何だあの魔法は、思わず寒気がしたぞ...」


 「セイン、私もあの魔法は初めて見た。普段アランが扱っている炎とはまた違った質のものだった」



 アランは魔石を拾うと、ゆっくりと歩きながら一同の元へ戻る。ジェネラルオークは中々手強い魔物なので、魔石の大きさも片手でやっと持てるくらいのものだった。



 「うん?どうしたんだみんな、そんな怖い顔して...」


 「ううん、アランさんって強いんだなぁって...」


 「ウル、なんで遠い目をしてるんだよ...」


 「みんな、アランの実力が分かったところで、地上へ戻ろう。いつまでもここにいても仕方がない」



 その提案には一同ももちろん賛成で、最下層のフロア西側にある転移陣の上に乗ると、地上階へと一瞬で転移した。






 物凄くハイペースでダンジョンを制覇したのでそれほど地下にいたという感覚はなかったのにも関わらず、戻ってくると新人冒険者の4人はとたんに安心感が生まれた。


 アランを先頭に入り口の扉を開け外に出る。すると入るときにも話をした衛兵が近寄ってきた。



 「あれ?みなさんもう戻ってきたんですか?」


 「うん?そりゃ、ダンジョンクリアしたからね」


 「えっ?クリア? 」



 アランはジェネラルオークの魔石を衛兵に見せた。それを見た彼は最初は認識が追いつかなかったが、これがダンジョンをクリアした証拠だということを理解すると、急に大騒ぎしだした。



 「たった半日もかからずにクリアしたんですか!すみませんみなさん、この事を報告しないといけないので後で連絡を取りたいのですが、皆さんはどの宿に泊まっておられますか? 」



 アランが泊まっている宿の名前を伝える。それを衛兵は質の悪い紙にメモしていた。



 「後で連絡をすることになると思いますので、申し訳ないのですがなるべく宿で待機しておいてもらえますか?」


 「ああ、分かったよ。待ってれば良いんだな」



 




 一体何の連絡が来るのかアランには検討もつかなかったが、深く考えることもなく、皆と一緒に宿への帰り道を歩いていく。



 「ユーラ、連絡があるってあの人は言ってたけど、何の用なんだろうな」


 「いや、半日もかからずダンジョンを制覇したからだろ...。恐らくぶっちぎりで最短記録更新のはずだからな」


 「記録を更新すると、なんで呼ばれるんだ?」


 「......すぐに分かるさ」



それほど時間はかからず宿につくと、各自呼び出しがあるまで休憩となった。この宿は高級宿なので水浴び以外にもシャワーが設備されているが、アランとユーラ以外の4人はシャワーを浴びる体力すら残っておらず、ベッドに直行していた。


 アラン達はまだまだ余力があったので2人で一緒にシャワーを浴びていた。



 「今日はさすがに疲れたな」

 

 「それはそうだろう。ダンジョンボスはアラン1人だけで倒したのだから。それにしてもアラン、お前は随分着痩せするタイプなのだな」


 「どうしたんだ、急に」


 「実際の体を見ると無駄がなく、それでいて必要なところには筋肉がついている理想的な体型だ」


 「さすがにこれだけ冒険者やってれば体も鍛えられるさ。それよりも皆のことだが、もう少し一緒に旅は続ける必要があるだろうな」


 「ダンジョンで少し戦ったくらいでは強くならないってことだな」


 「そういうこと」






 丁度シャワーから上がり服を着たときに、コンコンとドアがノックされた。返事をすると宿の受付の女性で、玄関でアラン達の迎えが待っていると伝えてくれた。


 急いで他の4人にも伝え、1階に降りると、口ひげを蓄えたいかにも執事にしか見えない人物がアランに話しかけた。



 「突然の往訪申し訳ございません。私はこの街の領主タルガ・レイ・マキドに使えるノッテンと申します。この度ダンジョンを圧倒的な最短記録で更新されたことについて、領主様が皆様とお話がしたいと申しております。ぜひとも領主様の館へお越しいただきたいのですが、如何でしょう?」



 ダンジョンを守る衛兵から言われていたので大体こんなことになるのだろうと予想していたこともあり、申し出を快諾する。


 

 「誠にありがとうございます。では参りましょう」



 宿を出ると豪華な装飾が施された馬車が2台停められていた。1台目にアラン、ユーラ、セインが乗り、バルト、レモン、ウルが2台目に乗り込んだ。


 馬車が動き出し、ゆっくりと景色が流れていく。最初は平地をなだらかに走行していたが、徐々に上り坂になり、建物も大きくなっていく。恐らく貴族が住む地域に入ったのだろう。


 入る前には分からなかったが、マキドという街の建物は一軒一軒が比較的大きい。これは庶民が住む地区も貴族が住む地区も変わりがなかった。この街の人口は多めだが、それを補う以上の土地があるのだろう。


 そして街全体が一定の地域ごとに同じ色で統一されている。それが少し離れてみてみるととても綺麗なグラデーションを奏でていた。


 街の景色をのんびり眺めていると、馬車が停まった。いつの間にか領主の屋敷に着いたようだ。馬車のドアを執事に開けてもらい、降りると目の前にあったのはそこそこ大きい屋敷だった。


 大きさこそ以外にも小さかったが、それよりも高い格式を重視した雰囲気が屋敷からは漂っていた。



 「さあどうぞ、中へお入りください」



 扉をくぐり中へ入ると左右に螺旋階段があり、そこから2階へと昇る構造になっている。内装はブラウンで統一され、とても落ち着く雰囲気を作り出している。


 螺旋階段を昇るノッテンに付いていく。そして昇終えると一番奥に位置する扉をノックした。入る旨の指示が出たので、ノッテンが一同を中へ招き入れる。



 「おぉ、そなたらがたった半日足らずでダンジョンを制覇した冒険者達か。私はこのマキドを収めるタルガと申す。」



 領主のタルガは中々の長身で、アランとユーラの丁度間くらいの背の高さだった。ひげなどは蓄えておらず白髪交じりの髪をオールバックにしている。



 「アランと申します。こちらはユーラ。パーティメンバーであり仲間です。あと後ろの4人も一時的にパーティを組んでいる仲間です」


 「うん?アラン?そなたが王都で名を馳せた冒険者アランなのか?」


 「まだまだ駆け出しではありますが、そのアランで間違いありません」


 「おーそうかそうか! これはとても光栄なことだ! そしてユーラ様、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。自由に人生を謳歌しておられますかな?」


 「はい、タルガ様。アランと共に広い世界を見て回っております。とても充実しております」


 「素晴らしい!! デューク様もベルファとで喜んでおられることでしょう。そろそろ話を本題へ移したいのですが、どうやって半日もかからずにダンジョン制覇を成すことができたのですか?」


 「実はこのマキドダンジョンへは本来後ろにいる4人の冒険者を鍛えるために入りました。ですが道中効率よく敵を倒せたことで結果的にいつの間にか記録を更新していた、という状況でした」


 「ふむふむ、ということはアラン君とユーラ様が中心となって動いたということかな?」


 「いえマキド様、魔物の殆どはアランが1人で片付けました。私は4人にもしもの事がないようにと護衛に努めておりましたので」



 敵の掃討のほとんどをアランが1人で行ったという事実に、マキドは本気で驚いていた。



 「そうなのですか...ということは、最下層のジェネラルオークもアラン君が1人で?」


 「はい、彼が仕留めました。しかも圧倒的な強さで」


 「アラン君、君のランクは?」


 「Bランクです」


 「それだけの実力を備えておいてまだそのランクなのか。判定はきちんとなされているのだろうか...」


 「マキド様、俺はランクの為に旅をしている訳ではないので気にしておりません。もしかしたら近いうちに上がるかもしれませんし」



 その後もアラン一行とマキドは冒険の話から世間話まで、色々な話題に花を咲かせた。気がつけば夕暮れ時となっていた。



 「いやーー、今日はとても有意義な日であった。アラン君、これからすぐに旅立つのかね?」


 「あさってには発とうと考えております」


 「そうかそうか、ぜひまたマキドの街へ寄ってくれたまえ。いつでも歓迎するぞ」



 アランとユーラが深くお礼の言葉を述べ、マキドの屋敷を後にした。そのまま馬車へ乗り込むと、重鎮の人と話すことがまだ慣れていないアランは、そのまま静かに眠りに落ちた。

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