第80話
「バラバラに動くな、役割を決めて連携しろ!」
「まずは基本からだな。基礎が出来てない...」
マキドまでの旅の途中、幾度となく4人を戦わせてみたが、なかなかに酷いものだった。動きの基礎が出来ていない、役割が取れていない、動きがバラバラなど、改善が必要な点ばかりだった。
ユーラにだけ聞こえる声でアランがささやいた。
「はぁ...先が思いやられる」
「仕方ない。あそこへ行くか」
「うん?あそこって?」
「勿論、マキドにあるダンジョンだよ」
「あれ、マキドってダンジョンあったんだ...」
「おいおい、知ってるものだと思ってた。しっかりしてくれよアラン」
「本気ですまん、これからは事前に情報を集めるよ」
そんな調子でゆっくりのペースで旅をしていたので、マキドの街が見えてくるまでに3日もかかってしまった。
ひとつ幸いだったのは、アランとユーラのスパルタ教育のお陰で、4人は最低限の戦い方ができるようになっていた。最初の頃はよくこれで死ななかったなと呆れていたが、3日徹底的に指導し、基礎の連携して動ける状態にまでは何とか持ってこれた。
マキドは2人が前に滞在していたハレよりも多少大きな街だった。特に見た目に特徴らしき特徴はないが、低難易度ではあるがダンジョンがあるということもあり、多くの冒険者が街に入るために検問を待っていた。アランは自分自身でなぜダンジョンがあるという当たり前のことを全く知らなかったし、調べようともしなかったのか、大いに反省した。
一同は難なく検問を通過した。いつものようにゴリアテは城壁側でお留守番だ。街に入り、まずは宿を探そうということになり、アランが費用を全部持つから良い宿が良いと言い出したので、この街で最高級の宿に泊まることにした。
アランとユーラで1部屋、男性陣で1部屋、女性陣で1部屋という構成になった。アランは休むときくらいは思い切り休んでほしいということで、大盤振る舞いして3部屋用意することとなった。
一同が荷降ろしを済んだ頃、アランが全員を宿の食堂に集めた。
「皆、おつかれさん。単刀直入に言う。明日から全員でダンジョンに潜る」
アランの突然の宣言にユーラ以外の一同の目が点になる。
「アラン、本気か?」
「もちろん。しかもここのダンジョンはたった10階層の初心者向けダンジョンだそうじゃないか。これを使わない手はない」
「準備とかどうするのー?」
「今からそれを準備するんだよ。みんなにお金を渡すから、ユーラに同伴してもらって各自適した装備を今すぐに準備してきてくれ。それじゃあユーラ、頼んだ」
「人使いが荒いな。嘘だよ冗談だ、さあみんな行くぞ」
ユーラはまずギルドのマキド支部へ向かい、一番品揃えと質が良い武器屋を紹介してもらった。もちろん少額のお礼も忘れない。
そしてギルドから武器屋へと直行し、4人の身につけているものは、ボロボロの穴あき装備からピカピカの高性能装備へと一新された。
「見た目はもう立派な冒険者だな。あと出来ることと言えば、きちんと体調を整えて早めに寝ることだけだ」
「あのぉアランさん、本当に良かったの、あたしら装備の分のお金返せないよ」
「心配しなくていい、こっちが好きでやってるだけだ。それにみんなの装備の10億倍以上の物を頂いてるし。とにかく、明日から潜る、気合い入れてくれ」
「皆安心してくれ、こいつは見た目はともかく、戦闘に関してはスペシャリストだ」
「見た目はともかくってどういうことだよ...」
翌朝、一行はマキドの街東にあるダンジョンの入口前に集まっていた。昨日アランの助言通り夕食を食べた後は、各自思い思いの時間を過ごし、十分な睡眠をとったためか、4人の体調は万全だった。
「よし、みんな準備は良いか?目標は今日1日でダンジョン制覇だ」
「一日で!? アランそれは無茶だろ! 」
「無茶っていうのは努力していない人の言う言葉なんだよ...というのは冗談だが、大丈夫だ、俺を信じてくれ。じゃあ行こうか」
こうして一行はダンジョン入り口の扉を開け...ようとしたとき、横にいた衛兵らしき人が話しかけてきた。
「お宅ら、冒険者だよな?リーダーは誰だ?」
「うん?俺だけど」
アランは衛兵にギルドカードを見せる。すると若干横柄な態度であった衛兵が顔色を変え、次からは全く口調が変わっていた。
「ほんとにすみません、Bランクの方でしたか。最近低ランクの冒険者が無謀にもダンジョンに挑んで返ってこない事故が多発しておりまして。こうして確認を行っているのです」
「それはお疲れ様。このダンジョンには後ろにいる4人を鍛えるためにきた。高ランクは俺以外にも隣にいる彼女がAランクだが、通って大丈夫か?」
「はい、Bランク以上がお二人もいるなら安心です。どうぞお通りください」
こうして今度こそ一同はダンジョン内へと足を踏み入れた。
扉を抜け階段を降りると、第1層は特に変哲のない草原地帯だった。アランが探知魔法を使う。すると広範囲で魔物が散らばっていた。
「みんなは少し待っていてくれ」
アランは猛スピードで走り出し魔物元へ向かうと、大剣で挑発し注意をこちらに引きつける。それを繰り返し、6匹程度魔物が集まった段階でそれらを引き連れたまま一同の元へ戻ってきた。
「アランさぁん、どうして魔物なんか連れてくるのよぉ!! 」
「ただクリアしても意味ないだろ。みんなを訓練するために来てるんだから。じゃあ4人で連携してこいつらを倒してくれ」
アランが言い終わる前に、すでに魔物たちは4人に襲いかかる。不意打ちに近かったがなんとか回避することができたのを見て、ユーラは心の中で安心した。
「まずは陣形を固めろ。セイン、バルトが前へ出て後衛を守れ。レモンとウルは今使える補助魔法で前衛の2人をサポートしろ。確か2人とも対象者の身体能力を高める魔法持ってただろ」
アランが指示した戦い方で4人が動いていると、徐々に動き、流れを掴んできたのか、魔物の群れと対等に戦えるようになってきた。
「無理して一気に倒そうとするなよ。一体ずつ確実に仕留めるんだ。ユーラ、あいつらを見ててどうだ?」
「みんな筋は良いみたいだな。それにちゃんとお互いが意思疎通をとって動いている。今の所及第点は取れてると言っていいのではないか」
アランとユーラが見守る中確実に4人は魔物を仕留めていく。そして全てを殲滅するまでに、それほど時間はかからなかった。
アランは肩で息をしている4人を褒め称えた。
「なかなか良い動きだった。じゃあ一気に潜るから俺たちの後に付いてきてくれ」
アランは他の皆が付いてこれる程度のスピードで走り出す。そして近寄ってくる魔物を超火力の炎弾でまとめて始末していく。そして探知魔法を使用しているので出口まで最短距離で向かうことが出来る。
「凄いな...」
「動きながらでも全く隙がない」
ただ走っているだけでもその動きが4人にとって大いに勉強になった。これが修羅場をくぐり抜けてきた冒険者なのか、その実力が動きや雰囲気となってにじみ出ている。
あっという間に地下1階を突破し、その勢いのまま地下5階まで突っ走った。このダンジョンは地下10階までなので一気に半分まで潜ったことになる。
一同は地下6階への階段を下っていく。アラン、ユーラ以外の皆は気づかなかったが、階層が一つ下がるたびに敵が強くなっていたのだが、アランが一瞬で蹴散らしてしまうのでそのことがあまり伝わってなかった。それが後の戦闘でなかなか苦労することになる。
「よし、皆ちょっと待ってて」
「アランさん、また何か良からぬことを」
「その通り」
アランはそう言うと、再び魔物を探しに出かけていった。強すぎる魔物だと彼らが殺されてしまうかもしれない、丁度よい強さの魔物を見つけるのはなかなか難しいと、よくわからないことでアランは悩んでいた。
あれから少しした頃、アランが戻ってきた。後ろに巨大な魔物を引き連れて。4人は顔が引きつるが、すぐに冒険者として臨戦態勢をとる。
「今度はハイオークだ。今のみんなならきっと倒せるよ。では、健闘を祈る」
4人はアランに教えてもらった陣形をすぐに取る。まずは前衛のセイン、バルトが積極的が動く。
セインが大剣を振り背中をわずかに切り裂き、それに対応したハイオークがセイン目掛けて放ったパンチをバルトが思い切り斬り軌道をそらす。
軌道をそらされたことでバランスを崩したハイオークが転倒する。それを逃さず、レモンが炎の魔法を、ウルが雷の魔法を連発する。
辺りに焦げ臭い匂いが漂い、煙が充満する。周りが見えない状況に対応するため密集隊形を取った。探索の途中でアランとユーラの2人に教えてもらった隊形だ。
徐々に煙が薄くなったところで、4人は隊形を解除し周囲に避難した。風の動きからハイオークがパンチを放ってきたことを予測しての動きだった。
レモンとウルが魔法を放ち、ハイオークの動きを封じる。そしてその間にバルトが足の筋を切り裂き、倒れたところをセインが大剣で首筋を一閃した。
ハイオークの頭が落ち、後に巨体が体制を崩した。大物を倒せたことに4人は安堵していた。
「皆、よくやった。本来こいつはBランク相当のモンスターらしい。皆にはそれを倒せるほどの力が本来はあるんだ。いずれはこいつを1人でも狩れる精進してくれ。いつも仲間がいるとは限らないのが冒険者だからな」
その言葉に一同は深く頷いた。そしてセインがこれから自分たちはどう動くのかアランに尋ねる。
「みんなはさっきの戦いで疲れたから、後は俺たちに任せてくれていい。これから一気に最下層まで行き、ボスを倒す」
4人はそこからはついていくのがやっとだった。先程の戦闘で多少疲れていたこともあったが、アランの進む速度が尋常ではない。それも魔物を倒しながら。片手間で掃除をするように魔物を排除することに、4人は恐怖すら感じた。
こうして一気に最下層までやってきた。薄っすらと明かりが灯っている以外は天井も、床も黒色で統一され、中央にいかにも主がいると主張している大きな扉があった。
「さて、行くか」
普段の魔物を倒しに行くかのような調子でアランは扉を開けた。




