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第8話

 コスモとの食事はとても心地が良かった。アランは久々に心からリラックスして人と会話を楽しむことができた。また話し聞かせてくれよ、コスモの元気な声をもらい、2人は別れた。


 就寝までまだ時間がある。アランは街を散歩することにした。とはいっても当てはないので、ギルドを出てぶらぶらと街をさまよう。噴水のある広場に出た。近くにある椅子に腰掛ける。


 この時間だというのに、子供がいる。もちろん親が付き添っているが。このベルファトという街はかなり治安が良いらしい。領主の政治、都市の運営が上手くいっている証拠だろう。


 しばらくのんびりと景色を眺めていた。この広場は街の中で少し高台になっている。なので街の明かりが綺麗に街を飾っていた。それだけで精神的なストレスが軽減されていく。気がつくと随分と時間が経っていた。そろそろ戻ろう。アランは広場を後にし、ギルドへと帰宅した。


 自分の部屋の中で今回受けた依頼を思い返していた。色々あった。だが何とか想定外の事態にも対処できた。少しずつではあるが、冒険者としての技量が上がっていると、客観的に見てもそう判断できた。アランは確かな充実感で心地よい中、眠りについた。




 

 ベルファトへ戻ってからは、ひたすら鍛錬をして過ごした。鍛錬はいくらやってもやり過ぎということはない。こうして4日が経った頃、ギルド支部長のコナツから呼び出しがかかった。



 「こんにちは、アランくん。今日来てもらったのは、前にアランくんが捕まえた盗賊のことで話があったからなのよ。賊を尋問して特定したアジトに兵士を向かわせたところ、多数の貴重品、荷物があって、その持ち主の商人が換金されてたわ。救出された後にアランが賊を退治したことを聞いてお礼がしたいといってね。それで今この机にあるものから好きなものを一つ受け取って欲しいの」


 アランが机を見ると、そこには剣や鎧など、様々なものが置かれていた。


 「僕、装備はまだこのままで大丈夫だし、武器もこれがあるので......」


 アランがそう言って、背中に担いでいる剣をコツコツと叩いた。


 「じゃあこれはどう?アランくんまだ持ってないはずだから」


 そう言ってコナツが指さしたのは、長方形の濃い青色をした箱だった。取ってがついているので、入れ物のようだ。


 「これはアイテムボックスと言ってね。空間を無視してたくさんの荷物を入れることができるのよ。容量の大きさは12段階で最上級は無制限(アンリミテッド)だけど、とてつもなく値段が高いわ。これは4段階目くらいのものよ。それでも今アランくんが持ってる荷物、大剣も含めて全部入るはずよ?」


 「それはいいですね!」


 それを聞いてアランは思わず声を上げた。これがあれば冒険が格段に楽になる。


 「これにします。商人さんによろしく伝えてもらえますか?」


 「分かったわ。すごく喜んでたって言っておくね。あっそれともうひとつ!むしろこっちの方が重大事なんだけど」


 そう言ってコナツは背筋を正した。


 「この街の領主であるデューク・ゼイ・ベルファト公爵様が、アランを王城に招くよう通達が出されているわ」


 「え、僕がですか?」


 全く思いもよらないことだったので、アランは人違いなのではと思ったが、間違いはないようだった。


 「間違いなくアラン君、あなたよ。若くて将来有望な冒険者が出てきたから見てみたい、だそうよ」


 「はあ......」


 「明日のお昼前にお城へ行きなさい。これが紹介状よ。すっぽかしたら駄目よ?」


 不服ではないがなぜ自分なのか納得できないままアランは承知した。


 


 

 

 翌日ベルファト最大の建物、ベルファト城へアランは来ていた。大きく、そして壮観な城の雰囲気に圧倒される。見惚れていると、門から兵士が出てきて、アランに話しかけた。


 「君、ベルファト城に何か用かね?」


 「あっはい、本日お招きいただきましたアランと申します。これを」


 そう言って紹介状を手渡す。中身を改めた兵士が告げる。


 「確かに、ここで少しお待ちいただけるかな」


 そういって兵士は城の奥へと入っていった。



 5分ほどすると、メイド姿の女性が出てきて、アランの前で丁寧にお辞儀をした。


 「アラン様ですね、ようこそお越しくださいました。デューク様がお待ちです。どうぞこちらへ」


 「ありがとうございます」



 城内はそのものが芸術品と言っても良いくらい幻想的な作りになっていた。所々にステンドグラスが使われ、七色の光が降り注いでいる。廊下の広さだけで普通の家の一部屋が丸々収まるのではないかと思われるくらいの広さだった。


 大きな螺旋階段を登る。見上げると最上階まで続いているようだった。


 「デューク様は執務室にいらっしゃいます。こちらです」


 2階に昇ったところで階段を降り、廊下を進む。やがて突き当りに大きな扉が見えた。


 2人は扉の前に立つ。メイドが扉をノックする。


 「デューク様、アラン様がお越しになられました」


 「入ってもらえ」


 メイドが両開きの扉を開け、手をかざして奥へ進むよう催促した。メイドは中には入らないらしい。


 「あの、武器とかは預けなくて良いんですか?」


 「大丈夫です。貴方様を信頼していますから」


 アランは一礼して中に入る。


 「失礼いたします」


 中にいたデューク公爵は年齢は見た目30半ばくらいで、上流貴族の気品さを保ちながらも一切成金のような嫌らしさは感じさせなかった。


 「おお君がアランか、さあさあ、ここへ座ってくれ」


 思っていてよりもずっと砕けていてフレンドリーな様子のデュークに面食らいながらも、デュークの元へ急ぐ。テーブルには上品なお菓子が山盛りに添えられていた。


 アランは上等な椅子の横に武器を置き、恐縮しながら腰を下ろす。


 「コナツから話は聞いているぞ。メキメキと腕を上げているそうじゃないか。最近では20人以上の盗賊を一人で蹴散らしたというじゃないか。はっはっは、実に素晴らしい!」


 「はい、ありがとうございます......」


 「そう緊張するな。一応私には公爵という立場があるが、今は2人だけだ。そんなものは今はどうでもいい。楽にしてくれ」


 デュークは菓子をバリバリと食べながら話を続ける。


 「そんな将来有望な君をぜひこの目で見てみたくて今日こうして来てもらったわけだが、本題は別だ。アランに頼みがある」


 「頼み......ですか?」


 「ああ。私の娘と共に任務に赴いてほしいのだ。おい、入れ」


 デュークが声を上げると、ノックをした後女性が入ってきた。


 


 その女性が入ってきた瞬間、アランは思わず見惚れた。金髪の髪の毛をおさげにしており、モデル体型でありながら、着ている服からでも分かる鍛えられた体、豊満な胸、アランと同じくらいの長身、完全にアランのストライクゾーンだった。


 アランが目をぱちぱちさせている間に女性はアランの前に立ち、自己紹介をする。


 「先ほどお父さまの話しにあった、私がデューク公爵の娘、ユーラ・ゼイ・ベルファトだ。アラン、よろしくな」


 「こんなおてんばな娘だが、ある程度の剣の腕と、回復魔法をたしなんでいる。特に回復魔法はこの街でシズクは最上級の使い手だ。冒険者ランクはB」


 「Bですか!?僕とあまりに釣り合わないのではないでしょうか......」


 「そんなことはない。君はまだ冒険者になって日が浅いだけだ。ユーラのランクが高いのは、帝国の騎士たちと任務に当たっていた時に回復役としてついていったからだ。気にすることはない。というわけで本題に入ろう」


 デュークは体を前のめりにしてアランへ顔を近づけた。


 「アラン、君にはユーラと共に盗賊団を殲滅してほしい。さっきも言った通り、君は対人戦においても腕が立つ。どうだ、引き受けてもらえるだろうか?」


 「なぜお嬢様も同行なさるのでしょうか。殲滅するだけなら僕だけで良いのではないでしょうか......」


 「経験を積ませたいんだよ。なにせ帝国の任務は屈強な騎士たちにお守りされていただけで実戦の戦いがどういうものか分かっていない。君と二人だけで、本当の戦場がどういうものかを知ってもらいたいのだ」


 「はあ......それで盗賊団というのはどういった輩なのでしょう?」


 「ただの盗賊団じゃない。人身売買を専門としてる。しかもこのベルファトを拠点として。長いこと尻尾を出さなかったが、とうとうアジトの特定に成功した。斥候に調べさせたところ、主導者と見られる人物も今ならまだアジトにいる。事は急を要するのだ」


 アランは突然の事に頭が回らなかった。だが拠点としている街の領主の頼みを断るわけにもいかない。選択肢はなかった。


 「分かりました。お受けいたします」


 「そうか!感謝する!では急で申し訳ないのだが、今からアジトへ向かってもらえるか?道は斥候が案内する」


 「分かりました。それでは失礼します」


 アランは礼をいって執務室を出た。その後をユーラがついてきた。


 「アラン、私はまだ未熟だ、よろしく頼む」


 「ユーラ様、私もまだ修行中の身ですが、全力で任務に当たります」


 「ユーラでいい。それに言葉使いも普通にしてくれ。その方が気が楽だ」


 「は、うん、わかったよ」


 「準備にどれくらいかかる?」


 「僕は今すぐにでも行けるよ」


 「そうか。ならば急ごう」




 「ちょっとあれじゃ無理があったのではないですか?」


 奥に隠れていた女性が問いかける。


 「無理は合ったが、俺にそういう芸はできない。あいつには兄弟も友達もいない。その辛さはノーラも分かるだろ?」


 「ええ。あなたと出会っていなければ、私は孤独のままの一生だったでしょう」


 「ユーラにもそうなって欲しくない。それに見たところ、彼は良い男みたいだしな」


 そういって笑うデュークは、まさに一人の子を想う親の顔をしていた。





 ベルファトの北門を出て北西に30分ほどのところにある森。その中に盗賊団のアジトはあった。天然の洞窟の中にあり、しかも無数の木々が洞窟の入り口を隠すように生い茂っていたために、今まで発見が遅れた。


「極力生け捕りにするの?」


 アランの問いかけに斥候が答える。



 「いえ、殺してしまって大丈夫です。我々の調査で上部組織などはないことが確認されています。一人残らず殺してしまって構いません」


 「だ、そうだ。アラン、もし怪我したときは私がいるから安心するといい」


 「なるべくそうならないようにするけど、期待してるよ」


 2人はアジトへ向かって歩みを進める。



 



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