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第78話

 魔導車を使ったお陰でちょうど太陽が真上に来る頃には洞窟が目で見える距離までたどり着くことができた。


 ゴリアテは念話で城壁の側でもう少々待機しておいてもらうことにした。彼が戦闘に参加すると戦果を全て持っていかれてしまうからだ。


 大きな樹の死角になる位置に魔導車を止める。アランとユーラはこれから散歩でもするかのような気楽な表情をしていたが、ドリスは緊張感からすでに戦士の表情をしている。



 「どうして2人はそんなにリラックスしてられるんだ?」


 「まあ、強いて言えば慣れてるからな。もちろん怖くないわけじゃないよ」


 「それで、どうする?」


 「ここからも見えるが、外に見張りが2名、そして中に45名だな。連れ去られた人や人質のような人は見当たらない。それなりに自由に戦えるぞ」



 「どうしてそんな事が分かるんだ...?」


 「俺がオリジナルで作った敵の位置を探る魔法を使ったんだ。まずは入り口の2人を仕留めよう」



 ドリスに待機して待っていてくれと指示を出し、2人は動いた。洞窟の裏側へ周り、高く跳躍するとアランが大剣で見張りを真っ二つにする。自分が絶命したこともしらないまま命を絶たれた。


 それに気づいた2人が見張りを呼ぼうとした時、首はすでに体から離れていた。ユーラがロングソードで斬首していたからだ。



 「よし、中へ入ろう」


 「...一切躊躇がなかった、どれだけ人を殺してきたんだ...?」


 「ドリスだってできるだろ?迷えばイコールで死ぬときだから。中ではドリスも働いてくれよ」



 すでに探知魔法で洞窟内の構造を把握していたアランは、あえて敵に見つかるように堂々と中へ入る。そして3人に気づいた盗賊の1人を電光石火の動きで斬り倒すと、一気に洞窟内は混乱状態に陥った。



 「基本的には俺が片付けるから、ユーラとドリスはもらした奴を頼む」


 「分かった」 「後ろはしっかり守るから、安心しろ」



 洞窟内は一本道で一番奥で2つの部屋に別れている構造だった。続々と盗賊がアランへと襲いかかる。


 慢心さえしなければ必ず勝てるこの戦いであったが、良い機会なのでアランは前に手に入れた魔導書の魔法を使ってみることにした。


 財宝類は後でギルドを通して被害者に返す必要があるため、炎の魔法などは厳禁だ。そのため、アランは身体強化の魔法を使うことにした。



 「彗星のごとく」(コメット・スター)



アランの体に白い霧のようなもので包まれる。そして強化されたアランの動きは、ユーラとドリスを置き去りにした。


 2人にはかろうじて視界に捉える程度の超速で敵を斬り倒していく。もちろん槍や剣で襲いかかり反撃する盗賊もいたが、斬りつける初動の動作の段階で、すでにアランは敵の体を両断していた。


 もはや目に追えない速度で奥へと向かうアランへ無闇についていくことはせず、ユーラとドリスはわざと残したと思われるのこりの盗賊を撃退していく。


 ドリスは体格や見た目からは想像しづらい冷静な戦い方で、堅実に敵を葬っていく。それを見たユーラはアランにこそ敵わなかったとはいえ、彼もなかなかの実力者だと判断した。


 アランはすでに最奥にある片方の部屋に到着していた。もう一方の部屋は後から来るユーラとドリスに任せることにした。



 「お前、何者だ...?仲間をみんな殺しやがって」


 「ただの冒険者だ」


 「チッ...」



 盗賊の首領と思わしき男が大型の斧で襲いかかる。だが見ていて眠くなるほどの動きの悪さに、アランは一瞬で勝負を付けることを決めた。



 「雷撃」



 アランが手をかざし、そこから電撃が首領を襲う。感電した首領が絶叫を上げる。首領だけは後ほど取り調べなどがあるため、死なない程度で攻撃を止めた。


 すぐに後の2人が追いついた。体の所々から煙を上げている首領の姿を見て苦笑している。



 「こいつが盗賊のボスでいいのか...?」


 「そうだと思う。街の衛兵に引き渡してくれ」


 「分かった。もう一方の部屋にはこいつらが盗んだお宝が山盛りだぞ」


 「そいつも持ち帰らないとな、ユーラ、そこまで案内してくれ」



 一旦二股の合流先まで戻り、反対側の道を下りもう一方の部屋へ着くと、アランは盗んだ宝の多さに思わず呆れた。


 ざっと全ての盗まれた品物を見渡していく。とその時、アランの目に留まる物があった。


 これはアイテムボックスじゃないのか?自分が持っているものとよく似ている。気になってユーラにこれを見てもらった。



 「アラン!! これただのアイテムボックスじゃないぞ! 無限級(アンリミテッド)だ! 」



 アランは素っ頓狂な声を出してユーラの元へ直行した。喉から手が出るほど欲しい物が今目の前にある。



 「これの元の持ち主は誰だろう、譲ってもらえないかな...」


 「難しいと思うぞ、無限級(アンリミテッド)は国宝級だからな」


 「もしかしたらその人がものすごく優しいという可能性も僅かにある...と思いたい。街に戻ったら持ち主を探そう」





 盗まれた品物の運搬には魔導車を使った。荷物運搬用ではなかったため、全ての品物を街に移すのに6往復ほどかかり、全て移し終えた時には丁度日が暮れた頃だった。


 ハレの街は、広場で衛兵とギルドの職員などが総出で品物の整理をし、ものすごく忙しい雰囲気を出していた。


 アランはアイテムボックスの持ち主を探すため、衛兵長を探し出し交渉に入る。



 「すみません、このアイテムボックスの持ち主を知りませんか?無限級(アンリミテッド)なんですけど...」


 「え!?無限級(アンリミテッド)のアイテムボックス見つかったんですか?それは元々この街の商人のリホさんの物です。売り物じゃなくて彼女の家の家宝だったんですが、堂々と飾っていたのが災いして盗まれてしまってたんです。彼女に相談してみてはどうでしょう」



 一旦すべての品物はギルドの倉庫で保管することになり、アランが目当てのアイテムボックスについては翌日彼女の元に相談に行くことが決まった。


 そして移動、戦闘、品物の移動で疲れたアランとユーラはドリスと別れハレの街で一番高級な宿を取り、直行で部屋へ行きベッドへダイブすると一瞬で眠りについた。





 翌日2人は街外れにあるリホの元を訪れた。商人の家だから壮大なものを想像していたが、実際には他の家よりも少し大きい程度の普通の家だった。


 呼び鈴のベルを鳴らすと程なくして玄関のドアが開かれた。



 「こんにちは、リホです。どうぞお入りください」



 リホは髪を短く切った細い目をしていた。商人とは一見分からない地味な色の服を着ている。  


 広い廊下を歩き、応接室へと通された。アランは早速本題に入る。



 「早速本題に入りたいのですが、リホさんのアイテムボックスが見つかりました。昨日俺たちが壊滅させた盗賊団が盗んでいました。リホさん、俺たちに譲っていただくことは出来ませんか?何か条件などあれば言ってください」


 「そうですね...まずは盗賊団を排除していただきありがとうございます。最近は手口も大胆になってきて被害が増えていたところでした。アランさん、ユーラ様にはこの街にすごく貢献していただきました。ただあのアイテムボックスはとても貴重なものですので、こういう条件はどうでしょう? 」




リホは側に置いてあった鞄から1枚の書類を取り出した。



 「このリストはこの街の冒険者の名簿です。たった紙1枚で収まってしまうくらい数が少ないんです。もちろん衛兵は国から十分な質を備えた方々を派遣していただいています。


 ですが冒険者は街の雑用なども行ってくれるので、街に欠かせない存在です。そして強さの面ではドリスさん以外実力のある方は少ないのです。そこでお二人にはこの街の冒険者に主に戦闘面を鍛えていただきたいのです」




 国宝級の品物を譲ってもらうのには破格の条件であった。だがアランは今まで人に戦い方を教えたことなどない。アランなりに精一杯なにか出来ないか考え、一つの案を提示する。



 「戦闘とは実戦で鍛えるのが一番です。ですので少しの間俺たちの旅に同行しませんか?全員は無理なので将来有望な人数人が限界ですが。これでどうでしょう? 」


 「分かりました」



 アランとしてはこの条件では難しいかと思っていた所で二つ返事で快諾されたことに拍子抜けだった。



 「本当のところ、私の気持ちとしては無料でお譲りしても構わないのです。ですが私は商人です。それが貴重な品を無料でということは立場上できないのです。それともう一つ。私はこの街が好きです。小さいけれど穏やかで住む人が暖かいところが。なので条件をこれにしたのは、この街が末永く歴史を紡いでくれることを望んだためです」



 リホの話を聞き、2人も故郷のベルファト、王都を想い返した。離れた今でもそこにいた人たちと、街そのものと気持ちはつながっている。だからこそ彼女の気持ちがよく理解できた。



 「俺たちもまだこれからどうするか決めていないので、出発する日や、向かう先が決まり次第リホさんに連絡します」


 「分かりました。せっかくこの街にいらっしゃったのです。ゆっくりなさってください」



 こうして2人はリホの屋敷を後にした。帰る際も丁重に見送りをしてくれたその姿に特にユーラがとても良い印象を持った。



 「アラン、この街で少しだけゆっくりしていかないか?」


 「そうだな、3日くらいなら良いよ。ただどこかで訓練できる場所を探さないと。腕が鈍る」


 「お前は年がら年中訓練だな。いや責めてるのではなくとても良いことだが、休んだりしないのか?」


 「滅多に無い。一晩寝れば疲れもすぐに取れるからな」


 「おお、そうか...。その姿勢は純粋に尊敬するよ」





 その後2人はハレ市街を観光した。街の大きさほど程々ではあったが、この街は裁縫が盛んで、すごい数の服屋があった。ユーラは目を輝かせ順番に店を見ていった。


 そんなユーラをアランは見つめていた。言葉こそ男勝りなところがあるが、こうやって女性らしい部分を見ることができ安心した。



 「アラン、次行くぞ!」



 楽しく買い物をするユーラを見ることが出来てアランは幸せだった。王都では激務に追われたと聞いていたので、こうして2人で旅をすることができている今この時を大切にしようと心に誓った。







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