第70話
王都は夜も眠らない。塔がそびえ立つ中央部は深夜も人の流れが血液のように流れ続けている。だが一方で、王都の端の方では夜の闇に従い静かに過ごす住人も多い。
アラン達が襲撃する窃盗団のアジトも眠りについていた。もちろん警備のために数人かは起きて巡回していた。
その見張り番が一瞬で倒された。1人はノークが、もう1人はマンセルが、首をあらぬ方向に曲げ絶命させた。
「どうする?このままやれば全滅させることは可能だが、取り調べが出来なくなる。あっちの方の生存者に期待するという方法もあるが」
「...我々で捕らえよう」
「よし」
屋内との境目に魔力の障壁が張ってあった。そこにあえて歩いて侵入する。するとけたたましい鐘の音が鳴った。
「敵襲か!?」
「ああ、その通りだ」
真っ先に2人の前に出てきた盗賊が戦闘の構えをする前に、マンセルの蹴りで顔を粉砕され絶命した。
次々と盗賊が奥の部屋などから出てくるが、ノークによって叩き斬られる。一方のマンセルは範囲を限定した炎魔法で確実に盗賊だけを燃やしていった。
「降伏する、助けてくれ」
「おめえ、降伏するだと!?覚えとけ...」
脅しをかけた盗賊が最後まで台詞を言い終えることはなかった。落とされた首が床をゴロゴロと転がる。
「一度だけチャンスをやろう。投稿すれば人道的に裁判を受け、正当に罰せられる。だがここで抗えば、待っているのは死だけだ」
ノークの警告に次々と盗賊が武器を捨て両手を上げ投稿してきた。マンセルが魔力の縄で自由を拘束する。
最後の盗賊の処置に移った時、突然盗賊がマンセルめがけて走り出した。
「どうせ裁判なんか受けても待ってるのは死刑だ、それならここでお前を殺る!」
「あーあ、せっかく生き延びるチャンスを与えたってのに、勿体無い」
ノークのぼやきが終わる頃には襲いかかった盗賊はマンセルに首根っこを捕まれ、そのまま床にフルスイングで叩きつけられた。頭が粉砕され中身が飛び散り、見るに耐えない光景が広がる。
残りの盗賊はそれを見て完全に抵抗する意思を失った。
「おい、首領はどいつだ?」
「...今あんたらが殺したやつがそうだ」
「あらまあ、やっちまったか。でもまあいい、お前らから話を聞ければ十分だ。マンセル、行くぞ」
こうしてノーク・マンセルチームは何事もなく片方の本拠地を制圧した。
「あれがあたい達が担当するアジトだ」
「死角がないですね、突入するときは丸見えになります。どうしますか?」
「死角がないのなら、建物ごと一気に爆破しましょう」
アサノの突拍子もない提案に2人は目をぱちくりさせた。
「でもいいのかそんなことして。生存者を残すことは絶望的になるぞ」
「ノークさん達も私達が、特に私が手加減を知らないことは承知しているはずです。迅速に済ませてしまいましょう」
「わかった。アラン、お前はアジトから出てきた雑魚を順番に倒していってくれ」
「はい、分かりました」
「準備は良いですね?では行きます。魂から光を失いし者に安息の炎を 局地爆破
呪文を唱え終わった途端、アジトが大爆発を起こし、炎に包まれた。建物からもくもくと煙が上ってきている。
「これ生存者なんているんですか...?」
「ちゃんといますよ、ネズミのようにワラワラと飛び出してきてるではありませんか」
「今日のアサノは辛辣だな...」
アサノがアジトを爆発させたことで、コスモとアランにはすでにやれることは多くなかった。爆発から難を逃れた一部の盗賊は、目を血走らせてこちらに向かってくる。それの対処はアランが行った。とはいってもいつものように大剣で叩き斬ることが主ではあったが。
「これで一丁上がりか」
「そうですね、あちらと合流しましょう」
結局アラン、アサノ、コスモ組の方で生存者は出なかった。
ノーク、マンセル組に3人が合流した時は、王都の警備隊が盗賊たちを連行しているところだった。
「おう、そっちは大丈夫だったか?」
「3人とも無傷だけど、敵は全滅だ」
「やっぱりか...こっちで確保しておいてよかった」
「おい、アランじゃないか?」
「というか最初から活かす気なかったじゃないですか」
「おい、アランだよな!?アラン!!」
「あの、誰か俺を呼びましたか?」
「いいや、呼んでないぜ」
「アラン、助けてくれ!」
「いや、確かに今聞こえましたけど...」
声の聞こえた方を見ると、1人の男が叫んでいた。犯罪者なので当然手を後ろで縛られている。特徴的な金髪もあってなかなか美形の顔に見えるおまけに鍛え上げられた体が服の上からでも分かり、お縄を頂戴していなければ貴族と言われてもおかしくはない。
「あいつのこと知ってるか?」
「いえ、全然」
「じゃあなんでお前の名前を知ってる?」
「俺に聞かれても...」
一行はその場を去ろうとした、その時。
「孤児院にいた頃一緒に遊んだじゃないか!俺はお前のことをラン、お前は俺のことをジェンって!覚えてないのか!?」
ピタリと足を止めた。ゆっくりと振り返り、ジェンという名の男をじっと見つめた後、少しずつ近づく。
「衛兵さん、ちょっと待ってください」
アランの言葉に従い、衛兵が歩みを止める。
「俺は幼少期の記憶が全く無い。お前の言っていることは本当か?」
「アラン、本当に記憶がないのか?そんな...」
「お前の言っていることを証明できるか?」
「証明?ああ出来る、衛兵さん、右ポケットのペンダントを取ってくれないか」
衛兵がジェンという男のポケットをまさぐると、言っていたとおりペンダントが出てきた。
「中身を見てくれ」
衛兵が中身を出すと、幼い2人の少年が肩を抱き合っている絵が折り畳まれて収められていた。
アランはもちろん、夜明けの民のメンバーもその絵を見た。そして驚愕した。
「似てるなんてもんじゃない...」
「この絵の子を大きくしたら今のアランになると簡単に分かるな...」
突然の事態にこの場をしばらくの間沈黙を支配した。
「衛兵さん、この男はこれからどうなりますか?」
「この男は数多くの窃盗だけでなく、我が王国の民を殺しています。裁判ののちに死刑になるのは確実でしょう」
「その裁判、しばらく延期にすることはできませんか?」
「そうですね...少々お待ち下さい」
衛兵はそう言って男の身柄を他の仲間に任せ、走って建物の中に走っていった。恐らく上司に相談するのだろう。そして少しほど立った頃、上司と思わしき人と共に戻ってきた。
「アラン殿、あなたは確かある一定から過去の記憶が一切ないことは聞いています。この男がそれを知っていると?」
「その可能性が高いです、なんとかしてもらえませんか?」
「そうですか......分かりました。何とかしましょう」
「ありがとうございます」
アランはそれを言った後、少しジェンから離れるため少し歩いた後、その場にしゃがみこんでしまった。
「大丈夫、何があってもアランさん、あなたはあなたです」
アサノが優しくアランの背中をさすった。
「で、これは一体何の集まりですか?」
王都内にある夜明けの民が使用している宿にメンバーとユーラが集まった。狭くはない部屋ではあったが筋肉隆々のマンセルとノークがいるだけでこの場所が狭く感じた。
「ユーラ様、アランを囚人に会わせるかどうかの相談ですよ」
ノークがらしくない渋い顔で言った。
「それを私たちが決めることですか?アランがそいつに会って過去のことを聞きたいならそうすればいいだけなのでは?」
「ですが、彼は戦闘の腕ばかりが上達して、精神面はまだ未熟です」
ユーラの指摘にアサノが懸念すべきてん提示する。だがむしろ余計に彼女は納得出来なくなった。
「それはこうやって私たちが彼を囲い守っているからではないのですか?私たちは彼に対してあまりに過保護すぎます」
「あたしはユーラ様の意見に同意ですぜ。心の強さは自分自身で鍛えるしかねえ」
「コスモさんの言う通りです。そもそもこうやって影でアランのことを話すのは私は嫌です。隠し事をしてるみたいで。それに彼のためにもなりません」
声を張り上げたユーラに全員が驚いた。ごく稀に感情を出すことはあった。だがアランのことも深く愛していることも皆が知っていたが、それを表に剥き出しに出してくることはそうそうなかったから。
「......アランに任せよう」
「マンセル、あいつはそれであいつは大丈夫だろうか。ガキの頃から見て来たからつい心配になってしまってな」
「あいつには自分の過去を知る権利がある。それにこの程度の事で倒れるのならそれまでの器であったまでのこと」
この言葉を最後に集会は解散となった。ユーラが部屋を出て行くときに扉を殴るように閉めたことが、いつまでも皆の心をざわつかせた。
王都警備隊本部にアランの姿があった。用件はもちろん自分の過去を知っているというジェンという男との面会。
「その男とはいつ頃会えそうですか?」
「アランさんには申し訳ないのですが、彼が今まで犯してきた犯罪を把握するための取り調べをしなくてはなりません。ですので明日や明後日という訳にはいかないのです」
「それは分かっていますが...」
「私が言う事ではありませんが、こう言う時こそ心を平常に保つ努力が必要かと。その方が実際話を聞くときに正面から受け止められるでしょう。特にアランさんの場合、ベルファトに来るまでの記憶が一切無いことから、どんな話が出てくるか予測ができません」
「それは例えば、過去に良く無い事をしている可能性もあると言うような意味ですか」
「アランさんの人柄からして可能性は低いですが、ゼロとも言えないですよね?万が一反社会的な事をしていたとしても、ベルファトで生活し始めて以降の実績で大抵のことは恩赦になるとは思います。ただ問題はそこではなく、アランさんご自身がその重みに耐えれるかどうかかと」
少し前、ユーラに自分は何者か知りたいと言っておいて、いざそのヒントを得られる機会が訪れた途端動揺すると言うのは、相変わらず心が弱い証拠か。心の中で自分を軽蔑した。だが乗り越えなければ。アランは衛兵長に面会できる日が決まれば教えて欲しいと頼み、本部を後にした。




