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第69話

 「おい、オークがそっちに行ったぞ!」


 「あいよ、任せとけ!」


 「やべえ、トロールが4匹一気に来やがった。アラン、頼む!」


 「はい、分かりました」



 まず先頭にいた1匹目を炎弾で焼き尽くす。その間に背後に回った2匹目を振り向きざまに斬る。すぐに3匹目の元まで接近すると大剣で巨大な3匹目の体ごと叩き潰す。それを見て恐怖を感じた4匹目が逃げ出すが、アランが地面から発生させた炎の柱に飲み込まれ、跡形もなく消滅した。



 「殲滅、終わりました。次の対象に移ります」


 「お、おう...助かったぜ」


 「アランのやつ、機械みたいな調子で敵を片付けやがった...」


 「アランのことはいい、各自自分でできることをしっかりしろ」



 今日も外壁建築作業における護衛任務を冒険者達が行なっている。基本冒険者は協力して敵を殲滅していたが、内心はやはり自分の手柄が気になるものだ。


 とはいえ現実は、アランが他の冒険者の倍以上のペースで敵を叩き潰していた。かと言ってリーダーの指示を無視するといったことはせず、きちんと統率された動きの中にいた。



 「アラン、どうやったらあの動きができるんだ?」


 「日頃の訓練の賜物だろ。普段暇を見つけてはトレーニングしてたぞ」


 「どりゃあああ!!これで7匹目だ、アランは何匹目だ?」


 「41匹目です」


 「......いいぞアラン、どんどん行こうぜ!」


 「ゼル、気にするな。お前は十分頑張っている」





 日が傾いてきた頃本日の建築作業も終わり、それに伴って護衛任務も終了した。普段ならすぐに終了するのだが、今回はリーダーが少し話があると言って冒険者のみんなを集めた。



 「お前ら、今日もご苦労だった。本日は参考までにお前らが討伐した魔物の数をベスト4で発表する」


 「おぉ、こいつは面白そうだな」


 「4位、ノルーン 33匹 3位 パトリック 50匹」


 「お、ここでこいつらが来たか」


 「2位、シンシア 76匹」


 「トップはやはり、あいつか。とうとうシンシアも抜かれたか」


 「才能あるものが誰よりも努力してるからな、問題はどれくらいの戦果なのかだ」



 冒険者がそわそわしながら発表されるのを待っている。それを満足げに見ていたリーダーが若干勿体ぶって発表した。



 「1位 アラン 120匹」



 発表とともに大きなどよめきが生まれ、その後少しずつ拍手が生まれ、やがて盛大なものとなった。



 「よ、アランすごいぜ!」


 「ユーラ様のお相手はやはり実力もピカイチか」



 全方位からの拍手にアランは丁寧にありがとうとお礼を言った。


 その様子を影から見守る人たちがいた。1人はアランの友人でもあり冒険者でもあるシドル、残りは冒険者ギルド本部の重役2人だった。



 「どうです?彼は」



 シドルが重役の2人に期待を込めた意見を求める。



 「確かに素晴らしい。純粋な戦闘能力、判断能力、仲間に危機が訪れた時にカバーできる点、十分に条件は満たしています」


 「では、アランは昇格ですか?」


 「それが難しいところです。実力は完全に到達していますが、彼はまだ若い。昇格させて彼が慢心しないか私は心配なのです」



 それを聞いたシドルはまっすぐアランを見つめる。シドル自身の目から見ればアランは慢心するような性格にはとても見えない。だが重役の言うことも間違ってはいない。


 その時、今まで喋っていなかった女性の重役が口を開いた。


 「では、こうしませんか?こういうことはあって欲しくはないですが、何か有事があった時に彼の活躍度合いに応じて判断するというのでは」


 「...なるほど」



 その後もシドルと彼ら2人の相談はしばらく続いた。





 数日後、アランは1日休みをもらった。よっしゃとばかりにゴリアテを王都郊外の平原に呼びつけ訓練を行う。


 平原へ向かう途中ゴリアテがドスドスと地面を振動させながら歩く様子にも、王都民はすっかり慣れたのか驚く人は皆無だ。



 「よし、始めよう」



 一直線に行かず撹乱させる動きでゴリアテに接近すると、最小の溜めで大剣を振り抜く。ゴリアテはそれを右手だけで弾いた。


 すぐに反撃が来ると予測したアランが一度距離を取ろうとしたが、移動先にワープして待ち構えているのではという思いから一瞬躊躇が生まれた。


 その隙を狙われ左手で腹を打ち抜かれ吹き飛ばされる。


 さらに追い討ちをかけてゴリアテが背後にワープしてきたが、それを予期し攻撃を防いだ。それを合図に一度距離を取る。



 「どうだゴリアテ、少しは強くなったかな俺は」


 「確実に戦闘技術、能力共に上昇している」


 「このまま続ければいつかゴリアテに勝てる日も来るってことか」


 「今の我の力は20%だ」


 「...先は長いな」


 「おーい、アラン!!」



 名前を呼ばれた方を向くと、コスモがこちらに向かっていた。相変わらずのポニーテールがよく似合う。そして今日はなぜか分からないが、裾の短いパンツと体のラインが出やすい上着を着ており、とても魅力的な女性に見えた。


 失礼な話、ここまでコスモさんが美人だっただろうかと心の中で思ったのを、どうやらコスモが感づいたらしい。



 「ユーラ様という方がありながらあたしに恋しちゃったのかい?」


 「違います、今日のコスモさん綺麗だなと純粋に思っただけですよ」


 「素直に言える男はレディにモテるぜ。うんうん、良いことだ」


 「俺にはユーラがいるからもう大丈夫です」


 「ヒュー、お熱いねえ」



 相変わらずの調子にアランは苦笑いをしながらも、昔よく世話になった時のような懐かしさを感じた。



 「それで、今日はどうしたんですか?」


 「お前に頼みがあって来たんだ」


 「頼みですか?」


 「ああ、それをいう前に、ちょっと待ってろよ」



 コスモが音を遮断する魔障壁を発生させる。



 「実は、うちのパーティに大きな依頼が来た。だがこれが相当厄介なものになりそうでね。あたいはアランの力が借りれれば怖いもの無しだと思って声をかけた」


 「...はあ、なるほど。それはどんな依頼ですか?」


 「人殺し」


 「......え?」


 「悪い悪い言い方が悪かったな。確かに人を殺すとはいっても、相手は王都を拠点にしてる盗賊団だ。しかしこいつらの実力が半端なくてな。人を殺すことを躊躇しているようでは全く話になんねえんだよ。その点アランはこういっちゃなんだが、そこのところ覚悟はできてるだろ?」


 「はい。冒険者である以上そこは避けて通れません。はっきり言って好きじゃないですが、やれます」


 「そこで好きと言われちゃこっちがどうしたら良いか分からなくなるわ!とにかく、お前さんが助けてくれるなら安心だぜ」


 「夜明けの民のメンバー全員でも厳しい相手なんですか?」


 「はっきり言ってそうだ。だからこそ、お前がいれば安心だ」


 「なるほど。それで時間はいつですか?」


 「今日の深夜」


 「かなり急ですね」


 「この依頼は王都警備隊と連携して組んでる。そんであちらさんが敵のアジトを発見したんだ。と言う訳でこれからあたい達で簡単な打ち合わせをしたいんだが、アランこの後は空いてるか?」


 「はい、大丈夫です。ゴリアテとちょっと遊んでいただけですから」


 「よし、じゃあ行こうぜ!あれに乗せてくれよ、魔道車!」



 王都に戻る途中、魔道車の後部座席に乗っていたコスモは興奮しっぱなしだった。これに毎日乗れるお前とユーラ様は幸せだなと言われ、アランはただただ笑い返した。


 王都の門前で魔道車を降りる。アジトがバレると困るから、魔道車は目立つので門兵に車を預ける。



 「ここからは駆け足全力で行くから、頑張ってついて来な」



 そう言って2人は走り出した。普通の人の2倍くらいの速度で街中を疾走する。最初は大通りを走っていて爆走してる様子を振り返る人も多かった。


 少しずつ道が細い方へと進んでいく。それでも走るスピードは衰えない。蜘蛛の巣のような細道の区域をコスモは完璧に理解していた。


 中流区画の中でも比較的庶民派の人々が住む区画にたどり着いた。



 「着いた、ここだぜ、さあ入った入った」



 他の建物と似たようなクリーム色の2階建てだった。完全に四角形の形をしていて、変わった形だなと内心思った。


 中に入ると、ほとんど物が置いていない殺風景な内装が目に入った。あるのは最低限のソファやテーブル、わずかに彩りを加える絵画が入った額縁など。


 どうやら部屋というようなものはなく、1階は壁などをぶち抜いてこの広い部屋だけにしているのだろう。


 ここに座ってくれとコスモに言われ、ソファに腰を下ろす。思っていたよりもかなり上等なものだったようで、アランは座って5分ほどで眠くなって来た。ちょうどその頃、2階へ続く階段から足音が聞こえて来た。



 「すまんアラン、待たせたか」


 「いえ、さっき来た所です」



 ノークが相変わらず大きい図体を揺らしながらドカっとアランの横に座った。



 「マンセルとアサノは外に出てるから俺から説明する」



 ソファに前のめりに座り直し、アランを見ながら口を開く。



 「盗賊団のアジトは2箇所。これを同時に急襲する。片方はマンセルと俺、もう片方がアサノ、コスモ、そしてお前だ。相当な手練だ、決して油断するな。散々悪さをしてきた連中だ。基本的には皆殺しで良い。だが命乞いをするやつが出てきたら可能な限り応じろ。」



 「はい」


 「コスモはともかくアサノは遠距離型だ、しっかりカバーしてくれ。あとは2人との連携も忘れるなよ」



 「分かりました。あのノークさん、大丈夫ですか?少し疲れてるように見えますが」


 「ああ、そうだな。この前の連邦との戦いからほとんど休み無しだからな。でも大丈夫だ。このくらいでへばったりはしない」


 「そうそう、ノークは殺しても死なないから平気さ」


 「人を人外みたいに言うな」



 話がまとまった頃、ユーラに連絡するのを忘れていたことに気がついた。以前でかけた時彼女に帰るのが遅くなるといい忘れてしまい、戻ったら抱きついて号泣されたことを思い出した。



 「すみません、ユーラに連絡しないと、心配されます」


 「大丈夫だ。それもこっちでやっておく。しかしお前ほんとにユーラ様にぞっこんだな、とても良いことだが」


「あはは、助かります」



 アランは夜の依頼に備えてアジトに備え付けられているベッドで休むことにした。以前よりも俺は成長している、自分を信じろ。そう言い聞かせ、アランは眠りについた。










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