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第68話

 「アラン、朝だぞ」



 すでに日は昇っている。にもかかわらずアランはベッドでシーツにくるまったまま動かない。



 「おーい、アランもう起きないといかん時間だぞ」



 ユーラの声を聞き、さらにベッドの奥に潜り込んだのを見て、それほど落胆していないため息をつく。



 「お・き・ろって言ってるだろ!!」



 ドスドスと音がしそうな歩き方でベッドまで行くと、シーツを無理やり引き剥がした。その勢いでようやくアランがゆっくりと目を開けた。



 「どうだ、起きる気になったか?」


 「...ああ、おはよう」


 「珍しいな、アランが寝坊するなんて」


 「...いろいろ考え事をしてたから」


 「......そうか」



 ユーラはそのことについて深く尋ねることはしなかった。



 「今日は休みだろ、これからどうするんだ?」


 「うーん、何も決めてない」



 なにも予定を決めていないというアランの言葉を聞いて、ユーラが笑顔になって尋ねた。



 「それなら、久しぶりに一緒にどこかに出かけないか?」


 「出かけるってどこに?」


 「そんなのどこだっていいんだよ、好きな人となら」



 そう言ってアランの腕を引っ張り無理やりベッドから引き剥がす。まだ頭が覚醒していないアランにムチを打って着替えさせる。


 寝ぼけている所いがいは完璧に冒険者の風貌になったアランの手を引き、1階への転移魔法陣へと急ぐ。



 「アラン、どこか行きたい所はないか?ないって言うなよ?ほんとにどこでも良いんだ」


 「そうだな、うーん......公園でも行こうか?」


 「よし、決まりだな!」



 塔を出て、のんびりと王都の壮大な街路をゆっくり、のんびりと歩く。手を繋ぐ2人の姿は間違いなく年頃のカップルに見えた。


 公園へと向かう途中幾人もの人とすれ違う。



 「ねえ、さっきの2人、冒険者アランとユーラ様じゃない?」


 「うん、きっとそうだよ。ユーラ様良いなあ、素敵な男性を見つけて」




 「おいおい、今すれ違ったのユーラ様とアランさんじゃねえか?」


 「ああ。ユーラ様は幼い頃から抜きん出てたからともかく、アランさんも最近は他の冒険者をごぼう抜きする勢いで力を付けている。下手な連中ではまともに相手にならんだろうな」



 すれ違うたびに驚く者、通り過ぎてからひそひそと話をする者など反応こそ様々であったが、そのほとんどがアラン達を尊敬する声であった。それを聞くことがユーラは自分が褒められること以上に嬉しかった。



 公園へ到着すると、近くにあったベンチに腰を下ろす。そろそろ春が訪れるとあってか、たくさんの人で賑わっていた。



 「ママ、アラン様だよ!」


 「......ん?」



 自分を呼ぶ声が聞こえた気がしてアランが声の聞こえたほうを向くと、白い帽子をかぶった小さな男の子と母親らしき人がいた。


 そして、てくてくと男の子がこちらの方へ近づいてくると、満面の笑みでアランの顔を見た。



 「アラン様だよね!?」


 「ああ、そうだよ、俺がアランだ」


 「わあ、本物だ!!」



 男の子はそう言って興奮のあまりその場で飛び跳ね始めた。喜んでいると判断したアランが男の子を手招きしてこちらにくるように呼び、軽く頭を撫でながら言った。



 「冒険者になりたいのか?」


 「うん!」



 アランは複雑な気持ちを抱いた。冒険者という職業はランクを上げ強くなれば実入りも大きいが、それには常に命の危険が伴う。



 「そっか。それじゃあまずは大事なママを守ってあげなよ。ママも喜ぶから」


 「うん!!」



 男の子は走って母親のところへ戻っていく。それを複雑な思いを抱えながら見送った。



 「アランも尊敬される存在になったんだな」


 「それ自体はありがたいことだけど、冒険者になりたいっていうのはどうもね...」


 「それは、確かに」



 この後しばらく2人は、他愛もないことを話題に談笑した。



「アラン、これからどうする?今日は終日休みだが」


 「そうだなー...」



 これからどうするか考えていた時、遠くの街路を魔導車がゆっくりと走っていく様子が見えた。ユーラもそれに気づき、僅かに驚いた。



 「ユーラ、研究所に行ってみよう」


 「ああ、私は構わない」





 目の前の巨大な塔を見る。いつ見ても呆れるくらい大きな塔だ。二人で敷地内に入る。すると塔から所長であるシンが迎えに姿を表す。アラン達が来たときは必ず迎えに来る。何かアランセンサーのようなものが搭載されているのだろうか。



 「アランさん、ユーラ様、お久しぶりでございます」


 「シンさん、さっき魔導車が走っているのを見ましたが、順調に売れているんですか?」


 「はいもちろんです、ぜひこのようなところではなく中でお話しましょう」





 久しぶりに研究所を訪れたが、シンの変わらない様子に、2人は安心した。質素だが清潔感のある部屋に通され、腰を下ろすともう一度ドアを開く音がした。レンだった。



 「アラン様、ユーラ様、お久しぶりです!」


 「レン、元気にしてたか!?」


 部屋に入ってくるなり、ユーラがレンに飛びついた。普段落ち着いている彼女のこの行動にアランは少し驚いていたが、感情を出せる相手がいるのは良いことなので、微笑ましくその様子を見ていた。


 ユーラの興奮が収まると、シンとレン、ユーラとアランが対面で座った。



 「さて、まずは魔導車の件です。今の地点で22台売れています」


 「そんなに売れてるんですか!?」


 「は、はい、正真正銘売れてます...ククク」



 アランが思わず立ち上がって前のめりになる。シンがあまりのアランの驚きようがツボにハマったのか、しばらく笑い続けていた。



 「それに従って、街道、ベルファトとの道路の整備も少しずつ進んでいます。今の段階で一度王都からベルファトまで魔導車で向かって見ましたが、馬車の3割ほどの時間で到着できています」


 「それは凄いですね。道路が完成すれば物流の流れが画期的に良くなります」



 ユーラがはにかんで答えた。故郷のベルファトと王都の移動距離が縮まればより発展するだろうことを想像し、彼女は非常に喜んでいた。


 「あと、これが本題なのですが、アラン様の魔力の波長を再現することに成功しました。なので魔力波変換器の初期型が現在起動中です。これで魔力を操れる人であれば変換器を用いて魔導車に魔力を充填することが可能になります」


 「それ自体はとても良いことなんですけど、じゃあ俺はこれでお役御免ですか?」


 「いえいえとんでもない。アラン殿はアランモーターズの象徴ですから、首なんてことはあり得ないです」


 「あはは、それは良かった」



 シンはそう言うが、恐らくこれからできることと言えば、定期的に顔を出すことくらいになるのだろう。これからも国の発展に直結する事業を間近で見れることはアランにとっても嬉しいことだった。



 「そうですアラン様、お給料を受け取っていただかないと」


 「...え?」


 シンはレンに目配せをし、彼女が一旦部屋を出た。そして少しすると大型のかばんを両手に下げて入ってきた。



 「あの、前回より明らかに金額増えてませんか...?」


 「もちろんです、売り上げが上がっているのですから。はい今回の分です。持って帰ってくださいね」



 目の前の大きなかばん2つを見て一瞬心が無になったアランであったが、なんとか平常心を取り戻すとかばんを受け取った。



 「これ、アイテムボックスに入るかな?...」


 「実際にやってみればいいんじゃないか?」



 ユーラの助言に従ってかばんをアイテムボックスに入れてみる。しかし、中に入れようとしたところで弾かれてしまった。



 「流石にもう一杯みたいです」


 「アラン殿、今回はこういうこともあろうかと手で持てるかばんにしているので、このまま持って帰られてはいかがでしょうか?」


 「はい、それは構わないのですが、アイテムボックスが一杯になってしまったのが誤算で...どうしようかな」


 「アラン、アンリミテッド級のアイテムボックスは流石のお前でも買えないぞ。そもそも値段がつかないくらい貴重なものだからな」


 「仕方ない、帰ったら中身を整理しよう」



 だいたい話したいことも終わったので帰ろうとした時、シンが声をかけた。



 「アラン会長」


 「会長はいりません、普通に読んでください」


 「新型の魔道車を開発したのですが、どうです、乗り換えていかれますか?」


 「いえ、この前いただいたばかりですのでもう少しあの車を使わせてもらいます」



 苦笑しながらそう答えると、今度お越しになる時にはまた進化した良いものをお見せできるはずです、と科学者の顔で語ったシンを見て、アランとユーラはただただ笑うしかなかった。 



 「さて、次はどこに行こうか。ユーラは行きたいところとかあるか?」


 「私はアランと一緒ならどこでも良い」


 「そう言ってくれるのは嬉しいけど...のんびり車で王都を見て回ろうか」


 「良いじゃないか」



 そう言って敷地内に停めてあった魔道車に乗り込み、研究所を後にした。





 「王都って大きいだけじゃなくて本当に街並みが綺麗だよなあ」


 「そう言ってもらえると国民の私も嬉しい」


 「俺もこの国の国民なんだけどね」



 2人は笑い合う。久しぶりの2人水入らずの時間だった。もっと一緒に居れたら良いのに。だが私はベルファトの次期領主で、アランは王国でも非常に期待されている次世代の冒険者だ。


 こんな事情だから中々一緒にいれる時間は少ないので、これから先いまのような時間をどれくらい取れるのだろう。


 まだ街路が魔道車用に工事されていないのであまりスピードは出せないが、ゆっくりと景色を眺める。すると小さな子がアラン達の魔道車を追いかけて手を振っている。大人も2人を見つけると手を振ったり、ひそひそと話をしていた。



 「有名になるって大変だなー」


 「でも良い意味での注目だからまだマシさ。アランも慣れていた方がいいぞ。これからもっと凄くなる。」


 「有名になるために冒険者してる訳じゃないけど、期待に応えれるように努力するさ。俺自身の目的のためにも」


 「目的?」


 「自分を知ること。自分は何者なのか。どこから来たのか」



 それを話している時の彼の目はいつにも増して真剣で、ユーラはできるのなら全力でアランを支えようと改めて決意した。





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