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第67話

 連邦軍兵士が初手を取った。指揮官の兵士が正面から素早く切り込み、援護するように2人が左右から破壊魔法を打つ。


 アランが大声を出し気合を入れた時、体の中心から衝撃波が生まれ、それだけで左右から迫っていた魔法が消し飛んだ。と同時に正面からの斬り込みを大剣で受け止める。



 「そんな馬鹿な!?」



 魔法が打ち消された様子を見て連邦軍に同様が生まれる。それを逃さず、少し退いて大剣を思い切り振り指揮官の兵士を遠ざけると、左側にいた魔法を放ってきた兵士に向けて突進し一気に斬り捨てた。


上半身と下半身が切り離されたのを目の端で捉えながら今度は反対側にいる兵士に向けて炎弾を打ち込む。


 流れるように次の兵士も斬り倒した時、後ろから悲鳴と爆発音が聞こえた。先程放った炎弾が敵に命中したのだろう。


 魔法部隊を護衛する兵士は残り3人。やはり隊長クラスと思わしき兵士は後回しが得策と見て、残りの2人に照準を合わせる。



 「貴様は必ずここで止める...」



 そう覚悟を決めた兵士がアランへ突撃する。


 こちらから攻めようと考えていたところを敵から攻めてきたので、油断せず迎え撃つ。振り下ろされた初手の攻撃を大剣で余裕を持って受け止める。


 兵士の動きを冷静に観察し、繰り出される攻撃に対処していく。敵兵式からすれば全力の攻撃であったが、アランにいとも簡単に対処されたことで、徐々に冷静さを失っていく。


 振り抜いた一撃のスキを見逃さず、アランが素早く敵の長剣を弾き飛ばす。そして無防備になった兵士をせめて苦しまないようにとの思いで首を跳ねた。


 首を跳ねる様子を目の前で見ることになったもう1人の兵士が冷静さを失いながらもアランへと立ち向かう。


 アランが遥かに見上げるほどの身長と体格を駆使して、斧で一撃必殺の攻撃を繰り出す。だがこの攻撃は鋭く、それでいて威力もあったが、今のアランには十分に対処可能であった。


 相手の攻撃をいとも簡単に回避する、それも何度も。そして力量の差を誇示するかのように、斧の一撃を正面から大剣で受け止めた。



 「く...化物か貴様は...」


 「いや、正真正銘人間だ」



 敵兵士は、その言葉を最後に聞いたあと、命を刈り取られた。



 「冒険者アランだな?いつの間にそれほどの力を付けた?」


 「人間、自然と成長するものだろ」



 それを最後に隊長クラスの兵士とアランの戦闘が始まった。


 初手はアランが取った。円を描きながら接近し体重を載せて大剣の一撃を放つ。立っていられないほどの風圧を発生させる攻撃に、隊長はかろうじて反応し回避しようとしたが、間に合わず左腕を吹き飛ばされた。


あまりの激痛に握っていた斧を落としそうになったが、このまま引き下がる訳にはいかないと奮起し渾身の一撃を見舞おうとした。しかしその時すでにアランは足元に潜り込んでいた。隊長は本能で殺されることを理解し、その後胴体を寸断された。


 最大の障害が取り除かれれば、後は虐殺されるだけだった。魔法部隊が最後の抵抗とばかりに属性魔法を放つが、いつの間にかアランの背後にいたゴリアテによって全て反対の属性魔法で打ち消された。



 「ゴリアテ、宝石はどこだ?」



 全滅させられた魔法部隊の亡骸を横目にしながら、アランとゴリアテはルルの涙を探し始める。ゴリアテが場所を探知できるようなので、アランは黙ってついていく。しばらくして、体に強烈な圧迫感を感じるようになった。少し気分が悪くなった時、ゴリアテが警告した。



 「ルルの涙は放出されるエネルギー量が凄まじい、お前はこれ以上近づかないほうが良い」


 「じゃあなんで連邦軍はそんな危険な物を持ち運べたんだ?」


 「...分からない、もしかしたら我々の中に寝返った者がいるかもしれない。危ないから味方を近づけるな」


 「我々?それに寝返ったってどういうことだ?」



 その質問にゴリアテは答えなかった代わりに、いずれ分かる時が来る、と意味深なことを言った。


 ゴリアテが近づいた先には、金属製の四角形の箱のようなものがあり、蓋から濃い赤い色の光が漏れていた。


 光が漏れている部分にしっかりと蓋をして、両手で丁寧に持ち、運び出す。



 「これ、どうするんだ?」


 「お前の国の主に依頼して、保管してもらう場所を作ってある」



 戦闘はすでに王国軍の圧勝で幕を閉じつつあった。ゴリアテはアランに、自軍がルルの涙に近づかないよう注意喚起をしながらついてきてほしいと依頼した。


 辺りはすでに戦闘後の後始末が行われていた。今回は王国軍の兵士の質が突出していたためか、被害は限りなく少ないものになった。


 ルルの涙を運搬する途中でアランの目に入ったものは、大量の連邦軍兵士の亡骸を丁重に葬る王国軍兵士の姿であった。


 いたる所で埋葬が行われている様子を見て、アランの心に釈然としない思いが生まれた。


 今回の戦い、連邦軍から見て明らかに負け戦だった。それだけでなく魔力源となるルルの涙まで奪還され、今回は向こう側にとって何一つ良いことなどない戦いだ。彼の心の中のもやもやは広がるばかりだった。





 王国軍は国境沿いからソレスまで戻ってきていた。そして街中の公園を借りそこにルルの涙を安置することになった。そして影響を及ぼさない範囲の境目をぐるりと取り囲むように衛兵が護衛をしていた。


 そしてソレス城内別棟会議室には主要メンバーが集まり、今回の戦いについての総括が行われている。



 「結局連邦は何がしたかったんだ?」


 その問いに答えるものはなかなか現れなかったが、やがて1人の女性文官が手を上げ発言する。



 「我々の戦力を把握したかったのではないでしょうか...」


 「貴重な1万の軍を犠牲にしてか?さらには宝石まで奪われて」



 司令官にいたい所を指摘された女性文官は、それっきり黙ってしまった。だが他の出席者も同じように結論を出せないでいる。



 「はあ...兎にも角にも、様子を見るしかないか...」





 「そうか、無事宝石を奪取できたか」


 

 魔水晶に映るのは、遥か北に位置するソレスで先程会議を終えた司令官の顔だった。ファルマンが魔水晶を眺めながら司令官に問う。



 「それで、これからどうする?」


 「はい、まずゴリアテが先に宝石を王都へ転移させます。そしてそちらで完成している、魔力を通さない絶縁体で覆われた部屋で保管します。その後ゴリアテが今度はアラン殿やノーク殿など、精鋭の冒険者を王都まで転移させます」


 「そうか。ゴリアテ以外はわざわざ向こうまで赴いてもらう必要があったかは少々疑問だが、準備をしておくに越したことはなかった。これでいいさ」


 「はい、ではこの手はずで参ります」


 「よろしく頼む」





 国境沿いの戦いから2日後アラン達冒険者一行は無事ゴリアテの転移術で王都へ戻ってきていた。


 国王であるファルマンはアラン達がこちらへ戻り次第すぐにルルの涙についての処遇をどうするかを相談したかったが、ゴリアテがアラン抜きでは話ができないと言った。彼はまだ体力が回復しておらず、体調が戻り次第ファルマン、ゴリアテ、アランのみでの会議が開かれる予定になっている。


 そしてさらに3日、アランの体調が回復したので、3人が王座の間に集まった。



 「アラン、この間の戦いはご苦労だった。大活躍だったそうじゃないか」


 「陛下、ありがとうございます」


 「その調子で精進しろよ。ところで。あの宝石だがゴリアテ、どうするつもりだ?」



 一度アランの体の憑依したことで激怒されているので、伝達形式でゴリアテとファルマンがやりとりをする。



 「さて、お前の望み通り宝石を奪取した。これをどうする?」


 「それについて頼みがある、と言っています」


 「なんだ?また無理難題をふっかけてくるんじゃないだろうな?」


 

 アランがゴリアテに向かってうんうんと頷いていたが、やがて少しずつ顔色が悪くなっていく。



 「あの、ルルの涙を王都で保管してほしいそうです...」


 「何故だ?」



 アランがまたゴリアテの方を見て頷く。



 「今は身内の誰も信用できないとのことです...」


 「身内とは一体誰のことだ?そもそもお前を作った奴は何者何だ?」


 「それについては答えられないそうです」


 「お前、一切自分のことは教えられないにもかかわらず、そちらの要求だけ飲めと?」



 アランが渋い顔をしてゴリアテと向き合っている。長い時間が立った。



 「俺にもさっぱりなんですが、俺自身のことで重大な秘密があるが、今は教えられない。ルルの涙もそれに関わる事案であるために、詳細は教えられない、ということらしいです...」



その答えを聞いたファルマンが、ゴリアテに鋭い目を向けた。



 「その秘密というのは、今彼に教える時ではないという意味か?」


 「...俺は腑に落ちませんが、そうらしいです」


 「なるほど...」



 ファルマンが顎に手を当て長考しているのを見て、ゴリアテはアランに再度念話を送る。



 「あの陛下、ゴリアテが、ルルの涙は今後陛下が収める王国に良い影響を与える可能性がある、その点を考慮してほしいと言っています」


 「だが今は具体的には言えないのだろう?」


 「...はい、そうらしいです」


 この時すでにファルマンの心は決まっていたが、改めてこの意思を持ったゴーレムに、本当に我々に対して忠実でいられるのか。それを見極めることがひいてはこの国の行方すらも変えかねないという懸念を持っていた。



 「......良いだろう。ルルの涙の保管を我が王国で引き受ける」





 会議を終えたアランは塔を後にした途端どっと疲れを感じた。とにかく気分転換がしたい。当てもなく散歩しようと、静かに歩き始めた。


 上を見ると、すでに空は暗く、黒の景色の中に明るく光る塔が摩天楼のようにそびえ立っている。


 自分は何者なのだろう。どうやらゴリアテはそれの全部、もしくは一部を知っているようだが、今はそれを打ち明ける気はなさそうだ。


最初に覚えているのはベルファトの門前で佇んでいたところから。それより昔のことは一切分からない。


 なぜか急に不安になってきた。一体、俺は何者なんだ。誰か教えてくれ。アランは虚空の空に願った。

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