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第65話

 ガラン共和国との国境沿いにある街、ソレス。自然に恵まれ、街と木々などの植物が織りなす綺麗な風景はシュレンベルク王国内でも屈指の美景だと評判である。


 それが今この街はピリピリとした雰囲気に包まれている。王国の兵が到着し、至る所で兵士の姿が見られる。



 「お前、今度同じことしたら承知しないぞ」



 人の波が見事に2つに割れていく中を、アランとゴリアテが歩く。今彼らはソレス市内を散策していた。


 王都にいた時ゴリアテは待機場所で石のように固まっているのが仕事だった。だがソレスの街の領主が、そんな歩く殺戮兵器をここに置いておくくらいなら、常に手元に置いて管理してくれという申し出があり、こうして行動を共にしている。



 


 王都でのゴリアテとファルマンの交渉により、本来数ヶ月はかかるかもしれない時間をすっ飛ばしてソレスにたどり着いている。アランと共にソレスに転移したメンバーは、シドル、ユーラ、そして夜明けの民の4人だ。


 ユーラの付き人であるシノが今回同行しなかったのは、ユーラの代理として王都での仕事が残っているという理由からである。


 それにユーラは万が一の時に、シノがいなくても身の回りのことは自分でできるということもあり、それほどこの決定に至るまでの時間はかからなかった。





 アランはソレスに到着し次第、すぐに戦闘準備に入るものと思っていたが、どうやら司令官によると、相手が何らかの動きを見せるまでは待機しろとの命令を受けている。


 いつものように訓練しようかとも思ったが、このソレスの街には初めて訪れるのだから観光でもしてこいと、シドルから勧められ今に至る。


 しかし本当に綺麗な街だなあ。のんびりと散歩しているだけでも全然飽きない。同じような建物が連続して建てられ、自然の美しさと建築の美しさ、そしてそれが見事に融合されている。


 もはや芸術と言える景観を眺めていると、アランの目に留まるものを見つけた。大きな看板が立てかけられ、そこには剣の絵が描かれている。武器屋であろうことは容易に想像がつくが、特筆すべきは剣の絵が透き通るような透明感のあるタッチで描かれており、ここには何かがあるとアランに思わせるには十分であった。



 ドアを開け入ると、取り付けられているベルの音が旋律を奏でた。中に入るとすぐにアランの目は釘ずけになった。壁に色とりどりの、芸術品と間違えられそうな磨き上げられた剣が何十本と飾られている。



 「これは凄い...」

 

 「いらっしゃいませ」



 店員の声で我に返ったアランがそちらの方を向く。すると黒髪を後ろで束ねた女性店員が愛想ではない本物の笑みを浮かべて彼を見つめていた。大きなくりくりした目は小動物のような可愛さを醸し出している。



 「ハッセルソード工房へようこそ。お客様、失礼ながら冒険者のアラン様でいらっしゃいますでしょうか?」


 「え?俺のことを知っているんですか?」


 「はい、もちろんでございます。アラン様は王国内でメキメキと実力をつけておられる冒険者様だと、私たちの業界では広く知られております」



 もちろん名前を売るために冒険者をやっているわけではないが、こうして自分のことを知っている人がいるというのはアランにとって純粋に嬉しかった。

 


 「あ、はい、ありがとうございます」


 「それではアラン様。当店は剣を専門に扱っております。短刀からバスタードソードまでありとあらゆる剣を取り揃えています。まずは今飾っているものをご覧いただくことをお勧めいたします」



 店員に言われた通り端の方から順番に剣を見ていく。アランは衝撃を受けていた。どの剣にも装飾が施され、機能面とは直接関係ない見た目をかなり重視して作られている。



 「あの、どれも綺麗な剣ですね、失礼なことを聞いちゃうかもしれませんが、ちゃんと使えるんですか?」


 「はい、当店の剣はまず性能を第一に考えて製作しております。むしろ性能に関しては王国のどの他店にも負けない自信があります。ただ剣や武器といったものは普通見た目を考えて作られることはあまりありません。


 だからこそ当店では、外観にもこだわることによってより武器に対して愛着を持っていただきたいと考えております」


 「なるほど...」



 アランが飾られている中型の大きさの剣を一本、手に取る。薄緑色の刀身は磨き上げられ、鏡のように彼の顔が写っている。


 持ってみて驚いたのは、それなりに重いのにも関わらずすごく持ちやすいことだった。恐らく剣自体の重量バランスが良いのだろう。



 「...これください」


 「アラン様、誠にありがとうございます。」



 即決だった。もはや戦闘時にちゃんと使うのかどうかさえ考えておらず、まさにこの剣に一目惚れという状態である。



 「アラン様、こちらのレザ石のクリスタルソードですが、お値段良いお値段になるのですがいかが致しましょう。金額はこちらになります」



 女性店員が用紙にペンでスラスラと数字書き、アランに見せる。そこには200万ベルと書かれていた。


 以前のアランなら、確実に失神してその場に倒れていただろう。だが今の彼はアランモーターズの会長である。そこから桁違いの報酬をもらっている今、この金額は恐るるに足らないものだった。



 「大丈夫です。この剣をください」


 「かしこまりました、誠にありがとうございます。それでは専用の箱にお入れして...」


 「他にも見て良いですか?」


 「あ、はい失礼いたしました、どうぞご覧くださいませ」



 アランは店内をゆっくりと、目を輝かせながら何度も見ていく。彼が特に気に入ったものは、小刀の類ではなく、中型から大型の剣だった。


 大型の物だけでも、展示されているものだけで何十という数の剣がある。それを順番に全部見渡した後、店員に告げた。



 「すみません、これと、あっちのやつとそれから...」



 次から次へと色とりどりの剣を購入していく。それに女性店員は驚きながらも的確に注文を処理していく。



 「アラン様。アラン様がご所望の剣合計で8本、金額にして2200万ベルになります。大変失礼ながら、当店は基本的に現金払いのみとなっておりまして... 」l


 「あ、それなら大丈夫です。ちょっと待っててください」



 そう言いアイテムボックスの中に手を突っ込み、そこから札束を出し机の上にボンボンと置いていく。それを見ていた女性店員は今度こそ目が点になり驚いた。



 「えっと、これで料金分あるはずです。数えてもらえますか?」


 「...あ、はい、かしこまりました!確認させていただきますので、アラン様はこちらにお掛けいただいてお待ちくださいませ」



 奥から更に数人の店員が出てきて、分担して札束を奥の部屋に運んでいく。


 しばらくの時間が経った。あれほどの金額になると札束も膨大な多さになっているので、数えるのも一苦労だ。


 アランが若干の眠気に襲われ始めた頃、女性店員が戻ってきた。



 「アラン様、大変お待たせいたしました。確かに料金分ございましたが、それ以上の金額がありましたので、こちらが余りになります。お返しさせていただきますね」


 

 アランが札束をアイテムボックスに入れたのを見届けると、女性店員が続きを話し始める。



 「それではアラン様、納品はどのような形で致しましょう?」


 「あ、俺はアイテムボックスを持っているのでこの場で全て頂けますか?」


 「はい、かしこまりました」



 お店の店員が駆り出され、1人一本ずつ品物をアランへ手渡していく。それをアランが軽々と受け取ると、次々とアイテムボックスに収納していった。


 去り際に呼び止める声がしたので振り返ると、店員全員が揃っていた。



 「アラン様、この度は誠にありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 「良いものをありがとうございました。ぜひまた来ます」






 「良い買い物をしたなあ」


 アランがそう呟き、ゴリアテが無駄遣いをしただけではないのか?と思念が飛んでくる。それを無視して街の観光を続けていると、ゴリアテがさらに呼びかけてくる。



 「ゴリアテ、今気持ちよく観光してるんだから、邪魔しないでくれ」


 「召集がかかった。戻った方が良い」


 「...分かった、ありがとう」



 方向転換し、召集された時の指定場所になっているソレス城別棟へと全力で向かう。頭の中にゴリアテの転移を利用する考えがよぎったが、王都ほど大きい街でもないところでこれを使っても怠慢にしかならないと思い直した。


 冒険者になってから絶え間なく訓練、戦闘を行ってきたアランの身体能力はもはや常人の域を超えていた。人とすれ違うたびに風が起き、皆驚いて振り返るが、すでに彼の姿はない。一体何だったのかと思うや否や、今度は巨大なゴーレムがアランを追いかけていく様子を呆然と皆眺めていた。





 「こちらから石でも投げてやろうかと思うくらい動きがありませんでしたが、ようやくです。予想では2日後に国境に到達する見込みです」


 「さて、こちらはどう動こうか」



 今回の司令官に任命された軍人が言葉を発した。それに副官が挙手をした。



 「あちらは軍勢1万の規模のままです。ガランは本当に連邦の軍を素通りさせるだけで、協力はしないようです。我々としては誠に幸運と言いましょうか、アラン殿の配下にいるゴリアテが協力してくれることに加え、強力な冒険者が多数作戦に参加するということもあり、少数精鋭で迎え討つことを考えています」


 「ということは、こちらは冒険者を入れて総勢4000人くらいで行くか...」


 司令官が一旦結論を出そうとした時、別の副官が割って入る。


 

 「ただ、相手はゴリアテが言っていたルルの涙を持っている可能性が濃厚です。一気に潰されることはないでしょうか」


 「だからこそ余計な消耗は避けたい。ただ万が一に備えて後方に2万程度の予備軍を備えておこう。今回の前線部隊は敵の情報収集も兼ねている。ただこの言い方だと前線部隊が捨て駒みたいに捉えられてしまうのが良くないがな。こいつらは前の連邦との戦闘にも生き残ったタフなやつらだ。簡単なことでは倒れんさ」


 「では次に、今回の作戦の核になる部分、宝石ルルの涙への対処、奪還について協議します」



 会議はいよいよ最も重要な場面へと移行していく。





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