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第61話

 「現在我が王都ノルドベルガは人口2000万人を超え、今後も流入超過が確実です。そこで現在の王都外壁よりもさらに外側に新たな外壁を作り、区域を確保します」



 それを聞いた時、アランは説明された言葉の意味を理解するのに随分と時間がかかった。今現在でさえ途方もなく広い王都をさらに拡張する?思わず聴き間違違いではないかと思い、頰をつねるが痛みだけが返ってきた。その痛みを受けてもまだ彼は完全には受け入れることができていない。



 「今回の区域拡張は20%を目標としております。これを聞けば皆様も想像が付くでしょうが、工事はとてつもなく大規模なものになります。我々の任務は工事をしている間作業員の身の安全を確保することです。ホムラ、護衛に必要な冒険者はどの程度集まりましたか?」


 「はい、全国に募集を掛けまして、現在で約400名の冒険者が応募を頂いています」


 「ふむ、悪くないですね。ただもう少し数が欲しいので、引き続き募集を続けてください」


 「あの......すみません」



 会議室にいた一同の視線がアランに集中した。アラン自身もこのプロジェクトは正に寝耳の水だったので、聞きたいことは山ほどあったがいざ視線が自分に集まると一気に緊張してきた。



 「このプロジェクトはどれくらいの期間で完成を見込んでいるんですか?」


 「全体の工期としては2年ほどを見込んでいます」


 「えっ、たったの2年ですか?」


 「できればもう少し短縮したいくらいですが、少なくとも2年もあれば完成はするでしょう。アラン君は驚かれると思いますが、王国の建築技術は優れています。安全面での要素させ解決できれば十分可能な時間です」


 「そうなんですか......ありがとうございました」



 司会役の上級職員はアランが説明に納得した様子を見せると、会議を再び進行させる。



 「区域拡張によって新たに建築できる塔は規模にもよりますが、40棟ほどになると見込まれます」



 ここまで説明が進んだ時、コナツが手を挙げ立ち上がり質問した。



 「王都が繁栄するのは良いことです。しかしそれでは以前から懸念されていた一極集中が加速するのではないでしょうか?」


 「その事も想定には入れています。王都の人口が上昇している原因として、大陸中の同盟国から移民が職を求めてここへ集まっています。つまり一箇所に集中しているというよりは国の人口そのものが増えてきているのです」


 「王都だけでその人々を受け入れるのは不可能ですよね?それにあまりこういう事は言いたくないですが、何かしらの働く上での技能などは備わっているのか疑問です」


 「はい、ですのでベルファト、ハースブルク、ネルトアでも同様の拡張計画が進んでいます。移民については、最低限の職業技能があるかどうかチェックします。また移民の増加とは別に、国内の出生率増加による純粋な人口増加も影響しています。」



 説明にある程度納得したようで、コナツがありがとうございましたと言って腰を下ろす。その後もいくつかの質問があり、その後散会となった。



 その後いつものように仕事をこなしたアランがユーラ、シノと合流しもはや行きつけとなっている食堂へ向かう。



 「ユーラとシノさんはこの話聞いてたの?」


 「もちろん。アランよりも前に領主会議において採決で決定された。私も賛成したよ」


 「そういえばコナツさんが、移民を受け入れることについて心配してたよ」


 「コナツが王都に?ああ、会議でこっちに来てたのか。彼女は心配性なところがあるからな。だが大丈夫だと思うぞ。私もあまり適当なことは言えないが、この大陸の国々は教育水準が高い。じゃあなぜ王国へ来たがるのかだが、やはり物価が高い分普通の仕事の場合お給料が良いからな。冒険者でも報酬は多少他国よりも色がつく。それとこれは聞き流してもらって大丈夫だが、憧れもあるのかもしれない。シュレンベルク王国で働くというのはどうも箔がつくことらしい」


 「なんで僕らの国に来ると箔が付くんだ?」


 「我が国が超大国だからではないでしょうか」


 「そんなに凄いの?」


 「ええ。世界には数多の国が存在しますが、その中でも特に大きい4つの国があります。超大国と呼ばれる国が我々を入れて2つ、大国と呼ばれる国が2つ。今敵対している連邦は大国になります。そして我々のシュレンベルク王国の名を世界で知らぬ人はいないいないでしょう」



 雄弁に語るユーラ、シノの語り口からは愛国心の塊が吐き出されていくのが丸わかりであり、もしかしたら誇張ではないか?という思いもあったが、さすがに国を想うからといって嘘をつくことはないだろうと思い直した。



 「行方不明の事件もあるのに、タイミングが悪いな......」


 「アラン、前にも言っただろ?気にするなとは言わない。だがこの件はいろいろな組織が手がかりを追ってる。アランは成すべきことをすればいいんだ」


 「ああ、分かってるよ」





その後3日が経過したが、その間行方不明事件についての進展はなかった。だが数日で分かることなどないということはアランにも分かっていたので、なるべく心を冷静に保つことを心がけることにした。以前から周りの人が指摘してくれたことを無駄にしないように、少しでも心強くなれるようになると自分自身に誓ったから。



 その翌日、ギルド本部の約3分の1の職員が王都外にある丘陵地帯へと集まっていた。ここは市街拡張のための新たな壁の建築を開始する場所だった。


 ギルド職員の他には、100人以上の建築士が集まっていた。それに20人ほどの冒険者もいる。壇上が設けられ、そこに上がった主任が事細かに伝達、注意事項を述べていた。それを聞いている部下たちはメモを取る者、すべてを暗記しようとする者、果てはだるそうに話を聞いている者まで反応は様々だ。


 主任の説明が終わると、いよいよ壁の建築が開始された。あるグループは大量に用意されている資材を要領よく分担して運び、あるグループは壁の建築のために必要な仮の足場を建設している。


 その様子を見ていたアランがホムラに話しかける。



 「俺は完全な素人だからよく分からないですが、この人達めっちゃ要領良くないですか?」


 「そりゃそうよ、建築は王国十八番の技術だもの。それにのんびりしてたら期限内に終わらないわ」


 「ちょっと些細なことなんですが気になることがあって、この建築士さん達は国の直属で雇われてるんですか?」


 「そうね、わかりやすく言えば、アランは冒険者としてギルドに登録してるでしょ?それと同じように建築士が所属するギルドのようなもの、正式名称シュレンベルク建築組合があって、そこに登録して仕事をもらう仕組みになってるのよ」


 「へえ......合理的なんですね」


 「そうじゃないと、180棟以上の塔なんか建てられないわよ」



 そうこう言っている間にも建築の準備は着々と進んでいく。資材同士がぶつかり、時々大きな音を出す。この音を聞きつけて魔物がやってきた。



 「さあアラン魔物よ、出番だわ」


 「え?ちょっと待ってください。僕の仕事は進捗状況をチェックすることじゃないんですか?」


 「そんなの私達だけで十分よ。ねえ?」



 ホムラが他のギルド職員に返事を促す。すると軍隊のような統率された動きで首を縦に振る。



 「はいはい、分かりました......それにしても結構数多いな」



 遠くの方にポツポツと魔物の姿が見え、徐々に大きくなる。見たところ通常種のオークやトロールなど、大型の魔物が多く、数もそれなりにいた。アランがアイテムボックスから剣を抜き構える。すると他の冒険者もアランに続くように迎え撃つ準備をする。



 時間にして太陽が少し傾くほど経っただろうか。魔物を倒し終えた冒険者は武器を収め一息つこうとしていた。


 総勢100体ほどいた魔物のうちアランが倒したのは20体ほどであった。1人でこれだけの数の魔物を仕留めたのだからなかなかの戦果ではあるだろうが、アラン以外の冒険者も腕の立つ者が多く、そこまで数を稼げなかったことも要因として挙げられた。


 「アラン、さすがじゃねえか」


 「いえいえ、ありがとうございます」


 一緒に討伐した冒険者から言葉を掛けられる。相手のことは知らなかったが、相手のことはアランを知っているようだった。そういえば最近街を歩いていても声を掛けられることがあった。これは純粋にアランの冒険者としての知名度が上がっているのか、それともユーラの婚約者として知られているだけなのか。


 そんなことを考えていると、また遠方から魔物の群れがやってくるのが見えた。



 「はあ......またかよ」


 「おいおい流星さんよ、もうへばっちまったんじゃねえだろうな?」


 「本番はこれからだぜ?アラン」


 冒険者たちのある意味愛情のこもった挑発にアランは笑みを浮かべて応える。


 「いやいや、さっきのはため息じゃなくて、深呼吸ですよ?じゃあどれだけ倒せるか競争しますか?」


 「おおいいぜ、その方が面白い!」




 こうして日が暮れる直前まで魔物退治は続いた。最終的に襲ってきた魔物は1000体を超えたが、熟練の冒険者によって建設部隊への被害は完全に抑えられた。


 アランは最終的に全体の1割の魔物を退治した。最初はペース良く退治できていたが、ペース配分を間違え序盤に飛ばしすぎたために、後半はかなりバテてしまい、その様子を他の冒険者に茶化される。その声に負けじと再びエンジンを掛け、なんとか最後まで乗り切ることができた。


 大きく背中を曲げ伸びをし疲れを癒やしていると、横から声がかかる。



 「アラン、後ろを見てみろ」



 ユーラに従い後ろを見たアランはその目に写った光景に言葉を失った。


 「すごい......」



 この場所に到着したときは何もないただの土地だったはずが、今は城壁がある程度の距離だが完成していた。

 

 これがシュレンベルク王国の底力なのか、アランは感嘆の気持ちで出来上がったばかりの城壁を見ていた。すると、ホムラが近寄って耳元で囁いた。


 「建設部隊のお頭さんが夜食一緒にご飯どうかだって」


 「え?いいんですかね......」


 「建設が始まって初日だし、お言葉に甘えてもいいと思うわよ」



 少し迷ったが、ホムラの言葉に甘えることにした。その後王都にある比較的高級な部類に入るレストランに入り、苦労を分かち合った仲間と談笑しながら充実した時を過ごした。


 

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