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第58話

 人間やはり何もしないと退化していく。そういう意味ではアランがギルドで働き始めたことは彼にとって間違いなく良いことであった。


ベルファトで働いた経験が今になって活かされている。基本的には本部でもやる仕事の内容に変わりはない。ただこなす量が尋常ではなかった。ベルファトの時のようにのんびりと仕事していては瞬く間にクレームが嵐のように押し寄せるだろう。


依頼の受付、素材の買い取り、その他雑用から果ては迷子の捜索まで、ありとあらゆる種類の仕事が怒涛のごとくアランへ舞い込む。



 「......以上で2万ベルになります」


 「えー安くない、もう少し良い値段にならないの?」


 「素材が少し傷んでいるせいでこの値段になってしまいます、次回から取扱に気をつけていただけるともう少し高値で買い取れますので」


 「はあ、ちゃんと裁く用の道具も持っていくべきだったわ。分かったわ、またよろしくね」


 「はい、ありがとうございました」




 「おいてめえどういうことだ!あの依頼は俺が予約しておいたはずだろ!!」


 「恐れ入りますが、ギルドに指名依頼を除いて予約というものはございません」


 「この俺が受けるって言ってんだろ耳ついてんのか?」


 「事前にも説明をしているはずです、これがルールです。あまりにしつこいようですと実力行使も止む終えませんが......」



 そう言い終えるとカウンターを飛び越えクレーマーの前に着地し、アイテムボックスから大剣を担ぎ出す。クレーマーはそれを見て自分が喧嘩を売っていたのがB級冒険者のアランであったことを初めて知り、顔を歪めながら捨て台詞を吐いて去っていった。



 「アラン君、良い働きぶりね」



 声を掛けてきたのは直属の上司であるホムラだった。控えめな茶髪を後ろで束ね、いかにも仕事ができそうな女性という印象を受ける。スタイルこそユーラには敵わないが、家庭的な美女という観点で見ると彼女も十分魅力的にアランには写った。



 「ユーラ様がいながら私に手を出しても良いのかな??」



 そういってクスクスと笑う。完全にバレていた。



 「あ、いや......つい綺麗だなと思ってしまって」


 「冗談よ。女性を褒める言葉はユーラ様に取っておきなさい。それよりも、新しい依頼書を貼るすぺーすがないから掲示板をもう1台持ってきたいんだけど、頼める?」


 「あ、はい、すぐにやります」



 掲示板とはこの前アランが見た時大きすぎて壁と間違えた物のことである。本当であれば4人以上で協力しないと動かせないほど重いのだが、それもアランにかかれば1人で動かすことができる。


 職員用控室のドアが両開きになり、巨大な掲示板を1人で引っ張るアランが現れる。掲示板を見た人は当然数人で移動させているであろうと想像するので、アランが1人で動かしているのを見たときの反応は概ね皆一緒であった。


 危ないので気をつけてくださいと注意しているが、その危ないものを1人で動かしているアランのある意味危ないのではないだろうか。もし倒れたりしたらひとたまりもない、そう思う人も多かった。


 所定の場所に掲示板を移動させしっかりと固定すると、女性の職員が数人現れ手際よく依頼書を貼っていく。さすがのアランも額に少し汗をかいていた。



 「お疲れ様、少し休憩していいわよ」



 ホムラから休憩をもらい、控室に入ると備え付けの椅子にドカっと座った。その直後だらしない様子で座った所を見られていなかったか気になり周りを見たが、運良くアラン以外は誰もいなかった。


 今座っているこの椅子も悪くないのだが、自分たちが使う魔導車の座席とは比較すらできないと贅沢なことを思い、すぐに贅沢なことを言い過ぎだと反省した。


 今日で王都のギルドに勤め始めて2日目だった。今回の魔導車研究は時間がかかるらしくしばらくお呼びはかからないだろう。そして連邦の方にも動きはない。招集される可能性は低かった。このままいけばしばらくここで働くことになりそうだったが、常勤の人としてカウントされたりしないかが心配だった。


 「こんなに依頼が来るのは久しぶりだわ」


 そんなことを考えていると、ホムラが控室に入ってきた。彼女も僅かに汗をかいていたが、表情は全く疲れを感じさせない。



 「アラン君ほんとに優秀ね、これからもずっとここで働かない?」


 「ありがたいお話ですけど、本業は冒険者ですので......」



 先程恐れていたことをすぐに言われてしまい、思わず苦笑いしながら丁重にお断りする。ホムラは口をすぼめてそっかと言い残念そうな表情を見せたが、すぐに気持ちを切り替え再びアランに話しかけた。



 「ところでアラン君、最近の依頼についてなんだけど気づいてる?」


 「え、何がですか?」


 「最近行方不明者捜索の依頼が急に増えてるのよ。子供から若い女性、おじいさんまで色々で特定の傾向はないけれど。気になるわ」


 「これだけの人が集まる王都なんだから、こういう事もある程度はあるんじゃないかと思うんですけど」


 「確かにそうなんだけどね。ただここ1週間で急激に増えてるのよ?前に襲撃もあったし、何もなければ良いけれど......」



ホムラの指摘した点にはアランも気になるところではあった。だからといってしがない冒険者のアランでは今の所どうすることもできない。とりあえず仕事が終わったらユーラとシノに話してみよう。それだけ決めて休憩を終わりにし再び働き始めた。





 「行方位不明か......」


 「行方知れずになる人に特徴がないのでは、今の所できることは限られている気がしますが」



 ギルドでの仕事を終えたアランは2人と合流し、繁華街の片隅にある小さな料理屋で食事を取りながら行方不明者の件について話していた。


 この料理屋はシノが休みの日に散策していた時見つけた場所で、普段客も少なく個室も用意されているので内輪の話をするのにも適していた。



 「何か分かるか保証はできないが、王都の警備隊に調べてもらうように話をつけておこう。今はまだ深く考える必要はないと思うぞ?とりあえずはギルドの仕事頑張ってくれ」


 「ありがとう。もちろん何もないに越したことはないけど、一応ね」



 その後は気持ちを切り替え出てくる料理の味を楽しんだ。ここの料理は野菜が中心でとても健康的でありながら素材を活かしつつも程よく控えめな味付けで、3人は大満足で食事を進めていった。





 翌日もアランはギルド本部にいた。もはや冒険ではなくギルド勤めが日常になりつつある。今日は比較的冒険者が少なく、暇になる時間が多かった。その時は他のギルド職員と上司に咎められない程度に世間話をしたりして過ごした。


 昼食をとり、再び仕事に戻り依頼の完了した書類を掲示板から外す作業をしていると、視界の端にどこかで見たような気がする女性が現れた。



 「アランじゃない!」



 アランは最初その女性の顔を見てもすぐには思い出せなかったが、気づいた時に満面の笑みになった。



 「コナツさん!?」



 コナツはアランがベルファトのギルドで働いていた時の支部長だった。随分と良くしてくれていたが、冒険者として巣立ってからは会う機会もなくご無沙汰していた。

 

 コナツはタックルする勢いでアランへ走っていき、そのまま抱きついた。突然の出来事にその場にいた人々の視線が2人に集中する。




 「ちょっとコナツさん、みんなが見てますよ!」

 

 「だって超久しぶりなんだもん、あの時はあんなに小さかったアランが今はこんなに逞しくなって、私思わず涙腺が」


 「コナツさんは僕の親じゃないでしょ......」


 「それはそうとアラン、冒険者ギルドに居るってことは、依頼受けに来たの?」


 「いえ、今だけ職員として働いています。コナツさんの所で働かせてもらった経験が活きてます」


 「あ、とうとう転職したんだ」


 「してないです!」



 なぜベルファトのギルド支部長であるコナツがここにいるのか聞いたところ、定期的に本部で行われる支部長会議に参加するためという答えが帰ってきた。それなら今までに何度も来ていたはずなので合っていても不思議ではなかったのにと言ったところ、支部長会議は来所時にギルドの表で姿を見せる時以外はバックヤードに引きこもるので、それで鉢合わせしなかったんだろうということだった。


コナツはアランが冒険者として成長していることを大げさなくらい喜んでいた。そのことはアランにとって少々意外であった。ベルファとを旅立ってから時も経っており、忘れられても仕方ないと思っていたからだ。それを言うとコナツはアランを忘れるわけないじゃない、と頭をくしゃくしゃと撫でながら満面の笑みを浮かべた。



 「ちょっとコナツ、こんな人目のある所でイチャイチャしないで」



 控室から出てきたホムラがゆっくりと2人へと近づきながら注意する。



 「だってこうして愛しのアランとまた会えたんだよ?そりゃあ、ねえ?」


 「ねえ、じゃないですよ。俺も嬉しいですけど、変な誤解を与えないでください、これから仕事がやりにくくなります」


 「まあ話は聞いてたから、コナツがアラン君に入れ込むのも分かるけどね」



 その後アランは2人と別れ仕事に戻った。この後各地の支部長が集まって会議があるらしい。だが臨時職員のアランには関係ないことで、コナツと戯れている間に溜まった仕事を片付けにかかる。


 力仕事の雑用を終わらせカウンター業務に戻る。そして10人程度冒険者をさばいた後、落ち着いたと思って席を立とうとした時、子供の声で呼ばれた。



 「......あの、すみません」



 振り返っても誰もいない。だが確かに声は聞こえたのでカウンターの下を覗くと、小さな女の子がこちらを涙目でこちらを向いていた。



 「あの......」


 「お嬢さん、何かご用ですか?」



 自分で言ってお嬢さん以外にもっと言い方があっただろうと後悔したが、すぐにそのことは忘れて女の子の前に座った。



 「何か困ったことがあるのかな?」


 「うん......帰ってこない」


 「え?」


 「お母さんとお父さん帰ってこないの」



思いの外事が大きくなりそうだった。とりあえずアランは女の子を保護するために職員用の控室へと案内した。









 




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