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第57話

 「Bランク冒険者アラン、処分を言い渡します」


 「はい」


 「あなたは勇敢に強盗達と戦い、一般の市民を守ろうと善処しました。よって降格などの処分はありません」


 「え?あっはい......」


 「ただ欲を言えば、状況判断など改善の余地はあります。厳しいことを言っているのは承知していますが、あなたは期待の冒険者です。今後も精進してください」




 塔から出てきたアランをユーラ、シノの2人が出迎えた。



 「アラン様、どうでしたか?」


 「処分自体はなしで、お咎め無しだそうです。これからも精進しなさいとのことでした」



 聴取の細かい内容を2人に伝える。それを聞いたユーラが納得した表情を浮かべた。



 「妥当なところだな。罰としての処分など下るはずはないと思っていたが、やはりその通りになったか。状況判断が甘いとの評価はなかなかに厳しいところだが......」


 「期待してくれるだけ有り難いよ。事実だしね」


 「それでアラン様、今日はこれからどうされますか?予定などは入っておりませんが。どこかお出かけにさないますか? 」


 「うーん、あんまり出かける気分じゃないんだけど......」


 

 アランは渋い表情で乗り気でなかった。普段ならこういう時はユーラの担当であったが、今回は珍しくシノが間に入った。



 「アラン様、ギルドから注意を受けているのは今のような状況のことを言われているのだと思います。起こしてしまったことに対して冷静に振り返り今後同じような事にならないようにする、生きていく上で基本のことです。巻き添えを受けた女性には申し訳ないですが、これくらいのことで心が揺れるようでは冒険者として上を目指すのは難しいのではないでしょうか」



 シノから思わぬ厳しい指摘を受け、アランは二重にショックを受けた。心の奥底では分かっていながら実行できないでいることを面と向かって言われたこと、そしてそれを言われた相手がシノだったこと。


 恐る恐るシノを見ると、アランが思っていたのとは違い、穏やかな笑顔でこちらを見つめ返していた。



「アラン様はユーラ様のフィアンセなんですから、立派な男性になっていただかないと困ります。それにこう見えても、ユーラ様はリードされるのがお好きなんですよ?」



 それを聞いたユーラが顔を真っ赤にしてシノに詰め寄った。



 「シノっ、お前いきなり何を言うんだ!」


 「だって仰っていたじゃないですか、アランはもう少ししっかりしてくれたらもっと好きになれるのだがって」


 「それを今本人の前で言うな!」



 すごい勢いでユーラが慌てているが、シノには分かっていた。アランを少しでもリラックスさせ、前を向いてもらうためのわざとな態度であると。




 その後3人は車で王都市街をドライブした。課題が見えたからといってすぐに割り切れれば苦労などしない。アランは2人から今日だけは何も考えず楽しもうと誘われ、今に至っている。


 車の窓から見える王都の景色を眺める。こちらを見て話をする者、手を振ってくる者などこそリアクションこそ様々だったが、こちらに向ける視線は概ね好意的なものが多かった。


 市街の中をシノがゆっくりと運転し、気になるものがあればその都度車を降り見て回る。一同は主にユーラが声をかけて店などを見ていたが、ユーラは度々アランの様子を注意深く見ていた。


 美味しそうな匂いが車内に包まれ、この匂いの元が気になるということで車の近くにある屋台に2人が向かう。


 

 「アラン、これはなんだ?何かの肉なのは分かるんだが」


 「分からない......おじさん、これなんの肉ですか? 」


 「......肉だ」


 「いやだから、何の肉ですか......? 」


 「......味と健康は保証する」



 仏頂面で店主はそう告げる。焼いている肉は見た目がほぼ真っ黒に近い、これは焼き目ではなく元からの色なのだろう。だがグロテスクな見た目からは反して暴力的な良い香りを当たりに漂わせている。2人は匂いと胃袋からのシグナルに負けた。



 「......え、なにこれ?おいしい」


 「......アラン、区別するつもりはないのだが、一般市民の人々が食べる肉はこれほど美味いのか?」


 

 「いやいやそれはない!一般の人の食べる肉もそこそこおいしいけど、これは次元が違う!」

 

 「そうなのか......肉その物の味と味付けともに抜群だ。特に香辛料を使っているのか、ピリっとくる辛さが味の深さを出している」


 「ユーラ、やけに詳しい分析だね......。おじさん、値段はいくらですか?」


 

 店主が告げた値段を聞いて、2人はさらに衝撃を受けた。



 「余計に心配になってきた......」


 「......俺は毎日一日二食これを食っている」


 「なら大丈夫じゃないか?」


 「だからユーラ、その根拠はどこから来るのさ......とにかく、また食べに来るよ」


 店主はありがとうといってまた肉を黙々と焼き始めた。串に刺してもらった肉を頬張る。特上の美味しさに自然と気分も上向きになってきた。車に戻って余分に買っておいた串焼きをさっそくシノに勧める。



 「これを私に......ですか?」



 普段表情控えめな彼女が大げさに思えるくらい頬を引きつらせつぶやいた。



 「まずは一度食べてみてください、一度だけで良いので」


 「は、はい......」



 シノが恐る恐る真っ黒な肉を口に運ぶ。するとみるみる表情が柔らかくなっていった。



 「こんなおいしいお肉初めて食べました。アラン様、これをどこで?」


 「さっき屋台で売ってたんです。何の肉なのかは教えてもらえなかったですが」



 何の肉なのか分からないと聞き、頬張っていた口が徐々にゆっくりになり、ごくりと飲み込んだ後問い詰めるような口調でアランに尋ねた。



 「えっと......何の種類のお肉なのか分からないのですか?これ食べてしまって大丈夫なのでしょうか、お腹壊したりとか、病気になったりは......」


 「シノさん、大丈夫です。僕たちも食べましたから、お腹壊すときは一緒ですよ! 」



 そんなこと言われても全然嬉しくないと言いつつも絶対的な美味の味の前には抗えず、最後はただ黙々と真っ黒な肉の串焼きを食べていた。





 宿泊先の塔に戻ってきた頃には日が暮れそうな時間になっていた。いつものように1階に駐車させてもらう。アランはふと気がついた。最近シノが運転する機会が多いおかげで、一気に彼女の運転の腕が上がっていることに。さすがベルファト家に仕える人たちは優秀な人が多いと感心した。


 部屋に戻ると、備え付けのソファに座る。今日一日でかなり気が紛れた。特に謎の肉屋の発見は食い気のあるアランにとってまたとない収穫であった。


 明日の予定もまだ決まっていない。魔導車はシン達が集めたデータを元に新しい車体の設計に入っているので、アラン達の出る幕はなかった。かといって連邦がいつ攻めてくるか分からない現状、まだ待機命令は有効であり、王都から基本的に出ることはできない。


 どうしようかとしばらく考え、ここは冒険者として原点に立ち返り、明日もう一度冒険者ギルドに足を運ぶことにした。


 この前はあまり要件で行ったわけではないので、あえてその場所に行くことで負のイメージを払拭させる狙いもあった。明日の予定が決まると自ずと今日することも決まる。塔の中にある食堂で夕食を食べ、その後は寝る直前まで3人で他愛もない話をして過ごし、明日を迎えた。




 「やっぱり本部ってだけあって、すごい規模だな」


 

 翌日、予定通りアランは冒険者ギルド本部が入っている塔の40階に来ていた。行き交う冒険者、職員の流れを見ているだけで酔ってしまいそうなほどの人の多さだった。


 具体的にギルドに来て何をするかまでは決めていなかったため、まずは依頼書が貼ってある掲示板の元へ向かう。そこでもまた衝撃を受けた。もはやこれは掲示板というよりも、壁ではないか。依頼書もざっと見ただけで数百枚はありそうだった。



 「ねえ、キミキミ」



 依頼書をひたすら順番に読んでいると、突然声が掛けられた。だがアランは読むことに集中して気づかない。


 「ねえ、アランアラン」



 自分の名前を呼ばれやっと気が付き呼ばれた方を向く。そこに小さな、真ん丸のメガネをかけた女性がいた。



 「ねえねえ、ここで何してるの?」


 「え?それは俺冒険者だから、依頼書を見てるんだよ。というかなんで俺の名前を知ってるの?」


 「覚えてない?アランこの前銀行での事で処分聞きに来たでしょ。その時にあなたを処分したメンバーの中に、私もいたのよ」



 そこまで聞いた時アランに疑問が浮かんだ。この女性、どこから見ても子供にしか見えない。



 「あ、あ、今私のこと子供だと思ったでしょ?身長だけで判断しちゃだめよ。背は低くても胸はバリバリあるんだから」


 「あの、そういうこと言わないほうがいいと思うんだけど......」



 今気づいたが、彼女もギルド職員の制服を着ていた。しかし彼女ほど制服が似合わない職員もいないのではないだろうか。

 


 「その調子だと覚えてないみたいね。私はマリン。この冒険者ギルド本部で統括部長を努めてるわ」


 「え?それってかなりのお偉いさんじゃ......」


 「もちろん。もうちょっと態度とか気をつけてもらってもいいんじゃない?統括部長に対する不遜な態度をとったということで降格処分はどう?どう?」


 「すみません、謝罪しますからどうか許してください......」


 「真に受けないでよ、冗談に決まってるじゃない。本当だったらこんな使えない統括部長いないわよ」



 そういってマリンはからからと笑う。この人もなかなかにぶっ飛んだ人だなとアランは内心で呟いた。



 「とこででところで再び聞くけど、アランはここで何してるの?」


 「うーん、俺は今王都の外に出れなくて身動きがとれないから、とりあえずギルドに足を運んだっていう感じです」


 「うんうん知ってた。じゃあうちで働かない?」



 アランは少しの間放心状態になった。



 「いろいろと問い詰めたいことはありますが、なぜ分かってて聞いたんですか?それと、働くってここでですか?」


 「コナツから前に話は聞いてたのよ。アラン最初はギルドで下働きしてたんでしょ?一から人を育てるよりは手間が省けるわ。それにアラン力持ちだし」


 「そんなことまで知ってるんですね。僕のプライバシーはないんでしょうか......」


 「どうせ命令くるまでやることないんでしょ?うちで働いてお金稼ぎなさい。はい採用」


 「とてつもない理不尽さを感じる......」



 こうしてベルファト以来久々であるギルドで再び働くことになった。









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