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第54話

 翌日日の出と共に目が覚めたアランは、ベッドの誘惑から比較的容易に抜け出し部屋から王都の景色を眺めていた。これからの予定を頭の中で思い出す。


 今日の予定は研究所でシン、レンと会い魔道車に関しての状況を確認することだった。それを思い出し、隣のベッドで寝てるユーラを起こしに行く。


 「ユーラ、朝だよ」


 

 だが返事の代わりに寝返りをうつだけで、起きる気配はない。



 「ユーラーー、朝だって」



 それを5、6回ほど繰り返した時、ようやく反応があった。



 「アラン......おはよう」


 「はいおはよう。というかもうすぐ出ないと間に合わないよ?」



 そう言われてすでに日が出ていることにやっと気づいたユーラの顔が徐々に青ざめていく。ベッドから飛び出し寝巻き姿から着替えようとして、邪魔者を睨みつける。



 「え?......なに?」


 「アランは女の着替えを見る趣味があるのか?」


 「あ、ごめん。てか俺だったら気にしなくてもいいんじゃ......」


 「アラン、そういう問題ではない!早く別の部屋へ行ってくれ!」



 このままいても何の得にもならないのは明白だったのですぐさま部屋の外に避難した。そしてすぐに外出用の準備を整えたユーラと一緒に出て来たシノがアランの荷物もまとめて持って来てくれたので、そのまま塔の1階まで降りる。


 入り口へ向かうと、そこには懐かしい人が待っていた。



 「アラン殿、ユーラ様、お久しぶりでございます」



 シンが3人に声をかけた。彼の横にはレンもいた。



 「シンさん、レンさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」


 「ええ、相変わらず研究漬けの毎日です。アラン殿が遠征している間に色々と進歩もありました」


 「きっとアランさん驚かれると思いますよ。さあ、研究所までご案内します」





 外へ出ていきなり驚かされた。道路端に魔道車らしきものが駐車されているのだが、明らかにアラン達が乗っていたものよりも見た目が洗練されていた。ついつい走って魔道車の元へ行き、舐め回すように眺める。



 「シンさんレンさん、僕がいない間に何が起きたんですか?」



 その言葉を聞いた2人がお互いを見ながら笑った。



 「事件があったみたいに言わないでください。この車はアランさんが遠征している間に開発した新型です」


 「へえー、随分高さが低くなりましたね。それに横幅も......」



 アランの言葉を遮るようにシンが補足する。



 「この子よりもさらに新しい新型が研究所で待っていますよ。さあ行きましょうアラン殿とユーラ様は後部座席へどうぞ」




 案内されるがままに座席に座る。一瞬座った感覚がしなかった。よほど座席の素材が良いのだろうか。出発します、とレンが言い魔道車が動き出す。


 自分たちが乗っていた魔道車よりも加速がすごく滑らかになっていた。ゆったりと加速し、窓から見える景色が流れていく。


 程なくして研究所に着いた。馬車を使っていた時よりも遥かに早い。乗り心地の良さに少しの間乗っていただけだったが、眠気が程よくアランに寄り添っていた。



 「さて、まずは新型をお見せしたいのですが、その前にお伝えしたいことがありますので、まずは60階の多目的室まへ参りましょう」



 一同で研究所の中へと足を向ける。アランは中へ入る途中改めて上を見た。どこまでも建物が上に伸びていた。これで王都では低い方の塔だというのだからあきれる他ない。






 60階に魔法陣で転移し、広いロビーを横切って壁際にあるいくつもある部屋のドアの1つを開けた。中には観葉植物が置かれ無機質な部屋に程よく色を加えていた。


 シンとレンがテーブルを挟んで奥側に、アランとユーラ、シノが入り口側に座る。話をする準備が整ったところで、シンが口を開いた。



 「では早速ですが、アランさんにお渡ししたいものがあります」


 「え?はい、何でしょうか?」



 シンが座ったまま屈み込みカバンを持ち上げ、手を中に入れごそごそと動かす。そして中から取り出したのは、札束だった。それをトントンと机の上に並べる。アランは見たこともない金額のお金が目の前に置かれていくのを見て、何が何だか分からずだただ驚いていた。



 「アランさん、魔道車の件ですが、遠征に行かれている間に14台発注がありました。その売り上げの4パーセント分の金額がこの札束です。どうぞお納めください」


 「え!?ちょっと待ってください......途方もない金額なんですけど......」


 「そりゃあ、魔道車1台の金額は有力貴族の方でないと買えないくらいのものです。そこからの4パーセントなので、この金額は妥当なものですよ」


 「アラン、シンさんが仰るように正当な報酬だ。受け取っておくんだ」


 「いやいやユーラ!一冒険者が持つような金額じゃないでしょ......何でそんなに冷静なの?」


 「私はベルファト家の次期跡取り候補だったからな。こういうことには慣れてる」


 「そ、そうですか......さすがユーラ様。では失礼して、頂きます」



 アランは札束を若干震える手で掴み取り、今度はその重さに驚いていた。そして冷や汗を流しながらアイテムボックスに収納した。それを見届けたシンが追い打ちをかける。



 「アラン殿、この程度のお金で驚いてはいけません。これから魔道車の販売は増えていくでしょう。そうすればアラン殿に入る報酬も比例して多くなっていきます。ふんぞりかえれとは申しませんが、今のうちから少しずつ慣れておかれるのが良いでしょう」


 「は、はあ......」



 状況が本当に分かっているのか怪しい態度のアランに、レンがからかうように尋ねた。



 「アランさん、このお金何に使うのか決めておられますか?」


 

 それにアランは満面の笑顔で答えた。



 「はい、もちろん決まってません。なのでとりあえず貯金します!」




 その後いよいよ本来の目的である新型車をアランに見せるため、一同は中庭に移動することになった。1階へ転移し中庭へ続くドアへ開けると、そこに新しい魔道車が存在感を持って鎮座していた。



 「 なんて言ったらいいか分からないけど、すごい貫禄ですね」


 「見た目だけでなく色々進化しています。まず馬力ですが240バッファローパワーを叩き出します。そして曲がりやすくするために全体的な車の高さを下げて重心を下にすることで、安定して運転できるようにしました」


 「よく分からないけど進化してるってことですね。それに中もすごく広くなってるように感じるんですが」


 「内部の座席などの配置を見直して、無駄なスペースを極力省いています。それではせっかくですから乗ってみませんか?実際に乗ってみるともっと驚かれると思いますよ?」



 アランはシンに促されて魔道車の運転席側のドアを開け、中に乗り込んだ。座席の心地よさは、研究所まで乗っていた魔道車よりさらに良くなっていた。


 助手席にシンが乗り、後部座席にユーラとシノ、レンが乗り込んだ。


 アランがアクセルを踏み込む。するとぐんぐんと魔道車が加速していく。



 「おいおいおいこれすごいぞ!!」


 「アラン速い速い、早く止めて」



 慌ててブレーキを踏み込むと、今度は急激にスピードが落ち、全員が前のめりになった。



 「言い忘れていましたが、今までよりも加速が良くなってますので、アクセルの踏みすぎには注意してください」


 「はい、身をもって体験いたしました。しかし減速も早かったですね」


 「仕組みを全部説明すると日が暮れて夜が明けるので、新たに専用の部品を開発して取り付けました。効果のほどは今証明されました」



 そう言ってニッコリと微笑むシンだったが、アランは彼の底なしな探究心に若干引いていた。




 「今度はアクセルを踏みすぎないようにしましょう。一度コツを掴めば大丈夫です」


 アドバイスを受け今度はゆっくりとアクセルを踏み込む。すると今度はゆっくりとスピードが上がっていく。その状態でハンドルを左右に切って曲がってみる。すると安定して旋回することができた。



 「前よりとても曲がりやすくなってますね」


 「ありがとうございます、色々とやってますので」


 「その色々には血の滲む努力が含まれてるんですね......」


 「アラン殿はそういうところに気がついてくださるので我々としても報われます」



 その後前の時と同じく、中庭を出て街へ出ることになった。前よりも車の全長が長いので慎重に車体を動かしていく。門から街へと出ていくのに気づいた研究員が続々と外へ出てきた。



 「魔道車ってやっぱり人気なんですね」



 アランの問いかけにレンが微笑んだ。



 「それはもちろんです。この研究はみんなが関わりたくて、倍率とても高かったんです」


 「これが普及すれば王国は一気に躍進できますから」



 ユーラも車内で揺られながら、レンに同意した。



 「じゃあ、皆さん行きますよ?」


 「はいどうぞ、行きたいところへ進んでください。陛下から許可は頂いておりますので」


 

 アランが繁華街エリアに向けて車を走らせる。もしかしたら王都の住民全員に通達されているのか、全員街路の中央を避けて歩いていた。



 「こんなに早く景色が流れていくのを見るのは初めてです」


 「そうだな、これで街道が整備されればベルファトと王都の行き来も早くなるだろう」


 こんなに楽しそうな様子のシノをユーラはしばらく見ていなかった。幼い頃からベルファト家に尽くしてくれ、辛いことの連続だったことを知っていたユーラは、束の間ではあっても今リラックスして過ごせている事を心から喜んだ。



 「シンさん、この前についてる計器みたいなものは何ですか?」


 「はい、これは速度計といって、どれくらいスピードが出ているかを表示するものです。単位の名前はかつて馬車の主力で使われていたファームバッファローから取ってFBと名付けました」


 「じゃあ今は、速度が20FB出てるってことですか?」


 「その通りです。ちなみに先ほどアラン殿がアクセルを踏みすぎた時は60FB出ていました」


 「......よく分かりませんが、さっきはスピードを出しすぎたってことですね」


 

 話をしている間に、繁華街に到着した。街路の端には新型の魔道車を一目見ようと集まった人の波で溢れていた。アランは間違って人に当たらないよう、慎重に運転し道を奥へ進んでいく。まだまだ新型車の実験は続く。

 

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