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第45話

 「どうしますか?第二陣軍と合流しますか? 」


 「いえ、相手から一方的に攻められる可能性があるこの状況では、自軍を守る負担が増えるだけで意味がありません」

 

 ノークの提案に対して総司令官は現状の部隊構成のまま戦うことを選んだ。提案したノークも選択肢を与えただけで、この選択肢を選ぶことほぼ確信として持っていた。


 「あの、すみません」


 突如として発せられた声に、その場にいた者がそちらの方を見た。問いかけたのはアランだった。


 「あれほどの威力の魔法が使えるのなら、どうしてセリントンを攻める時に使わなかったんでしょうか? 」


 それを聞いたアラン以外の出席者は狐につままれた顔をしていた。


 「......つまりは、最初から俺たちが標的だったと言いたいのか? 」


 「はい。本気でセリントンを落としたいなら隠し球だろうと出し惜しみする必要はないと思います」


 出席者の間で小さいどよめきが起きた。ただその様子を見たアランの心の中には、これくらいのことは考えればわかるのでは? という素朴な疑問だった。だが喉まで出かかった言葉を無理やり喉の奥にしまい込む。


 「アラン殿の推測通りなら、ロラリア奪還も厳しい戦いになりそうですね」


 総司令官の部下が思わず呟いた。すでに予想以上の犠牲者、負傷者が出ている中で、これ以上の出血を覚悟しなければいけない事は、頭が痛い問題だった。


 「それではこうしましょう。アランには大規模魔法は使わず探知魔法で敵の動きを探ることに集中してもらいます。後は今までよりも部隊を細分化して、全ての部隊に練度を問わず防御魔法が使える魔術師を配置します。これで禁忌魔法を使われた時の被害を多少は少なくできるはずです」


 ノークが作戦を提案し、皆がそれを承諾した。そして2日後に副都ロラリアへ向けて出発することが決まった。





 アランが兵舎から出ようとした時、後ろから声がかかった。


 「アラン、ちょっとお前にとっていい話がある」


 「ノークさん、それ本当ですか?」


 アランは目を細くしてノークを見つめたが、彼の様子が変わることはなかった。


 「お前大剣の戦い方で迷ってるだろ?動きで一目瞭然だ」


 「......はい、そうですが、どうかしましたか? 」


 「お前は運が良い。我らが夜明けの民最強の戦士マンセルが直々に指導してくださるそうだ」


 「え? いいんですか? 」


 「......構わない」


 マンセルは能面のように表情は崩さず、静かに頷いた。


 「じっくり見てもらえ。ロラリアに行くまで多少時間はある」





 日がもう少しで暮れるという時間帯。壮絶な戦闘をしたその日にさらにマンセルと鍛錬をすることになった。


 内容は普段使っている大剣で打ち合うという実戦形式のものだった。マンセルは極端に口数が少ないため、通訳兼審判としてノークが立ち会う。


 場所はセリントンの城塞内部にある広場を貸し切って行われる。


 「......来い」


 マンセルの合図で打ち合いが始まった。終始アランが攻め、マンセルが受けに回る展開が続くが、アランは彼に立ち回りで全く歯が立たなかった。


 「......違う」


 アランの動きが間違っていると、途端にマンセルは自分の長剣を用いて大剣を器用に弾き飛ばし、戦闘能力を奪う。そんな展開が何回、何十回も続く。



 ......違う......違う......違う......違う......違う......違う......違う


 マンセルが思った通り全く言葉でアドバイスをしないので、ノークが一旦止めてアドバイスをする。


 「アラン、相手の動きをよく見ろ。それに動きのキレが悪い。動きの始点と終点を意識しろ」


 やがて日が暮れても、鍛錬は終わらなかった。徐々に人が集まり始め、夜になったため誰かが広場に焚き火をしてくれた。


 加速度的に見物する人が増えていった。


 「2人とも動きが凄まじいな。特に夜明けの民のマンセル? だったか。あいつは化け物だな」


 「アランとかいう少年も相当良い線をいってるが、やはりマンセルは別格か」


 群衆はヒソヒソと話しをしながら2人の打ち合いを見守っていた。そこにアサノが様子を見に来た。2人の打ち合いを少し見た後ノークの元へ向かう。


 「アランはどうですか? 」


 「最初にマンセルと打ち合った地点で前に会った時より大分成長はしていた。だがそれでも挫折を感じていたということは、よほどの敵とやり合ったんだろう。少しずつ動きは良くなって来た。アランは根性があるからな。打ち合いを続けていればそのうち答えを見つけるだろう」


 「投げやりな言い方ですね」


 「そうか?かなり目をかけてるつもりだが。出なけりゃあの剣をやらねえよ」


 その後5回ほど打ち合ってから、マンセルが風に飛ぶような小さな声で呟いた。


 「......終わりだ」


 そういって充てがわれた宿に戻って行く。アランは全身が汗だくで、疲労困憊という様子だった。その場に大の字に倒れこむ。


 ノークとアサノはマンセルを追いかけ、尋ねる。


 「アランの奴、どうだった? 」


 「......素晴らしい」


 「それは、あいつの実力を評価しているということか? 」


 「......それ以外何がある」


 「マンセルがそう言うなら、間違いないですね」


 3人はアランを放ったまま自分たちの宿に戻って行く。


 



 ユーラは広場で倒れているアランを引き取ってくれと言う報告を受け、事務仕事を切り上げ迎えに行くことにした。たまたま近くにいたレンも一緒に行くと言い、2人でアランの元に向かう。


 「広場に着くと、群衆はすでに帰っており、兵士2人がアランを念のため見守っていた。彼は疲労のあまり大の字になったまま眠っていた。


 「おいアラン、起きてくれ。こんなところで寝るな」


 優しく頬を叩く。だが全然起きる気配がない。背負って担ぐには重すぎる。ユーラは最終手段に出ることにした。


 「早く起きないと、キスするぞ? 」


 その言葉にレンと見守っていた兵士達が一斉にユーラを見た。


 ユーラは徐々にアランへと唇を寄せて行く。兵士は唾を飲み込み、レンは顔を横にしあえて顔を横にして見ないようにしていた。


 あと一呼吸で触れると言うところで声が聞こえた。


 「ユーラダメだ、順序を踏まないと」


 目を閉じていた目を開けると、うっすらとだがアランも目を開けていた。急速に体の熱が冷めていく。


 「なんだ、起きてたのか」


 「なんだってどう言うこと? まさか俺が起きなかったら本当に」


 「うるさい!! 早く行くぞ! 」


 恥ずかしさと若干の名残惜しさを抱え無理やりアランを手で引っ張り起こし、宿まで引きずっていった。こうして激闘と激動の1日が終わった。


 




 ロラリアに到着する前日まで、アランとマンセルの鍛錬は続いた。その度に数多くの群衆が集まった。マンセルはアランを徹底的にいじめ抜いた。完全にマンセルの方が打ち合いを制していたので相対的に見れば分かりにくかったが、アランの剣術は確かに上昇していた。


 明日ロラリアに到着しようかというこの日も、も太陽が陰り始めた頃まで鍛錬が続いた。


 「......お疲れ」


 マンセルがアランにかけた言葉を聞いて夜明けの民のメンバーは即座に振り向いた。


 「マンセルがなぎらいの言葉をかけたということは」


 「多少は成果があったということでしょうね」


 コスモとアサノが笑みを浮かべて地面に倒れたアランを見つめる。そこにレンが走って駆けつけ、それに気づいたアランが体を起こした。


 「はいアランさん、これを」


 レンの右手には例のブツが乗せられていた。


 「......これ本当に大丈夫なんですよね? 」


 「もちろん。私も毎日飲んでます」


 目を細めてじっとレンを見つめたが、彼女は微笑みを返すだけだったので、諦めカプセルを口にする。


 「できれば中身の成分を教えてもらえますか?」


 「国家秘密です」


 予想通りレンが満面の笑みで答えた。アランはその反応になるのは分かり切っていたが、顔をしかめずにはいられなかった。




 


 

 「報告通り、セリントンの時以上に数がいますね」


 「ですね。3万人はいるでしょう」


 総司令官とノークがため息交じりに話している。


 「どうします? アラン殿の魔法は使えないですよね」


 「はい。ですが必ず勝利してみせます。アランには地獄を見せましたから」






 第一陣軍がロラリアの街並みを見据えている。この街は盆地の中に作られてる。これを利用してロラリアを盾にするように連邦軍は陣を展開している。対して王国の第一陣軍は3000歩程の距離で睨み合っている。


 「アラン、来てくれ」


 「ノークさん、なんですか? 」


 「任務の難易度が上がった。探知魔法で警戒しながらその上で敵を八つ裂きにしろ」


 「......」


 ノークの問答無用の押し付けに、アランは一切言葉が出てこなかった。ノークを鋭い目で見る。


 「そんな目で見てもダメだぞ」


 「ですよね。分かりました」






 「今度はこちらから仕掛けましょう。街を盾にすれば遠距離攻撃はできないなとどいうのは愚かな盲信です」


 総司令官が静かに目を閉じ号令をかける。すると第一陣軍の中で中央付近に配置されている魔術師50人が一斉に魔法の詠唱に入る。本来アサノの技量を持ってしても軍全てを覆うほどの障壁を展開するのは、魔力量が足りないため本来不可能だ。それを可能にするために、こちらも一段階上の領域に足を踏み入れた。


 「我らは皆等しく神の子なり 魔力の滝(マナ・ウォール) 」


 「星の咆哮(スーパーノヴァ)


 


 一秒にも満たない時間ではあったが、アサノが唱えた魔法の方が早く発動した。自軍の兵士全てから均等に魔力を採取し、1人では不可能な量の魔力を貯蔵する。その代償として、体に著しく負担がかかるためこの魔法が使えるのは1ヶ月に一度という制約があった。これを用いて展開された障壁は、禁忌魔法の攻撃をも耐え切った。


  徐々に煙が薄くなり、やがて王国軍が無傷であることが明らかになると、敵軍に動揺が走った。そこへ更に王国軍が更なる一手を仕掛ける


 




 「古代より定められし契約に従い シルギアの大地の守護者としての責務を果たし 全ての魔素を大地へと注ぐ そしてまだ若き少年へ慈悲を与えたまえ 咲き誇る大地(ブルーム ガイア)


 


 


 

 



 









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