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第43話

 行軍は順調に進み、二週間後にはネクラス共和国との国境までたどり着いた。そのことに気づいた共和国側が使者を派遣し、ユーラが対応に当たった。報告によると連邦の侵攻は港町セーラを超えて複数の都市をまたぎ、副都ロラリアまで達しているとの報告を受ける。すでに国土の四分の一を失っていた。


 そこで第一陣軍は共和国側の小さな町ロニで小休憩を取ることになり、今後どのように動くかを幹部数人、冒険者を代表してノーク、責任者としてユーラで話し合うことになった。


 最初に話しだしたのはユーラだった。


 「これでも全力で急いで来たのですが、すでにロラリアまで......」


 「はい、恥ずかしながら、我が国は軍事面において大きく遅れをとっております。ご存知の通りこの大陸で我が国の周りは同盟国ばかりであったための所業なのですが、まさか連邦が大陸を跨いで侵攻してくるとは考えてもおりませんでした」


 悲壮な顔つきで語る使者に、黙って眉を寄せて聞いていたノークが彼なりに励ましの言葉を送る。

 

 「仕方のないことです。過ぎたことを悔やんでも何も変わりません。それよりもこれからどうするかが大事です。すでにロラリアまで攻められているということは、我々が現地に到着する頃にはさらにいくつかの都市が呑み込まれる可能性が高いでしょう。予測ではどこで接敵が予想されますか?」


 ノークに尋ねられた総司令官は、しばし腕を組み考え込み、口を開く。


 「このままですと、丁度首都バンドールとロラリアの中間に位置するセリントンでぶつかることになるでしょう」


 セリントンと聞いて、共和国の使者がさらに表情を険しくさせた。


 「セリントンは城塞都市です。あそこを落とされれば奪還は容易ではありません」


 「我々も迂闊でした。もし連邦が攻めてくるなら、地形上最も攻めやすい貴国を狙うのは道理。日頃から軍を駐留させておくべきでした」


 軍人にしては珍しい後悔の念をさらけ出した総司令官に使者はとんでもないと首を振った。


 「我々からは何もおもてなしなどできないのに、貴国は同盟を結んでくださり、数百年の長きに渡り共に歴史を積み重ねてきました。今回も何の見返りもなく救援軍を派遣してくださり、感謝の極みです」


 「ならば我々は、その感謝に報いる成果をお渡ししましょう」


 ノークの一言に、シュレンベルク王国側の参加者全員が頷いた。


 その後も色々としたやり取りの末、到着した翌日の朝には出発することになった。





 会合を終えたユーラはすぐさまアランの元へ向かう。2000名もの人数は街に収容できないので、アラン達冒険者と一般兵士部隊などのほとんどの人員はロニのすぐ近くにある小さな給料地帯で設営し休んでいた。


 アランはユーラから会合で決まったことや現在の情勢を聞き、渋い顔をした。


 「なるほど、状況は良くないんだね」


 「ああ。一刻も早くセリントンへいかなければならない。約3日程度の距離だ。戦闘は近い」


 「でもさ、3日で着くんだったら今この瞬間にも向かった方がいいんじゃないの?」


 「無限に体力があればそうするが、かなり強行したペースで今まで来ている。1日は休みを入れないとみんなの体が持たない」


 「......確かにそうだね」


 「アラン何も考えていなかっただろ?相変わらずだな。将来上に立つ人間は物事を俯瞰で見ることも大切だぞ」


 「俺が将来上に立つって、どういうこと?」


 「え?ああそれは気にしなくていい。」


 思わず口を滑らせてしまった。想いを伝え合ったとはいえ今は戦場へ向かおうとしていることを認識し、意識をそちらに集中させるようにユーラは努力した。


 そして予定通り第一陣軍は明朝にセリントンへ向け出発した。







 「結構数いますね」


 魔道車を研究所の職員に受け渡し、アランが双眼鏡で城塞都市セリントンの前で待ち構えている連邦軍を見てそう言った。城壁は所々崩れ落ちており、アラン達が来る前にセリントンを陥落させようとしていたことが分かる。


 アランから双眼鏡を受け取ってノークも前方の様子を伺う。


 「大体2万人ってところか。それにしても俺たちが予定より早く到着することを知ってセリントンの制圧を諦めこっちを迎え撃つことを取ったところといい、何とも中途半端だな」


 「2万って、こっちの10倍ですよね。勝てますか」


 「慢心しなければ大丈夫だろう。見たところ向こうは通女の兵士部隊だけのようだ。こっちのような手練れは少ないと見ていいだろう。だからと言って」


 「何か来ます!」


 アランが叫び、咄嗟に炎の障壁を軍の前面に展開させる。するとそこにいくつもの弓矢が吸い込まれ燃え尽きた。


 「向こうはやる気満々のようだな。それにしてもアランよく気づいたな。まだ1万歩ほどの距離があったんだが。それだけの距離でも矢が届いたのは、魔法で距離を延ばしたってところだろうが」


 ノークのアランへの指摘については探知魔法を開発したことを話したところ、僅かだが驚きの表情で受け入れられた。アランはこれからどうするのかノークと総司令官に尋ねる。


 「こっちも同じことをしてやろう。」


 弓を持った兵士の隊列が前に出て、何やら呪文を唱えながら弓矢を放つ。まっすぐ敵軍へと向かい、後少しのところで射ぬけるという時に、杖を持った魔法部隊と思われる隊列が呪文を唱えた。と同時に弓矢が瞬く間に燃え尽きた。それを見ていたノークが笑みを浮かべ話し出す。


 「向こうも対策は練っていたらしいが、違うのは向こうが恐らく何百人もの人間で障壁を展開したのに対して、こっちはアラン1人で防ぎ切ったことだな。やはり相手は通常戦力だろう」


 「アラン......やるな......」


 マンセルから賞賛の言葉を贈られたが、その話し方が独特であるため、アランは嬉しい反面、少し鳥肌が立ってしまった。


 




 そこからしばらく弓矢の打ち合いが続いたが、お互いが防御手段を持っているためすぐこう着状態に陥り、お互いに損害が出ることはなかった。そのため両軍とも弓矢の打ち合いをやめ、接近戦を仕掛ける布陣へと変えて距離を詰めにかかる。


 やがて距離が2000歩ほどまで近づいた頃、ノークがアランへ相談を持ちかけた。


 「アラン、手柄を譲ってやる。この距離からお前の魔法で攻撃できるか?」


 アランは走りながら探知魔法で相手との距離を正確に探り、様々な条件を検討していけると感じ、それをノークへ伝える。


 「可能ですが、詠唱に少し時間がかかります。今の俺の技量では、走りながらだと難しいです」


 「よし、早速魔道車に戻り、準備を始めてくれ、俺は全軍へ伝える」


 




 アランは戦闘に備えて後方に控えている魔道車まで戻り、後部座席に座り、意識を集中させる。


 最前線を走っていた夜明けの民の一同は、突如として天候が明るくなったことに気がつき、上を見た。最初に呟いたのはコスモだった。


 「何だありゃ......しかもめちゃくちゃ暑いぞ」


 


 上空には小さな太陽が出現していた。





 アランが上空に超巨大な火球を作り出す。全魔力の8割を使って作り出した小さな太陽は、それだけで周りの気温をぐんぐんと上げていた。


 探知魔法を使い敵の布陣を正確に探る。そして魔法部隊を発見した時、アランは太陽を変化させた。雨粒ほどの大きさの火球を何万発も吐き出させ、敵軍を狙う。


 先頭を走っていた者たちには遠くからでも阿鼻叫喚の声が届いた。連邦軍の兵士達が次々と血を吹き出しながら倒れていく。よく目を凝らして見てみるといくつもの赤い線が連邦軍を襲うのが見えた。あまりに打ち出される速度が早く、目にもほとんど見えないため、防御バリアを展開する間も無く魔法部隊が身体中を穴だらけにされ瞬く間に全滅した。


 アランは敵軍の魔法部隊が全滅したことを確認すると、火の雨の掃射範囲を広げた。それにより加速度的に敵軍の兵士達が対処できずに命を落としていった。アランは今この瞬間はシュレンベルク王国最大の殺戮者となっていた。


 太陽が小さくなり、やがて消滅することには敵軍の布陣はズタズタになっていた。欠けた部分がそのまま死んだ人間の数を表している。組織としての統率を失った敵軍はひどく動きも鈍かった。そこへ第一陣軍の精鋭達が襲いかかる。





 「アランの奴、あの攻撃で2000人は倒したんじゃないか」


 「会わない間に随分と成長しやがって。姉貴としてこんなに嬉しいことはねえよ」


 「いつからお前が姉になったんだ」


 ノークとコスモが軽口を言い合いながらも、剣を、槍を振る手は止めない。


 「精度はともかく、あれほどの規模の魔法は私でもできないです」


 アサノのお墨付きに魔法に疎いノークは、アランがどれほどのことをしたのか初めて真の意味で理解した。


 「それじゃあ、俺たちも働くとするか」


 「そうだな、ちゃちゃっと済ませようぜ」


 夜明けの民のエンジンが掛かり出す。パーティーの1人ですら軍の一個師団の戦力に匹敵すると言われる彼らの中でも、最強と言われるのはノークではなくマンセルだった。今回の戦場でもその実力を遺憾無く発揮している。


 マンセルが用いる武器はアランとは違うタイプの、細長いが同じくらいの長さの長剣だ。アランが豪快な太刀筋をしていると表現するなら、マンセルは演舞を奏でるような美しい太刀筋をしていた。剣を振るたびに数人の兵士が切れたゼンマイのように崩れ落ちていく。毎秒単位で人を効率よく切り刻んで行く様子を、戦いながら他のメンバーが見て感想を漏らす。


 「マンセル、今日もマンセルしてるなあ」


 苦笑いをしながらノークが言った。


 「コスモ、その謎めいた言い方は止めてくれ。マンセルが不調な時なんてそうそうない。あったらその日は雨がふるさ」


 魔法の冷気で敵を氷漬けにしながらアサノも同意した。


 「夜明けの民に入れて頂いてから長い間団長とマンセルの背中を追ってきましたが、未だその背中は見えないです。あとコスモも」


 「何であたしだけついでみたいな感じで言うんだよ」


 そんなことを言っている間に、マンセルが仕留めた敵の数はすでに200人を超えていた。だがまだまだ足りない。まだ敵軍の方が数は圧倒的。それにまだ何かが潜んでいるとも限らない。


 戦いはまだ始まったばかりだ。




 

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