表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/82

第40話

 「この国が戦争?どういうこと?」


 「詳しいことは明日の緊急会議で分かる。すまんが、アランも出てくれ。今回1番の功労者でもあるからな」


 これほどの規模の被害が出た真相が明日説明されるのだろう。だがアランはその会議に自分が出る事にどれほどの意味があるのか疑問だった。アランがしたことは魔物の群れを半壊させるという並みの冒険者ではできないことではあった。だが一冒険者が国の運営に関わる会議に出る必要があるのか。


 だがユーラが出席を希望している以上、アランはその通りにするのが懸命なのだと思う事にした。自分が招集されることの理由など一冒険者である自分にわかる訳が無い。明日聞けば何か分かることがあるかもしれない。今、何かを考えるのは止めよう。そう考えると少しだけアランは気が楽になった気がした。


 「ユーラ、シノさん、今日はもう休みましょう。特にユーラは明日のこともあるから」


 「......そうだな。私もそろそろ限界だ。引き継ぎをしてくる」


 そう言ってユーラは重い足取りで廊下の奥に吸い込まれていった。


 「アラン様、今日はここでお休みください。別室を用意しました。ユーラ様とアラン様での2人部屋は流石に無理でしたが、なんとか私を入れて3人だけで休めます」


 「はい、ありがとうございます。すみませんが、先に休ませてもらっていいですか?シンさんから薬をもらったとはいえ、もう体力が限界なんです」


 「分かりました。ご案内します。ユーラ様には追って伝えておきますので、お気になさらず」


 アランはゴーレムのような重い足取りでシノについて行き、一泊する部屋の中へ入った。中には備品といったものはほとんど置いておらず、ベッドが3台置いてあるだけだった。


 ほぼ無意識で真ん中のベッドに向かい横になると、1分もせずにアランの意識は溶けるように夢の世界へ落ちた。







 「一体どういうことか説明してもらおうか」


 「独断で行なった事に関しては誠に申し訳ございません。ですが決を取りほぼ半数が賛同した計画でございます。現にノルドベルガを混乱させることには成功しております」


 「混乱させた先にあるのは我々の破滅なのではないか?」


 「それは......」


 「私にも責任がある。組織が立てたとは思えないあまりにも穴だらけでお粗末な、あれほど実行するなと言っていた計画を実行に移し、それを止められなかった責任がな。無論、諸君らも私と同様責任がある。その責任の取り方が自分の命を差し出す事になるとなぜ分からない?」


 「......確かに第一策は失敗しました。ですが第二策は成功してと言っても良いのではないでしょうか?現に多数の被害を負わせる事に」


 「その結果奴の覚醒を早める事になるとは想像できなかったのか?私は言ったはずだ。ノルドベルガそのものを攻撃対象にはするなと」


 「申し訳ございません......」


 「もう遅い。動き出した事を止めることは出来ない。我々が生き残るか滅ぼされるか、どちらかだ。ならば生き残るために足掻くしかあるまい」







 翌日、まだ日が昇り始めたばかりの時刻。発展の塔にて、ファルマン国王を含めた緊急会議が開かられることとなった。召集されたものは王都を運営する関係者全てに、現在まで残っている地方領主、王都警備を担当する兵士長、惨劇の元となった魔物を退治し、その現場に立ち会った冒険者数名。


 アランは二重の立場で参加している。1つは現場で魔物と戦った冒険者として。もう1つはユーラの護衛という国を運営する側の者の側近として。


 第会議室には既に参加者がすでに待機している。そこへファルマンが駆けつけ、早速議題の審議に入った。


 「皆、昨日の対応で極限の状態に追い込まれている中、よく集まってくれた。早速本題に入る。誕生祭開催中に起きた魔物襲撃事件についてだ。まずはなぜこのような事が起きたのか、概要を科学技術研究所魔法部門長ゲステル、説明してくれ」


 名を呼ばれたゲステルは、兵士と見間違うほどの長身と肉体を蓄え、その風貌に似合わない丸型の眼鏡をかけていた。軽く一礼をすると重苦しい空気の中、口を開く。


 「結論から申し上げます。先日現れた千を超える魔物の出現理由は、王都内において意図的に空間の歪みを発生させる事によって発生したランドリープ現象によるものです」


 聞きなれない専門用語に、大会議室は不気味な波紋を描く波のようにざわめきが広がる。


 「分かりやすく説明いたしますと、王都北部の過疎地帯と魔物が住む森を交互に入れ替え、転移させたのです。それによって森と共に大量の魔物が王都内に転移してきた、これが大量発生の理由です。現に更地だったはずの北部の約半分が現在森に覆われています」


 ゲステルの報告に第会議室は騒然となった。ファルマンがそれをなだめ、質問を続ける。


 「この現象を引き起こしたのは何者か特定できるか?」


 「確定した証拠はありません。ただ手がかりはあります。ベルファト家ユーラ嬢が襲われた時に護衛の冒険者アラン殿が切り落とした敵の腕です。その腕には幾何学模様の刺青がありました。これを解析したところ、この幾何学模様の正体はこの刺青が刻まれた者を生贄に空間の物質を不安定にさせるグラビトン系の魔法効果を発動させる事がわかりました」


 それを聞いたファルマンがすかさず追加で質問をする。


 「ちょっと待て。それが事実ならこの刺青を掘られた者はなぜ北部ではなくユーラ嬢の元へ向かい襲ったのだ?

あまりにも軽率な行動に見える。現にこうして我々に真相を暴かれているわけだからな」


 「陛下のご指摘された点について私達も頭を悩ませております。可能性を推測するなら、この者はランドリープ現象を引き起こす儀式から目を逸らさせるためにユーラ嬢を襲ったのでは、と考えております。すると今度はこの者に刺青を入れる必要がないという問題に行き当たります」


 そう言うとゲステルがずれた眼鏡を手で元に戻し、少し魔を開けてから恐る恐る話し出す。


 「もしかすると、襲撃者は同様のランドリープ現象を用いてユーラ嬢を誘拐するつもりだったのかもしれません」


 第会議室はさらに騒がしくなるが、当事者のユーラは冷静な表情を崩さない。だが首筋からは汗が一滴滴りおちていた。


 「だがそれはそれで疑問が残る。アランによれば襲撃者は明らかにユーラ嬢を殺害を狙っていた。これはどう説明する?」


 「推測にすぎませんが、二段構えの策だったのかもしれません。殺害できなければ誘拐する、と」


 ファルマンは頭を抱えた。大惨事が起きた原因は分かったが、何者が何の為にこのようなことをしたのかが掴めない。


 「考えてみよう。ユーラを殺害し、王都を混乱に陥れて誰が一番得をする?」


 ファルマンが皆に問うた時、ゲステルが挙手をし、発言した。


 「陛下、その点は魔法の観点から見ると消去法で推測ができます。最も複雑な系統のグラビトン系の魔法を扱えるのはこの大陸では我が国だけ。そして秘密裏に研究をしていたとしても武力で我々に対抗できる国もこの大陸ではおりません。そうすると他の大陸で魔力の研究が盛んで武力においても我々に匹敵する国となりますと......」


 「ハイルベルク連邦か......」


 ファルマンの呟いた言葉を聞いた一同は静まり返った。凍った氷にヒビが入ることを恐れるように。


 「数百年お互い干渉せずここまで来たのに、なぜ今になって......」


 文官が思わず呟いたその時、第会議室のドアが勢いよく開かれた。 



 「緊急!!同盟国であるネクラス共和国から港町セーラが襲撃されているとの一報が入りました」


 凍った氷が割れた瞬間だった。皆が冷静さを失い、騒ぎが大きくなる中、ファルマンだけは冷静だった」


 「皆一度落ち着け!!敵の情報は何か分かるか?」


 「襲撃して来た船にはハイルベルク連邦の軍旗が掲げられていたそうです......」


 ファルマンは思わず天を仰いだ。王都では死者数百名、負傷者数千名の大惨事が起きたばかりだ。その状態で同盟国が襲撃を受ける。タイミングとしては最悪だったが、敵側の立場からするとこれはあり得る事でもあった。


 「陛下、これは......」


 「目的が何なのかは分からんが、間違いない」


 ファルマンは臣下の問いかけに言葉少なげに頷いた。そして宣言する。


 「同盟国ネクラス共和国が侵略を受けた。これを我々シュレンベルク王国は宣戦布告とみなす。異議のある者はいるか」


 誰も手を挙げる者はいなかった。


 「よし、こう言う時こそ冷静に、狡猾に動くのだ。でなければ勝つことはできない。5分休憩ののち、再び集合とする。ユーラ、アラン。こちらへ来てくれ」


 ファルマンが席を立ったと同時に大会議室は慌ただしく人が行き来し、その様子は戦争が始まることを示していた。そんな中アランとユーラは速やかにファルマンの元へ向かう。


 「陛下、どういった要件でしょうか」


 「アランのことについてだ。ユーラとは後で幾らでも話し合う事ができるが、アランはもしかすると今この時が最後になるかもしれない。あまり時間もない。決定事項を伝える」


 ファルマンはそう言い、アランへ向き直る。


 「まずは事務事項からだ。なぜ王である私がこんなことをするのか疑問に思うだろうが、気にするな。私自身がお前と話をしてみたく文官から仕事を奪い取ったのだ。まずお前は昨日現れた約1400体の魔物のうち約800体を個人で撃破している。その功績を持って、アランを本日より冒険者ランクBに昇格とする。ここまでは良いか?」


 「はい、光栄です」


 ファルマンの手前そう言うしかなかったが、アランはランク昇格にはいまいち納得していなかった。だがそれを王に進言することは全く筋が違う話だった。


 「そしてここからが重要だ。我々はネクラス共和国へ向け軍を向かわせる。そこにアランは加わる気はあるか?」


 アランは驚いた。ファルマン国王自らが一冒険者の自分に対して軍と行動を共にするか問うているのだ。


 「ユーラは立場上必然的に軍に同行する。だがそのこととアランがどうするかは別のことだ。公私混同せず、自分の意思でどうしたいか決めろ」


 アランはベルファトから始まった旅の中で最も難しい決断に迫られた。

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ