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第4話

 月日が経つのは早い。


 アランがギルドで働き始めてもうすぐ2年が経つ。充実した日々だった。冒険者の依頼を受理したり、素材の買い取りを自分でしたりなど、ギルドの仕事はアランが社会で生きていくための糧になった。冒険者から語られる冒険談はアランの心をときめかせたりした。


 月に2回ほどノーク達からいろいろな事を教わった。ノークからはその時だけ剣を貸してもらい、基本の扱い方、剣の振り方、戦闘においての立ち回りなどを教わった。アサノからはアランが住んでいるこの国のこと、街の周辺のどこにどんな魔物が住んでいるかの勉強を教えてもらったり、魔法訓練の進捗具合を見てもらったりした。そのおかげか、アランはもういつでも冒険者として旅立てる力を身に着けていた。


 そして雪が溶けて春の兆しが見え始めた頃、アランは14歳になった。2階にあるギルド支部長室でコナツ、ユリエ、ユキと面談をしていた。


 コナツがアランに語りかける。


 「アラン、ほんとにいいんだね?」


 「はい。僕は冒険者になります」


 コナツはアランの真剣な眼差しを見て、小さく頷いた。


 「分かった。覚悟は決まってるようだね。2年間ギルドのために働いてくれてありがとう。

 それじゃあこれからのことを言うよ。アランはこれからは冒険者として自分で稼がないといけない。食費も宿代も全部自分持ち。命の面倒も自分でみないといけない。でもアランには2年間ギルドのために働いてくれたから、随分甘いけど今使ってる部屋を格安で貸し出すことにした。支部長権限でね。値段は1日200ベル。最底辺のFランクの報酬でも平均1回で600から700ベルだから、生活するのに支障はないはずよ。ここまではいい?」


 「はい、ありがとうございます」


 アランの返事を聞くと、コナツは頷いた。今度はユリエが続きを話し始める。


 「アランもギルド員として働いたから知ってるけど、一応規則だから話しておくわね。冒険者ランクはFからSSまでの8段階。ランクは依頼の達成回数、難易度、あとギルドやこの街、国への貢献度などで、総合的に判断されるわ」


 「はい、分かりました」


 「次にモンスターの部位の買い取りだけど、極力傷めないようにお願いね。あと高位のモンスターの部位や魔石ほど買取価格は高くなるわ。これはアラン自身が買い取りの受付をしたことあるからよく分かってると思うけれど。くれぐれも無理はしないように」


 「はい」


 アランは深く頷いた。


 最後にユキが話し始める。


 「それじゃあアランくん、冒険者カードを受け取って。これであなたも冒険者よ」


 全員が立ち上がり、アランがユキからカードをもらう。3人が拍手する。コナツがアランに発破をかける。


 「さあアラン!これで君も冒険者だ。何者も君の道を妨げることはできない。弱い者を助け、広い世界を見て、強く生きるんだ!」


 ユリエとユキも祝いの言葉を送る。


 「アランくん、おめでとう!」


 「忙しいときはバイトとしてギルド手伝ってね?おめでとう!」

 

 「ありがとうございます!」


 


 「おい、アラン」

 アランが1階へ降りると、いつからいたのか、ノークが声をかけてきた。肩に何か巨大なものを背負っているが、布で包まれていて何なのかは分からない。


 「ちょっとおめえに用事があってな。ここじゃ目立つからおめえの部屋いくぞ」


 せっかく降りてきた階段を逆戻りして2階にあるアランの部屋へ2人で入る。


 「おめえもいよいよ冒険者だろ?これをやる」


 ノークがそう言って背中から荷物を下ろし、ゆっくりとかぶせた布を外していく。そして出てきたものに、アランは心を鷲掴みにされた。


 それは鬼が持っていそうなほどの大剣だった。巨漢のノークと同じくらいの長さがある。刀身は淡くライトブルーに輝いている。2年で背が伸びたとはいえアランから見れば人外の化け物が持つべきだろうと思ってしまうくらいの大きさだった。


 「ノークさんこれは?......」


 「ん?冒険者祝いだよ」


 「いやでも、こんなすごい剣......」


 「凄いかどうかはおめえ次第だな。まあおめえは怪力だから最低限扱えるだろう。そこから先はおめえ自身でものにしていけ。ひとつだけ言っておくと間合いには気をつけろよ。あとこの剣は特殊な加護があって、刃こぼれしたり剣が傷んでも徐々に修復される。金がねえおめえにはピッタリだろ?」


 「はい、ありがとうございます」


 アランは恐縮しっぱなしだった。


 「じゃあ俺はいくぜ。次からは冒険者として対等の立場で会おう」


 そういってノークは階段を降りていった。アランはこの20分ほど剣に見とれていた。というよりもこの剣に魂を奪われていた。そしてふと我に返る。


 「依頼を受けよう」


 やっと思考回路がまともになり、大剣を背中に担ぎ1階へと降りると、複数の視線がアランに注がれた。


 「なんじゃい、あの剣は......」


 「でけえ、てかあいつアランじゃねえの?」


 「そういえばアラン14歳になったんでしょ?冒険者に転職したのよきっと」


 違う意味で有名になりつつあるアランだったが、気にせず依頼書のあるボードへと向かう。まだFランクのアランに受けれる依頼は少ない。


 薬草を届けるもの、倉庫での力仕事などもあったが、やはり冒険者になった以上はそれらしい依頼をこなしてみたいという思いがあった。そうやって依頼書を吟味していくと、目に留まるものがあった。


 依頼内容・魔物の討伐 主にゴブリン


 ランク F以上


 報酬 ゴブリンの場合1体50ベル ※必ず討伐証明部位を持ち帰ること


 期限 1週間以内


 これに決めた。依頼書を取り、カウンターへ持っていく。カウンターにはユリエがいた。


 「お?アランの冒険者としての初仕事だね。頑張ってらっしゃい」


 アランは丁寧にお辞儀をすると、一旦ギルドから外へ出た。太陽はまだ真上だったが、期限はまだ十分にある。討伐は明日にしようと決める。ならば明日に備えて軽く戦い方の復習をしようと考え、南門へ向かう。



 「お、アランって、なんだその剣は......まあいい、出かけるのか」


 「はい、これ冒険者カードです」


 「確かに。アランもいよいよ冒険者か。月日が経つのは早いな」


 衛兵と世間話を終えるとアランはノークたちと訓練をした平原へ向かった。


 とてつもない重さの大剣を背負っているとはいえ、持ち前の怪力を生かして走り続けると、30分ほどで平原についた。少し休憩すると訓練を開始する。




 事前にノークから指導してもらっていたおかげで、基本的な動きなどは様になっていた。だが武器が超巨大な剣なので、取り回しに苦労する。どうしても剣の振り方が遠心力に頼ったものになってしまう。接近戦はせずこちらの間合いで一方的に攻撃するのが今の最善だとアランは戦い方を確認する。


 約2時間ほど剣の訓練をした後、魔法の訓練に移る。


 いつものように体の魔力を循環させ、手のひらの上に炎を出現させる。大きさは握りこぶし2つ分まで大きくなっていた。アサノに教えてもらったのはここまでなので、これからは全部自分で工夫していかなければならない。


 手を上空に向け、押し出すようなイメージで魔力を操作する。すると炎がゆっくりと動き出し、10メートルほど進むと消滅した。


 「今のままじゃ使い物にならないな......」


 それでも今までよりは進歩したと、アランは気持ちを切り替える。と同時に重大なことに気がついた。


 「戦闘用の服がない......」


 それに気づいたアランは猛ダッシュで街へ戻った。





 ベルファトの街へ戻ってくると、早速武器や防具を置いてある一般層向けの商店街へと向かう。途中で追いかけっこをしていたのだろうか、小さな男の子と女の子が脇を通り抜けていった。


 一般層向けの商店街は平屋の建物が多かった。活気に満ちあふれていて、アランはその雰囲気にのまれそうになりながら武器屋を探す。やがて1件の店が目に止まった。


 「いらっしゃい」


 中へ入ると無愛想な頭を坊主にした巨人のような男が出迎えた。彼がこの店の主人だろう。恐る恐るアランは主人に尋ねる。


 「すみません、戦闘用の服がほしいんですが......」


 それを聞くと主人は、アランを頭から足元までジロリと見た。


 「予算は?」


 「えっと、8000ベルです」


 ギルドで働いていた時に貯めた貯金のほとんどの額を申告したが、それで命が買えるなら安いものだとアランは自分に言い聞かせた。


 「ちょっと待ってな」


 主人はそう言って店の奥へ入っていき、5分ほどすると手に黒い布のようなものを持ってきた。


 「これはストーンタートルの鱗で作られたローブだ。あんたが今着ている服の上に着れる。これだけである程度の攻撃は防げる。どうだ、これにするか?7000ベルだが」


 「はい、これをください」


 「毎度。ところであんた、良ければその剣を見せてくれねえか?」


 主人がアランの背中に背負っている剣を指差す。


 「はい、いいですよ」


 よいしょと言いながら剣を下ろし、主人に渡す。剣を借り見つめる主人の目つきが強烈に変わったがしばらく無言のままだった。やがて口を開く。


 「この剣をどこで?」


 「分からないです。大切な人からもらったものなんです」


 「......そうか、良いものを見せてもらった。大事にしろよ」


 主人はなにか言いたそうだったが、結局何も言わず剣をアランへ返した。


 「ありがとうございました。また来ます」


 アランの言葉に主人は手を上げて応えた。





 買い物を終えギルドに帰る頃にはすっかり夜になっていた。ギルドの酒場で食べても良いが、今日は屋台を見てようと思い立つ。


 屋台の場所は街の西側にある。様々な屋台があったが、アランの目に止まったのはやはり肉だった。その屋台の出し物はパンに重厚な肉と緑色の野菜をこれでもかとぶちこんだものだった。


 「これ2つください」


 「まいど!60ベルだよ!」


 アランは代金を払いパンにかぶりつく。まだ子供のアランにはどうして美味しいのかは分からなかったが、とにかく美味しかったのでその場で夢中で食べた。


 


 パンを食べ終わるとギルド内の自分の部屋に戻る。明日にそなえた今日は早めに寝ようと決めていた。だが明日いよいよ冒険者としての初仕事だという思いが心をわくわくさせ、なかなか寝付けなかった。

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