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第38話

 やがて抱擁が終わると若干の恥ずかしさを残しながら、もう夜も更けて来たので就寝の準備に入った。ふとユーラが思い出したかのように言う。


 「アラン、一週間後この王都でお祭りがあるのは知っているか?」


 「お祭り?そんなのあるの?」


 「ああ。誕生祭と言って、初代国王の誕生日が一週間後だとされている。パレードが開かれたり、屋台がたくさん出たり、賑やかだぞ」


 「へえ、それは楽しそうだね」


 「アラン、良かったら一緒にいかないか?」


 アランは頭の中で一週間後は休みかどうかを確認し、答えた。


 「良いよ。行こう」


 ユーラが一気に満開の笑顔を見せる。あまりにも嬉しそうにするので、アランは少し驚いていた。


 「それじゃあ一週間後は一緒にお祭りを見に行くからな。私は明日朝が早いから寝るぞ。おやすみ」


 「ああ、おやすみ」


 ベッドに潜り込み布団を被ると、すぐに彼女の寝息が聞こえて来た。それを見ているとアランも眠くなり、ベッドに横になる。プレゼント選びで苦労した1日は幕を閉じた。




 そこから誕生祭までいつもの1日が繰り返された。ユーラはベルファト家代表としての執務に追われ、アランはシン、レンと魔道車の研究、開いた時間には鍛錬という日々を過ごしていた。


 誕生祭を明日に控えた日。今日もアランは馬車で研究所に向かっていた。到着するともはや自分が研究員かのように1人で勝手に中へ入る。


 エントランスではレンがいつものように他の研究員と話をしている。そもそもアランが見かけた時レンはいつも誰かと話をしているような気がした。レンがアランに気づくと、話をしていた人と別れてアランの元へ向かう。


 「レンさん忙しかったですか?」


 「いえいえ、大丈夫です。いつもお越しいただきありがとうございます。中庭へどうぞ」


 レンへ付いて行き、もはや慣れたようにまっすぐ魔法陣へ向かい中庭に転移するといくつかさらに改造された魔道車が駐車されていた。


 「毎日見るたびにどこかが変わってる気がするんですが......」


 「魔道車の開発は一刻を争いますので」


 「実際にそれをやるのところが凄い......」


 「そんなことはいいじゃありませんか。今回は自信があります。どうぞ乗ってください」


 そう言ってレンがアランの背中を押し、魔道車まで行くと操縦席へ押し込み、レンは助手席に乗り込む。


 「今日は山の方へ行きましょう。門から出た突き当たりを右に曲がってください」


 「分かりました」


 そう言ってアランがアクセルを踏む。すると以前よリも滑らかに発進した。門を抜け、レンの指示通り突き当たりを右に曲がる。


 「衝撃がかなり少なくなってますね」


 よくぞ気づいてくれました、と顔に書いてあった。レンがカラクリを説明した。


 「車輪に植物の樹脂から作った衝撃を吸収する素材で覆ったんです。それに車体にもバネのような構造をした衝撃吸収装置を搭載しています」


 「凄いです。結構スピード出てるのに、お尻が痛くありません。それに気づくのが遅れましたけど、椅子の素材変えました?」


 「ええ。王都でも指折りの家具職人に作ってもらいました」


 「さらに値段が高くなりますね......」


 今走っている道はなかなかの登り坂で舗装もされていなかったが、車内の乗り心地はなかなかのものだった。


 「突然ですが、アランさんに吉報があります。こうして魔道車も最低限の所まで完成しました。そしてこのことを陛下と相談した結果、王都の最有力貴族にだけですが販売することになりました」


 聞いた瞬間ハンドルを間違った方へ切りそうになった。実験開始からいまに至るまでのペースが早すぎる。何かあったらどうするのだろうか。アランはそこが気になった。


 「もし予期せぬ故障やトラブルで乗った人に怪我とか出たらどうするんですか?」


 「大丈夫です。その危険を承諾してもらった場合にのみ販売されます」


 そんな無茶な、と思わず口に出てしまったが、彼女は自信げな態度を崩さない。


 「だってこの世界では当たり前のバッファローや馬で引くタイプの馬車じゃなく、自走式の車に乗れるんですよ?それくらいこの魔道車は技術革新のかたまりなんです」


 「一台いくらで売るんですか?」


 「今のところ40億ベルで考えています」


 あまりの金額の高さに動揺したアランはブレーキを掛け魔道車を止めた。


 「あっでも、まだ動力装置と相性の問題は解消されていないので、アランさんには定期的に魔力を充填していただくためにメンテナンスという名目で同行願うことになります。動力装置のエネルギー消費効率が大分改善されているので、頻繁に行くことにはならないので大丈夫ですよ」


 「王都の技術者は伊達じゃないですね......」


 話を聞いていて、アランは歴史の転換点の中心に自分がいることを実感し、まさか軽い気持ちで手伝い始めたことがこんな大事になるとはと思ってもおらず、冒険の妨げにならないことを切に祈った。研究所に向かう帰り道は動揺しているアランでは不安なので、レンが運転することになった。






 「アラン、朝だぞ」


 翌日、アランはユーラの体を揺すられ重たい瞼と体を持ち上げた。


 「まだ朝なんでしょ?」


 「アラン、もう祭りは始まってるんだぞ。出店も出始めてる」


 「そうなの?パレードが始まるのはいつ?」


 「2時間後だ。だから急ぐぞ」


 「あ、ユーラ、その服」


 ユーラはこの前アランがプレゼントしたチュニックを着ていた。


 「気づいてくれてよかった。どうだ、似合うか?」


 「すごく似合う。さすがユーラ」


 「褒めてくれるのは嬉しいが、早くしないとパレードの時間に間に合わなくなるぞ」


 そそくさと準備をし、2人で部屋を出た。


 



 国立科学技術研究所の役割は、技術の開発だけではない。事件などが起きたときの証拠を分析する際にも研究所が分析を行う。


 以前ユーラが襲撃を受けた際に切り落とした腕の幾何学模様をとある研究員が分析していた。だがある程度まで解析が進んだ時、研究員は大声で部下に叫んだ。


 「もう誕生祭は始まってるのか?」


 「はい、盛り上がってるみたいです」


 「陛下に至急連絡を! 今からでも中止にできないか至急相談したい」


 「何があったんですか?」


 「説明する時間すら惜しい。早く陛下に連絡しろ!!」


 「は、はい、分かりました!」


 

 


 塔を出ると、いつもと違う景色が広がっていた。普段でさえも人の多い王都だが、今日は特に顕著だった。人の波を縫うようにして2人は歩いた。


 「アラン、屋台があるぞ。行ってみよう」


 歩道の三分の一程度の場所を使い、屋台がずらりと並んでいた。屋台には食べ物以外にも、アクセサリーや、子供向けの武器の形をしたおもちゃなど、様々なものが販売されていた。


 「見てるだけでも面白いね」


 「そうだな。色々見て回ろう」


 ユーラは屋台を順番に見ていたが、アランは屋台よりも彼女の方ばかり見ていた。プレゼントした服はユーラのために作られたのではと思ってしまうほど違和感がなく、見事に着こなしていた。


 30分ほど屋台巡りをした後、ユーラがアランにパレードの場所取りをしようと提案してきた。


 「本当は今からでも遅いくらいなんだけど、まだ間に合うだろう。行こう」


 パレードが通る大通りへ向かうと、すでに場所取りを始める人が続出していた。2人も急いで場所取りに向かい、最前列ではなかったが、それなりにいい場所を取ることができた。


 「よし、ここならなんとか見えるな」


 「パレードって、何が通るの?」


 「今年のテーマは自然との調和らしい。何が通るのかはパレードが始まるまで分からない」


 「また芸術的なテーマだね」


 とりとめもない話をしているうちに時間は過ぎていき、パレードが始まる時間となった。その頃には前後左右どこを見ても人だらけで、ほとんど身動きが取れない程だった。


 ファンファーレが鳴り、壮大な曲の演奏が始まると、炎、雷、水、氷を模した踊り子たちが姿を表し、会場のボルテージが一気に上がる。


 踊り子が雄大なダンスを繰り広げる後ろから、恐らく魔法で作られたと思われる人の3倍はあろうかという巨大な半透明の獅子がドスンと音を立てながら踊り子たちについて行く。それを見た観衆、特に子供達から盛大な拍手と歓声が上がった。


 「これはまた、幻想的で。よくこんなの思いつくよね」


 「どうも今回は国立サエファル芸術大学の演劇学科の教授が監督らしいからな」


 「その大学ってそんなに凄いの?」


 「この国の大学の中で5本の指に入るほどの芸術大学だ」


 「こんなパレードを演出できるんだから、5本の指に入ってくる訳だ」


 アランが妙なところで感心している間にも、パレードは続いて行く。どうやら踊り子が数十人、その後ろに巨大な魔法で作った動物、という構成のようだった。


 「アラン、踊り子に見惚れるんじゃないぞ」


 「え?綺麗だとは思うけど、芸術的な目でしか見てないよ?」


 「ふむ、それなら宜しい」


 「......ユーラ、今悲鳴が聞こえなかった?」


 「悲鳴?歓声じゃなくて?」


 「うん......」


 耳で聞いたというよりは、直感が掴んだ感覚だった。その時、はるか後ろにいた踊り子たちが懸命に走りながらこちらへ向かってきていた。その表情は恐怖に満ちている。


 その様子を見たアランは探知魔法を発動させる。すると数多ある人間の反応以外に、数百、もしかしたら千に届くのではないか。魔物の反応を見つけた。


 その瞬間、人ごみの中からジャンプして抜け出し、大通りへと着地した。その後をユーラが必死についてくる。


 群衆は突然のことに錯乱状態になっていた。だが異常事態だということに気づいた警備に当たっていた衛兵が観客の誘導を始めるも、思うようにいかない。


 「アラン、どうしたんだ!?」


 「なんでかは知らないが、とてつもない数の魔物が現れてる」


 アランはアイテムボックスから大剣を取り出すと、猛烈な勢いで悲鳴が聞こえる大通りの奥へ走り出した。すると20秒もしない内に怪我をしてうずくまる踊り子たちがたくさんいた。


 「ユーラ、負傷者の救護をお願い。俺は異変を探ってくる」


 「......分かった。それが一番良いだろう。くれぐれも気をつけてくれ」


 「うん、ユーラも何があるか分からない。油断しないで」


 アランはそう言うと、異変の元凶へと向かって駆け出した。




 


 



 

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