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第36話

 「これから測ってみないと正確な数値は分かりませんが、動力装置のパワーを上げることに成功しました。多分」


 「多分ですか」


 アランは半笑いで言葉を返した。


 いつものように魔力を充填し、動力装置を起動すると、シンが測定装置と繋げる。


 「おお、素晴らしい。86バッファローパワーまで上昇しています」


 「どうしてパワーを上げることが出来たんですか?」


 「魔力からパワーへの変換効率を上げることに成功したのです。あとは、相性の問題も少しずつ解明されてきました」


 魔力の相性問題の解消に目処が立ってきたということは、量産化に一気に近づいたことになる。アランはどうやって解決策を見つけたのか気になった。


 「シンさん、謎が解明された理由は素人の僕が聞いても分かるものですか?」


 「ものすごく簡単に言いますと、魔力そのものにも波長のようなものがあって、動力装置と相性の良い波長の形がもう少しで分かりそうなんです」


 「なんとなくですが、わかりました。ありがとうございます」


 シンはそれを聞いてうんうんと満足そうに頷いた。


 「今日は実際に街道で操縦してみましょう」


 「え?もうするんですか?」


 「いつまで中庭でぐるぐる回っていてもつまらないでしょう。それに実際の街道へ行けば山ほど新しいデータが取れます。さあさあ行きましょう。裏庭は奥の細道と繋がってますから、そこから出られます」


 アランが運転席に、シンが分厚いメモ帳を持って助手席に乗り込む。


 「シンさん、起動しますよ?」


 「はい、いつでもいいですよ」


 アランが起動スイッチを押すと、前より若干大きめの電子音が響いた。右側のペダルを少しだけ踏み込み、魔道車がゆっくりと動き出した。


 普段はぐるぐると回っているだけの中庭を奥に進むと、小さなゲートがあった。研究員が門の側にあるボタンを押すと、ゲートがゆっくりと開く。


 開いたゲートの隙間を慎重に進む。研究員が手をふって見送る中、魔道車は大いなる一歩を踏み出した。


 「多少マシになったとはいえ、振動が凄いですね」


 「うーん、確かに。これは車輪の構造そのものを変えないといけないですね。衝撃吸収装置は完成までもう少しなのですが」


 ゲートを出た先の突き当たりを左に曲がり、ゆっくりと市民街へと向かう。下り坂が続くので、アランは左側のペダルを踏み込んだ。


 右側とか左側のペダルって言いにくくないですか?」


 「そう思って考えてきました。右側のペダルがアクセル、左側のペダルがブレーキです。名前は響きで考えました」


 響きという言葉を聞いて自分でツボに入ったのか、シンが大いに笑い、アランもそれにつられて笑った。


 「今の所ブレーキの効きは十分ですね。これが効かなかったら暴走してしまいますから、良かった」


 「ちゃんと動作する確信があったんですよね?」


 「......もちろん」


 「なんですか今の間は」


少しの間沈黙が場を支配したが、ブレーキは心配をよそにきちんと動作した。やがて道を進んで行くと、人通りの多い街道が見えてきた。


 動力装置の作動音がそれなりに響くので、道行く人は魔道車の存在にすぐに気がついた。バッファローもいないのに自力で動いている魔道しゃをみて、人々は文字通り目を点にしていた。


 「注目されていますね」


 「当然です。一般市民の方が魔道車を見るのはこれが初めてですから」


 人がゆっくり走るくらいの速度で走っているので、次々と魔道車を見た人々が追いかけてきた。中には話しかけてくる人もいた。


 「あの、これは何ですか?バッファローもいないのに動いてるんですけど」


 「これはまあ、新型の馬車のようなものですよ」


 シンがうまくはぐらかしながら答えていると反対の通りで子供が興奮していた。


 「ねえねえ母さんあれ見て!」


 「ん?あれは何なのかしら。不思議な馬車ね。あっもしかしたら研究所のものかもしれないわよ?」


 「僕も研究所に行きたい!」


 「それならたくさん勉強しなくちゃいけないわね」


 どうやら魔道車は子供の夢も載せて走っているようだった。親子の様子を見ていたアランも、自分が子供なら興奮するだろうなと思い、今のこの境遇に感謝した。


 魔道車は街道を進み、やがて大通りに出る。そうすると今までとは桁違いの人々が魔道車を見つけその場が大いにざわついた。


 「シンさん、流石にこの魔道車国の秘密に指定とかされてないですよね?」


 「大丈夫です。そうだったらこんなところで実験なんかしません。それにしても反応が予想以上ですね」


 「そりゃ今まで見たことないものが突然現れたら驚くでしょ......」


 科学者というのは頭が良い分、どこか抜けているところがあるのではないか。シンを見ているとそう思わずにはいられない。


 野次馬も何か研究所の実験であることは薄々察してはいたので、魔道車の進路上を妨害するといったようなことはなかった。シンの指示でアランはアクセルを踏み、スピードを上げる。とにかくこの野次馬から逃げなければ事故になりかねない。アラン達を乗せた魔道車は王都の中でも過疎めいた地域へと向かった。


 「この魔道車、量産化の目処は立ったんですか?」


 「あと少しですね。今魔力の波長を変換する道具を製作中です。それができれば道は開けるでしょう。ただ量産化といっても、一家に1台という訳にはいかないでしょう。前にも申したかもしれませんが、その辺りはまだ調整中です」


 「相変わらず凄まじい開発スピードですね......」


 「ところで」


 シンが突然話を切り替えた。


 「ユーラ様とはどうですか?」


 「どう、というのは?」


 「上手くやれていますか?パーティーを組んでおられるんですよね?」


 「はい。ユーラは信頼できる仲間です」


 「それだけですか?」


 「はい?」


 アランはシンの言いたいことがわからず、困惑した。


 「側から見てるとすぐ分かりますよ。ユーラ様がアラン殿をどう思ってるか」


 「......こういうことは、経験が浅いというか、よく分からなくて」


 「それは言い訳になりませんよ」


 シンは優しく、しかし真剣な表情で告げる。


 「アラン殿はユーラ様のことをどう思っておられるのですか?」


 「そうですね。意識していると思います」


 「異性として?」


 「......はい。でもユーラとは身分が違いすぎます」


 「アラン殿自身の気持ちが大事なのです。早くしないと間に合わなくなりますよ。ユーラ殿はベルファト家の令嬢だ。婚姻の話もそう遠くないうちにやってくるでしょう」


 話を聞いていてアランは少しだけムカッとした。自分にどうしろというのだ。世の中には自分で動かせることと動かせないことがある。 アランは考え込みすぎて一瞬操縦が疎かになりかけ、冷や汗を書いた。それを見ていたシンがさらに話を続ける。


 「アラン殿は考えすぎです。自分のしたいと思った通りに行動すればいいのです。自分と波長の合う相手とは中々巡り会えませんよ」


 「......そうですね。頑張ってみます」


 魔道車は人の少ない街道をゆったりと走っている。アランは心の中でシンに感謝した。以前からなんとなくだがユーラからの思いに薄々アランは気づいていた。だが今回シンと話すことで心の整理がついたような気がした。とはいってもどう行動すればいいのか今はまだ分からなかったが、今回のことで何かが自然と変わっていくことだろう。





 一方王都中心の発展の塔では昨日に引き続き大会議室において会議が行われていた。今回の主な議題はベルファトに建てる塔についての議論だった。司会進行は自然と国王ファルマン、そしてユーラが先導した。


 「一口に塔を建てるといっても、どのくらいの規模で、何棟建てるかが大事です」


 「そんなもの、ドーンとたくさん建てればいいんだよ。一極集中は不味いんだから、これでバランスが少しだけマシになる。一気に100棟くらいなんてどうだ?」


 ファルマンの言葉で大会議室が一気に笑いに包まれた。ユーラも笑いながらファルマンへ助言した。


 「陛下、冗談もほどほどの大きさにしていただかないと冗談になりません」


 「ではあらかじめ言っておこう。これから私が考えていることは本気だ。ベルファトに建てる最初の塔は王都よりも高いものにする」


 笑いから打って変わって場の空気が圧縮された。

 

 「陛下、それはなぜでしょうか?」


 「そもそも政治を司る都市が最大の都市でないといけないと誰が決めた?寧ろこれからは分業で行った方が良いのではないかと私は考えている」


 その時1人の領主が挙手をし、ファルマンが指名した。


 「分業制にするということは、首都機能以外も移転するということでしょうか?例えば王都は首都であると同時に我が国の経済の中心も担っております。これを丸ごと移転するということはそれなりに混乱も起きるのではないでしょうか?」


 じっと目を閉じ話を聞いていたファルマンが、目を開け温和な笑みを浮かべて答える。


 「分業という言葉は言い過ぎだったかもしれない。もちろん王都にいる商人達にベルファトへ無理やり引っ越せなどとは言わん。だが先も行ったように一極集中は好ましくない。国の民、商人、この国に住まう者には選択肢が必要だ。それを増やすためにまずはベルファトを特区に指定した」


 「なるほど、理解いたしました」


 質問した領主が深く一礼し、着席した。


 「と、いうわけでだ。一旦塔の件を片付けよう。ベルファトの新たな象徴となる塔をどうするかだが、ユーラ、希望はあるか?」


 「貴族階級はもちろん、一般市民も立ち寄れる交流の場にしたいと考えます」


 「ふむ。それは一にも二にも賛成だ。私が聞きたかったのは規模の話だ。具体的には、ドーンと200階建てくらいのどデカイのにするか?」


 ファルマンの提案にその場にいた者全員が耳を疑った。


 「陛下、それでは王都のどの塔よりも高くなってしまいます。やはり格好は大事なのでは?やはり王都が一番でないと......」


 「常識に囚われるな。それに他の都市にどでかい塔が建ったくらいで王都の威厳が揺らぐなら、そんなものは捨ててしまえば良い。なんならベルファトと王都で塔の数を競いあっても面白いかもしれんな」


 そう言って豪快に笑うファルマンに、側室の財務担当官が顔を白くした。


 「陛下、それでは国庫がいくらあっても足りません......」


 「もちろん半分冗談だ」


 「は、半分でございますか......」


 「ともかく、これで骨子は決まった。あとは動くのみ」


 とても今回の決断を喜んでいたユーラだったが、一方で自分の収める街の行く末が全く想像できないことに思わず苦笑いしながら外の景色を見た。







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