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第30話

 正門を通ってからも、アランは周囲を子供のようにぐるぐると見回していた。といってもほとんど視線は上の方ばかりを見ていた。


 一体これは何だ。とてつもなく高い建造物が視界を圧倒している。それも1棟や2棟どころではない。もしかしたら10棟以上はあるのではないか。アランはユーラに尋ねずにはいられなかった。


 「ユーラ、この馬鹿でかい建物は一体......」


 「この高層建築物はまだ正式な名前が決まってなくてな。今は塔と呼んでいる。王都は国の最先端を行く科学都市だ。国直属の研究所があり、そこで様々な技術が開発されている。この塔はここ100年で研究所が生み出した数多の成果の中で最も偉大なものだ」


 「はあ、そうなんですか......」


 気の抜けた返事をするくらいしかできなかった。それくらい今のアランには目の前の光景を認識することが難しかった。


 塔はとてつもなく高く、そして形も様々だった。山羊のツノのような形をした、上に行くに従って徐々に曲がって行く塔。完全な立方体の形をした長くどこまでも空に届かんとばかりにそびえ建つ塔。どこかの芸術家がデザインしたような建物自体がねじれながら建っている塔。様々な塔が空の景色を奪い合っていた。


 「アラン、見とれるのも無理はないが、用事を済まさないといけない」


 「あ、ああ、そうだね。これから何をするの?」


 「最大の用事は会議だが、それ以外にもあってね。研究所に行く」


 「研究所って、あの塔を開発した研究所のこと?」


 「そうだ。研究所の所長とは知り合いなんだ。仕事上でも、個人的にも。是非ともアランを紹介したい」


 「はい、ありがたいお話です」


 なぜ自分が研究所に出向く必要があるのかと聞きたかったが、喉から出そうなところを無理やり止めた。






 途方もない人の多さだ。ベルファトも国内ではかなりの大都市らしいが、この王都はそれをも凌いでいた。そして人が多いだけでなく、道も広かった。なのですれ違う際にぶつかるということはほとんどなかった。


 先ほどからなぜかすれ違う人々みんながアランを振り返る。その目には若干恐れの感情があった。それに気づいたユーラがアランに注意した。


 「アラン、大剣はアイテムボックスにしまえないか?この街には物騒すぎる」


 「あ、ごめん、つい日頃の習慣で」


 そう言って大剣をアイテムボックスにしまった。


 「そういえば、この街のは武器屋はないの?」


 「山ほどあるが、街中では布なので隠すことが多い。王都は治安が良いからな」


 「何もかも規格外な街だな」


 すれ違う人々もどこか上品だ。この街には平民と貴族の垣根は少ないのだろうか。服装などから何と無く判別は着くのだが、平民のような人の服装ですら上品だった。生活水準そのものが高いのだろうとアランは考え納得した。


 「それで、研究所はどこにあるんだ?」


 「ん?見えてるぞ」


 ユーラが指差した先には例のヤギの頭のように曲がった超高層の塔だった。


 「歩きでは遠いから、このまま馬車で行く。あの塔全体が研究所、正式名称は国立科学技術研究所だ」


 「さっきから規模がおかしい......。馬車を持っていない人はどうなるの?」


 「所々に乗り合いの馬車が乗れる馬車がある。それを使う」


 「なるほど」


 アランは馬車の中から依然として街を見ている。ようやく地表の様子が気になり始め、今走っている通りを見ていると、色々な種類の店があった。ものすごく上品なドレスが展示されている服屋や、遠くから見るだけでも段違いの性能だということが分かる剣が展示されている武器屋など、地上にも誘惑が溢れていた。


 「ユーラ、あそこの武器屋に行きたい」


 「我慢しろ。しばらくは王都に滞在する予定だから、いつでも行ける」





 1時間ほど馬車を走らせ、研究所の前に着いた。馬車で30分もかかるのだから、王都がいかに広い街なのかがよく分かる。


 馬車を降り、唐の入り口へ向かうと、何人かの職員が出迎えてくれた。列の中央にいた人物が挨拶をした。


 「長旅お疲れ様でございました。道中はいかがでしたか?」


 ユーラが微笑を浮かべながら答える。


 「旅路は長いものでしたが、快適でした。ここにいる者も一緒でしたので。所長、紹介したい者がいます。彼です。アラン、こちらへ」


 アランはユーラに手招きされ、所長の前へ一歩出る。


 「彼はアラン。今回は護衛という名目で同行させています。現在はC級冒険者です」


 紹介され、浅くお辞儀をした。


 「ほう、彼がユーラ様の将来のフィアごほ!?」


 先を言おうとするのをユーラが肘打ちで無理やり止めた。


 「失礼、私はこの国立科学技術研究所の所長を務めております。シンと申します。アラン殿、噂はユーラ様から伝書鳩で聞いていますよ」


 「嫌な予感がしますが、どんな噂ですか?」


 「とんでもない。ベルファトにものすごく強い冒険者が生まれて喜ばしいことです。しかもその方とパーティーを組めたことは幸福の極みです。この様な内容ですな。あとは彼がむこよう」


 「あー!あー!シンさん余計なこと言わないでください!」


 2人の仲の良さは確かに仕事上のものを超えるものがあるなとアランは納得した。


 「シンさん、そろそろ本題に入りましょう」


 傍にいた研究員がシンに待ったをかけた。


 「お、そうだね。今日ユーラ様は知っておられるが、今日来てもらったのは、とある実験を手伝っていただきたいのです。特にアラン殿に」


 まさか自分に手伝う事があったとは思わずアランは大層驚いた。そもそも研究者というのは怪しい人種だ。もしかしたら自分の体で何かをするのかもしれない。尋ねようとした時、シンの方から補足が入る。


 「ご安心ください。何も人体実験をするなどというわけではありません。これから行う実験が成功すれば、我が国にとっての革命が起こるでしょう」


 「革命......ですか?」


 「口で言っているだけでは何のことか分かりませんので、どうぞ中へお入りください」


 とても長い前座が終わりようやく塔の中へ入る。






 塔の中に入った瞬間、暖かい空気がアラン達一行の体を包んだ。すかさずアランがシンに尋ねる。


 「それは温度を一定に保つ魔道具を設置しているからです。なのでこの中は冬でも夏でも快適です」


 「ここは異世界か何かですか」


 思わず苦笑した。王都とそれ以外の街で文明のレベルに差がありすぎる。これが普及すれば国はもっと豊かになる。なのにそうしないのは技術的にまだ普及させることができないのか、あえてそうしない理由があるのか。アランは考えたがたかが一冒険者が解決できる問題ではないので、すぐに思考は霧散した。



 白色で統一された内部はさながら神殿のようだった。慌ただしく研究員であろう人々が行き来している。


 「ささ、こちらにどうぞ」


 シンは塔の奥の方へ一行を案内した。すると足元に複雑な左右対称術式が描かれた魔法陣をアランが発見する。


 「これは簡単に言えば転移装置です。禁止区画以外の階層へ自由に転移することができます。この塔は80階まであるのでこれがないと全く話になりません。といってもこの塔は下から数えた方が早いくらい低い高さですが」


 「は、はちじゅう......」


 アランはその数字を聞いて思わずふらつきそうになった。だがいちいち驚いているアランにしびれを切らしたユーラが無理やり引きずって魔法陣の中へ入る。すると辺りが眩しく光り、収まった時には広い庭の中にいた。


 「あれ、俺たち塔の中にいたはずじゃ」


 「申し訳ないです、今回の実験は屋内ではできないものでして。塔に隣接している中庭で行います。アラン様、あれが見えますかな?」


 シンが指差した先には馬車があった。だが何か違和感がある。シンに案内されて近づいていくと、一見馬車に見えるが車輪が形で、以外は色々と違っていた。


 「これは何ですか?馬車にしては馬やバッファローを操る座席が見当たらないですけど」


 それを聞くとシンはよくぞ聞いてくれたと興奮しながら説明を始めた。


 「これは魔導車と言って、燃料を使い動力を発生させ自力で走行できるものです」


 「それはすごいですね!!」


 しかしアランが褒めると、シンは深刻そうな顔をした。


 「ただ、もう少しで完成というところで問題が発生しまして。動力発生装置の仕組み自体は完成しているのですが、魔導車を動かすほどのエネルギーを発生させることができていないのです」


 「その動力発生装置のエネルギーを発生させる燃料は何ですか?」


 「魔力です。それも純度が高ければ高いほど良い。それともう1つは動力装置と魔力の相性です。宮廷魔術師を使って魔力を充填したのですが、どうも相性が悪かったみたいで起動しませんでした。そこでアラン殿の出番というわけです。ユーラ様から聞いたところによると、アラン殿が放つ魔法はとてつもなく強力だとお聞きしております。相性の面はどうしようもありませんが、一度試していただきたいのです」


 そう言うとシンは魔導車の前面の出っ張った部分にある蓋を開けた。すると長方形の何やら難しそうな機械が現れた。これが動力発生装置なのだろう。


 「ここに魔力を当てると自然と吸収されます。アラン殿は炎の魔法使いなので、炎を噴射していただければ充填されます」


 シンが引き続き説明を続ける。


 「少し専門的な話になりますがお聞き願います。自力で魔導車を動かすには最低でもファームバッファロー2頭分のエネルギーが必要です。我々はこれをバッファローパワーと呼称しました。つまり2バッファローパワー以上のエネルギーを出せれば魔導車は自力で動けるようになります」


 聞いてはいたがあまり理解していないアランはとりあえず魔法を動力装置に充填することにした。


 アランが炎を手のひらの上に出現させる。


 「炎が青い......」


 アランの青い炎をシンは興味深そうに見ていた。


 そして炎を動力装置に噴射した。すると装置の周りに霧のようなものが発生し、そこに向かって炎が吸い込まれていく。


 「どのくらい続ければいいんですか?」


 「そうですね、5分ほどお願いします」


 5分ほど魔力を噴射するだけなら朝飯前だった。それよりも結果が気になる。5分という時間がやけに長く感じた。そしてシンが合図を出し魔法の噴射を止める。すると助手であろう研究員が何か変な機械を持ってきて動力装置と繋いだ。そしてしばらくすると唐突に叫んだ。


 「成功です!!60バッファローパワーのエネルギーが発生しています!!」


 その言葉にシンを始めその場にいた研究員全員が沸き立った。


 





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