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第3話

 ノークがアランと話した翌日の朝、ノークとコスモが宿で朝食をとっていた。

 

 「随分あの子に熱心なんだな」


 「まあな」


 「どこにでもいそうな子供じゃないか。あの子のどこが気になるんだい?」


 「言葉にするのは難しいが......しいて言うなら、勘だな」


 「勘ねえ......私はそういうの弱いからなぁ」


 「いつ輝き出すかは分からん。もしかしたら俺たちが冒険者を辞めてからになるかもしれんし、数年でSランク入りするかもしれん。確実に言えるのはあいつは粘り強く磨けば必ず光る」


 「ひとつくらい何か明確な根拠みたいなものはないのかい?」


 「そうだな......気になったのは、あいつの馬鹿力だな。当たり前だがあの年のあの体型であの怪力は出せない。多分あいつは加護を受けてる」


 「なるほど。だとして、あんたがどうしてあの子の面倒を見る必要がある?」


 「だってずーっと戦いばっかの日々じゃねえか。少しくらい別のことがしたいんだよ」


 そう言ってノークは笑った。




 休みの日がやってきた。アランはギルドの玄関前で待っている。そこで待っていればノーク達が迎えに来る手はずだった。

 アランがぼんやりと空を見上げていると、視界に覆いかぶさるように巨大な図体が現れた。


 「よおアラン、元気そうだな」


 「おはようございます」


 アランを迎えに来たのはノークの他に、知らない女性が一人いた。


 「へえ、リーダーお気に入りってこの子なんですか」


 茶色の髪をおさげにしたかわいらしい女性だった。目も茶色で、少しだけだんごの形をした鼻が特徴的だった。頭には魔術師が身につけているようなとんがった帽子をかぶっている。


 「おはよう、アランくん、私はアサノ。パーティ夜明けの民の魔術師です」


 「はじめまして」


 「よし、行くぞ」


 「どこへ行くんですか?」


 「お前の願いが叶うかどうか調べにいくんだよ。ついて来い」


 そう言われたアランは頭の中の疑問が解決しないまま、2人の後をついていく。





 ベルファトはそこそこ大きな街だった。建物はほとんど石造りで6,7階建てのものも多い。真上から見ると楕円形の形をしており、中央よりやや北に領主の城がある。

 中央に行くに従って貴族、大商人など裕福な人の割合が多くなり、外へいくほど平民の割合が増える。そして街の端をぐるっと守るように壁で囲っている。


 アラン達3人はベルファトの南門で検問を受ける。


 「これはノーク様、依頼でのご出立ですか?」


 衛兵が声をかける。


 「いや、ちょっと散歩にな。アサノは知っているとして、こいつは連れだ」


 そういってアランの肩に手を置く。


 「分かりました。どうかお気をつけて」


 門番を抜け、外へ出る。


 「そういえばアランくん、身分証はどうしたんですか?」


 「もってないです」


 「え?持ってないと街中には入れないはずだけど」


 「兵士さんのいないところで壁を飛び越えました」


 「飛び越えたって......結構な高さあるけど......」


 「こいつはちょっと特殊なんだよ。ていうか自慢の怪力を悪い方に使うんじゃねえ。どうせまだ身分証発行してもらってないんだろ?帰ったらユリエにギルド員の証明書を作ってもらえ」


 ベルファトの周囲は平原が続いており、そこにいくつかの森が生い茂っている。3人はベルファトの門が見えなくなるまで街道を進み、そこから横にそれなだらかな丘を登っていく。


 「ここまで来ればいいだろう。アサノ」


 アサノは肩に掛けていたカバンから小さなガラスでできたような球を取り出し、ゆっくりと地面に置いた。


 「これは魔力球といって、触れた人に魔力がどの程度あるか、どの属性の魔法に適正があるかを調べることができます。アランくん、早速だけど、これに両手で触れてみて」


 アランが恐る恐る透明な魔力球にふれると、真っ白に光る。その輝きは昼間でも3人の顔を照らすほど明るかった。


 「アランくん手を離して。今調べたのは体の奥に眠る潜在魔力の大きさです。簡単に言うと才能です。アランくんの場合は私も嫉妬しちゃうくらいの潜在魔力があります。これから訓練していけばいつか必ず花開きます。じゃあもう一度魔力球に触れてください」


 アランがもう一度魔力球に触れると、今度はオレンジ色に輝いた。


 「アランくんは炎属性の魔法に適正があるようです。あとアランくんはまだまだ成長途中なので新しい適正に目覚める可能性もあります」


 「なるほど、ありがとうございます。でもどうしてこんなことを?」


 アランの疑問にはノークが答えた。


 「手っ取り早く言えば、俺はお前が気に入った。冒険者になりたいんだろ?暇な時に剣やら魔法やら必要なことを教えてやるってこった。おいどうした、もっと喜べよ」


 ノークが怪訝そうな表情を見せる。アランは不安そうな面持ちでノークへ尋ねる。


 「あの僕、何も渡せるものとかないですよ。お金もないし......」


 「はっ、そんなこと気にしてんのか。暇つぶしなんだからいいんだよ。どうすんだよ、やるのか?やんねえのか?」


 「やります!」


 アランにとっては千載一遇のチャンスだった。食い気味に返答していた。


 「よし、それでこそだ。そのためにアサノを連れてきたんだからよ。今日は魔法を教えてもらえ」


 それを聞いたアランは、アサノに向かってぺこりと頭を下げた。


 「よろしくおねがいします」


 「こちらこそ。といっても教えるのは魔法そのものというよりは魔法が使えるように訓練する方法です。つまり基本だけです。あとはアランくんの頑張り次第です。では始めましょう」


 そう言うとアサノは右手を前にかざす。少しすると手のひらの上に握りこぶし大の炎が出現した。


 「魔力は普段体内でバラバラに蓄積されています。それを集め、血液と同じように体内で巡らせるように意識します。そして巡らせた魔力を手の上で発散させるとこのようなことができます。アランくんもやってみてください」


 アランは手を前に出して集中した。だがいつまでたっても炎が出ない。


 「最初はなかなか上手くいかないものです。あせらないで」


 その後も体内の魔力を循環させるよう意識を集中させ続ける。その様子をノークとアサノは辛抱強く見守っていた。そして1時間ほど経った頃、アランの手の上に豆粒ほどの炎が生まれた。


 「やっぱりアランくんは筋が良いみたいね。これからはこの訓練をお仕事が終わったら毎日おこなってください。あっでも間違ってギルドを燃やさないように注意してね」


 「毎日......ですか?」


 「そうです。地道な一歩こそが近道になります」


 「......分かりました」





 ギルドで働きだしてから1ヶ月がたった。


 ユリエのおかげで文字の読み書きは仕事に支障なくできる程度にできるようになっていた。そのおかげで冒険者の依頼書を書いたり、買い取った素材の一覧を台帳に記入したりと、仕事の幅が広がった。


 ここ最近のアランの日常は、主に午前中に荷物の積み込み、それが終わると冒険者の対応をし、暇な時はギルドの職員とぎこちないながらも話をして親睦を深め、夕方になると酒場の手伝いをし、仕事が終わると魔法の練習をする、という流れができていた。


 働き始めて1ヶ月経ったこともあり、徐々にギルドという職場にもなじんできた。特にアランの怪力ぶりは力仕事が多いギルドで大いに評価された。


 魔法も仕事が終わった後毎日欠かさず練習をしていたおかげで、こちらも成果が現れていた。以前にアサノとやったときの炎は豆物ほどの大きさほどだったのが、今では握りこぶし半分くらいの大きさまで出せるようになっていた。


 



 アランが本を読んでいると、部屋の扉がコンコンとノックされた。


 「アランくん、ユキだけど、今いいかな?」


 「はい」


 ユキが扉を開けて中へ入り、ベッドに座っているアランの隣に座った。この日も彼女は見る人を幸せにするようなにこにこ顔を浮かべていた。


 「ギルドの仕事は慣れた?」


 「はい、少し」


 「それはよかった。すっかり仕事してる姿が板についてきてるもんね」


 アランはちらっとユキの方を見た。それに気づいたユキがどうしたの?という表情をすると、アランは慌てて視線を前へ戻す。


 「アランくんは冒険者になりたいんだよね?」


 「はい、そうです」


 「私思ったんだけどさ、アランくんが14歳になっても、ギルドで働き続けるのもいいんじゃないかなって。どうかな?」


 アランは戸惑った。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、戸惑いが表情を固くした。


 「だってさ、言ってしまえば生きていければいいんでしょ?ならわざわざ危険な冒険者にならなくても、ギルドで働いていればご飯は食べれるよ?それじゃだめ?」


 「僕はやっぱり冒険者になりたいです」


 「どうして?」


 「ギルドの仕事はやりがいがあります。だけど僕は冒険がしたい。広い世界を見てみたいんです」


 「そっか、それなら仕方ないね」


 そう言ってユキはアランの手に自分の手を重ねた。アランがびっくりしてユキを見る。


 「まだアランくんが冒険者になるのは先だけど、今のうちに言っておくね。私忘れっぽいから。自分だけで解決しようとしないで、周りの人を頼ってね?人は一人では生きられないから」


 そう言うユキの言葉の意味をアランはこの時理解できなかったが、いつかわかるときが来るかもしれないと、心にとめておくことにした。


 「はい、わかりました」


 「よろしい。じゃあ堅苦しい話はここまで。アラン君って仕事以外のことで自分から何も聞かないよね?何か聞いてみたいこととかないの?例えばあたしのことで聞きたいこととはない?」


 アランは困った。もともと話すのが嫌いではないが、得意というわけでもない。だがせっかくなので、思い切って聞いてみることにした。


 「ユキさんは年いくつですか?」


 「あたし?あたしは18よ」


 「そうなんですか。僕より1つか2つくらい上かなって思ってました」


 「意外、アランくん上手ね。そっちの才能あるかもよ?って、ごめんごめん、怒らないで」


 アランの戸惑った表情を怒ったと誤解したユキが、やさしくアランの頭を撫でた。


 「怒ってないです、大丈夫です」


 「そう?ならよかった。お喋りって楽しいでしょ?アラン君かっこいいんだから、もっと色んな人に積極的になってもいいと思うわよ。少しずつで大丈夫だから。きっと世界が広がるわよ?」


 「......はい、がんばります」


 「うん!じゃあそろそろあたし行くね。とても楽しかったわ、ありがとう」


 そう言ってもう一度アランの頭を撫で、自分の部屋へ戻っていった。


 「もっと積極的にか......」


 アランの独り言が部屋に響いた。






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