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第23話

 2人は27階層に突入した。ここで景色が一変した。洞窟なのは変わらなかったが、鍾乳洞から普通の岩石が主な身近に存在する洞窟に変わっていた。


 「そろそろ今日は休もうか」


 アランが休憩を提案した。


 「そうだな。非常にいいペースだ。今日はここで休もう」


 ユーラがテント張りの準備に入る。その時、アランが何かを見つけた。


 「ユーラ、池の中に魚がいる。食べれるかもしれない。釣竿はあったかな?」


 「アラン、済まない。釣竿は持って来ていない」


 「そっか、でも大丈夫。何とかするよ」


 「何とかするって、どうやって......え?」


 ユーラが見守る中、アランは池の前に立ち、手を前に構えた。そして瞬きひとつあったかどうかという短い間の時間に魚を素手で捕まえた。


 「何ともワイルドだな......」


 ユーラが目を点にしている間にもアランは次々と魚を捕まえていき、最終的に6匹捕まえることができた。



 アランの魔法で魚を焼き、2人で食べる。


 「うん、これは美味い」


 「まさかダンジョンで魚が食べれるとは思わなかったな」


 2人で黙々と食事をしていると、アランがユーラに話しかけた。


 「ユーラは何か好きなこととかある?冒険以外で」


 「私か?そうだな......裁縫かな」


 「裁縫?服とか縫えるの?」


 「かなり時間がかかるが、一応出来るぞ」


 「おお、凄い」


 賞賛の言葉にユーラは頬を赤らめ照れていた。


 「他には何かある?」


 「うーん......買い物だな」


 「女の子らしくて良いね」


 「浪費癖にならないように気をつけてはいるんだが。どうしても欲しいものがあると我慢できん」


 「人間てのはそういうものだよ。欲しいものばかりどんどん増えていく」


 「確かに」


 雑談をしているうちに随分と時間が過ぎた。2人で相談して前と同じ順番で眠ることになった。


 アランの見張りは何事もなく終わった。ユーラと見張りを交代し、眠りに着く。


 「やっぱり寝袋が1つしかない......」





 翌朝、アランが目覚めると2人は朝食の準備に入った。昨日捕まえた魚の残りを2人で分ける。昨日の夜とは違い、2人は言葉を交わすことはなく黙々と魚を口に運ぶ。ものの数分で食事は終わり、行進の準備を始める。


 「僕もテントの片付けの仕方とか覚えないといけないな」


 「アランが望むなら教えるが、私がするから問題ないぞ?」


 「そう言われるとつい甘えてしまう......」


 ユーラは本当に手際が良く、あっという間に片付けは終わった。アランが手伝えることは少なく、ユーラが準備をしている間は剣の素振りをしていた。


 「よし、アラン準備ができた。出発だ」


 「うん、ありがとう」




 

 行進を再開すると、早速魔物が現れた。久しぶりに出て来た人型の魔物、オークだ。よく休憩中に出くわさなかったなと2人は不思議に思ったが、そう思った後すぐにオークは首を刎ねられ死体と化した。


 フィールドが岩型の洞窟に変わり、天井もかなり高くなったことによりアランはさらに戦いやすくなった。そのため戦い方がやや大雑把になったために敵の魔物の変化に気づくのが遅れた。


 「アラン、気づいているか?」


 「ん?何が?」


 「魔物の装備の質が少しずつ良くなってきている。この剣を見てみろ。一般の冒険者が使うのと同じか少し上くらいの出来栄えだ」


 「この階層まで登ってきてやっとお宝がまともなものになってきたってことかな」


 「それも言える。だが敵の装備が良くなればその分戦うときはより注意が必要になる」


 「確かに」


 話をしている間に前方からコボルトの群れの反応を捉えた。


 「他の道はないね。倒すしかない」


 コボルトは数にして20体以上はいた。弓を持つ者、剣を持つ者、杖を持つ者など役割が明確に割り当てられていた。軍団の一番奥にはふた回り以上大きいコボルトがいた。こいつがコボルトリーダーだろう。


 「さっさと頭を潰してもいいんだけど」


 「今後のためにも訓練の意味合いも込めて全て殲滅させるか?」


 「うん、そうしよう」


 相談が終わると同時に2人は動いた。まずアランが弓を持つコボルトの元へと素早く移動し、大剣で切り倒していく。ユーラは杖を持つコボルトを担当し、魔法を詠唱させる前に次々と急所を剣で貫いていく。


 気がつけば残りはコボルトリーダーのみとなっていた。一気に部下を失ったことで混乱したのか、持っている剣を乱暴にアランへ向かって振り上げる。それを一振りで弾き飛ばし、一撃で止めを刺した。


 「少し時間がかかったな」


 「そうだね。連携は悪くなかったと思うんだけど」


 「いや、今のは連携というよりは手分けしただけだ。今回の反省点だな」


 「確かに。それと階段はそこの細い道を右に行ったらすぐだよ」



 階段を昇ってから28、29階層は拍子抜けするほど順調に行進できた。魔物はコボルトやオークの集団が主だったが、2人が再度連携を意識した戦いをし27階層よりも効率よく敵を殲滅することができた。人型の魔物以外にも、リトルドラゴンやワームなどが現れ、種族問わず入り乱れたフィールドとなっていた。




 30階層に突入した時、アランは小さく息をついた。


 「なんとかここまで来たね」


 「ああ。だがアラン、疲れていないか?さっきから息が上がっているように見えるが」


 「それは否定できないね。ユーラ、野宿用の装備ってもう1日分ある?」


 「ああ、問題ない。」


 「じゃあ、31階層に昇ったら今日はここまでにしよう」


 ユーラが静かに頷く。そしてアランの隣までくると、アイテムボックスからタオルを取り出し、汗をかいたアランの顔や腕などを拭いていった。


 「自分でやるからいいよ」


 「そう照れるな。人に世話してもらうと精神的にリラックスできる効果があるのだ」


 「そういうことなら......」


 汗を拭き終わると、2人は行進を開始した。だが歩き始めて10分ほど経った頃、アランが険しい顔をした。


 「もの凄い数の魔物がいる」


 「どれくらいだ?」


 「確実に100体以上はいる。人型でこの大きさだと、恐らくオークだ」


 「やれやれ......あと少しだというのに」


 「こっちには遠距離攻撃がある。それで最初に数を減らそう」


 その言葉を機に戦闘が始まった。


 アランが体内の魔力を循環させる。そして今あるだけの魔力を手のひらに集め、炎弾を前方に発射した。その後失明するかと思うほどの光が発生し、大地が揺れに揺れた。土煙が一寸先も見えなくする中、アランは探知魔法で結果を確かめる。


 「よし、半分は潰した。行こう」


 突然の炎弾によって半ば半壊状態に陥ったオーク軍団は指揮系統がズタズタに寸断されていた。各自が全くバラバラの動きをしている。そこを確実に1体ずつ仕留めていく。今回は2人とも連携を意識して戦った。その成果か、お互いがお互いの隙を補完することで負傷のリスクが減少した。魔物はまともに攻撃すらできないまま数を減らしていく。


 残りが10体ほどになった時、魔物が突然蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 「極力倒そう!他の冒険者に襲いかかるかもしれない」


 「分かった!」


 ユーラが同意すると、地面を蹴って飛ぶように1体のオークへ迫り、胸をひと突きする。糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。


 「私の技は効率が悪いな」


 思わず独り言が口に出た。


 対してアランは大剣のリーチを生かして一振りで2、3体のオークを葬っていた。以前のように闇雲に振り回すのではなく、どうすれば最大限敵を巻き添えにできるかを考え、それに従い大剣を振り、敵を薙ぎ払う。


 


 最後の1体を仕留めた時、アランは疲れのあまり地面にへたり込んだ。


 「今回は少しまずかった」


 「まあ、今もまだ生きているだけ良しとしよう」


 「幸いというか、あと200歩で階段だ。次の階層で今日は休もう」


 アランは何とか立ち上がり、ゆっくりと歩き出し、ユーラもそれに続く。




 31階層に何とかたどり着いた。2人は怪我こそしていないものの、満身創痍という状態だった。


 「アラン、近くに敵は?」


 「......いない。ここでいたら詰んでたかもしれない」


 「なら早く休もう」


 ユーラが重い動作でテントを組み上げる。アランも景色が二重に見えるなど、疲労が限界値に達しつつある。


 「ユーラ、先に寝ていいよ。いつものローテーションで行こう」


 「助かる。でもアラン大丈夫か?限界そうだが」


 「気合入れるよ......」


 ユーラはテントを組み立てると何も言わずに中に入っていった。少ししてアランが様子を見にいったときにはすでに寝息が聞こえていた。



 

 ユーラが就寝して体感で30分ほどたった頃、探知魔法の範囲内に反応があった。小さなドラゴンの形からしてリトルドラゴンだろう。それが5体真っ直ぐこちらに向かってくる。


 「此の期に及んでまだ働けと言うのですか神様は......」


 アランが愚痴を言いリトルドラゴンに向けて疾走する。大剣を構える。すると刀身の青い光が強くなった。


 「あれ?」


 今までアランが冒険をしてきてこのような変化が起きたことはなかった。刀身は周囲を照らすほどさらに明るく光を放っている。


 「今は気にしても仕方ない。目の前に集中しよう」


 アランはリトルドラゴンめがけて大剣を一閃した。その時彼に頭がショートするかのような衝撃的な出来事が起きた。硬い鱗を持つリトルドラゴンの体を、大剣が何の抵抗もなく一刀両断したのだ。


 今なお刀身は力強く光り輝いている。アランは今はとにかく目の前の敵を殲滅することに集中した。




 

 まさに蹂躙だった。1分もかからず5体のリトルドラゴンを大剣で葬った。落ち着ける状況になり、ようやくアランも少し冷静になることができるようになった。


 「一体何がきっかけで......」


 テントに戻る途中もそのことで頭が一杯だった。あの力は何だったのか。不思議だったのは切れ味がよくよくなったことだけではない。リーチもアランが望んだ距離まで伸びていた気がした。だが大剣そのものの距離が伸びた様子はなかった。


 だが一方でアランは大いに胸躍らせていた。突然発現した大剣のこの力を思い通りに発動することができれば、さらに自分は強くなれる。

 

 とりあえず今はテントに戻り、警戒を続けることにした。




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