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第21話

 18階層は意外にもゴブリンやコボルトなどの通常の魔物ばかりが出現した。この自体に2人は拍子抜けしたが、もはや作業をするように敵を倒していく。


 「......なにか良いもの落ちてないかな」

 

 「何回も言っているが、浅い階層ではお宝は良いのは出ない」


 「それじゃあ深い階層へ突撃しよう!」


 「ゆっくりと私達のペースでな。あと無理だと思ったらそこで止めだ」


 「むう......わかってるよ」


 「なら良い」


 魔物はまだそれほど強くないものの、フィールド自体がかなり広くなっており、18階層を突破するのに約2600歩もかかってしまった。もっとも2人は過酷な鍛錬によって常人よりも比較にならない体力を誇っているが、極力消耗は避けれればそれが一番だ。


 「結構歩いたけど、あと2階層か」


 「アランまさかもうへばったのか?私はまだウォーミングアップが終わった程度だぞ?」


 「そんな訳ないさ。女の子に負けるわけにはいかない!」


 「お?アラン頼もしいぞ」


 「おうよ!じゃあ次いくよ!」


 


 19階層に突入した。今までは木々がうっそうとしていたが、この階層は木々の密度が減り、平原とジャングルが半々といった様子だった。


 2人は見晴らしの良い平原を進んでいく。平原ならば敵の位置を視覚的に把握しやすい。そうやって進んでいると、魔物と戦闘しているパーティーを発見した。どうやら相手はオークの1段階上位種のハイオークと通常種のオークが5体だった。それに対しパーティーは男女2名ずつで4名だ。見たところかなり苦戦しているらしい。


 「どうする?助ける?」


 「下手に手を出して後で魔石やお宝の分配で揉める事もあるからな。どうするべきか」


 「なら、直接聞いてみよう」


 そういってアランはパーティーの所に近づいていき、大声で尋ねた。


 「援護が必要ですか?」


 4人のうち1人が振り返って返事をする。


 「助かるが、2人だけで何が出来るんだ......」


 「手伝っていいんですね?分かりました」


 言い終わるやいなや2人はすでに動いていた。まずユーラがハイオークめがけて飛びかかり、脳天に蹴りをかました。少しよろめいたハイオークが目標をユーラに変更した。


 その間にアランは近くにいたオークを大剣で切り伏せ、それを見て突進してきた残りのオーク4匹には炎の壁を作り出し対処した。炎の壁に飲み込まれたオーク達は瞬く間に灰となった。


 それを見届けるとアランはハイオークの戦場がどうなっているか確認した。すでにユーラが頭を切り飛ばしていた。あわよくば自分も参戦しようと考えていたために、若干残念に思った。


 パーティーのリーダーらしき男が立ち上がり2人の元へと近づく。


「本当に助かった、ありがとう。それで報酬なんだが」


 「ああ、それならいらないよ。自分達が勝手にやった事だから」


 「いや、しかし......」


 「悪いけど、僕ら急いでるから。今回みたいに強い敵もいるかもしれないから、気を付けてね」


 そう言うと2人はパーティーに背を向け去っていった。


 「報酬少しくらい受け取っても良かったのではないか?」


 ユーラ自身は何とも思っていなかったが、アランの懐事情はいくらお金があっても足りないと言う状況であったため、今回のことはいい機会になるはずだったのだ。


 「カッコつけたこと言うけど、見返りを求めるために助けた訳じゃないからね」


 「確かにそうだが。アランが納得しているならそれで良い」


 19階層においてそこから先は魔物の出現はなかった。恐らく先ほどのパーティーが引きつけてくれていたのだろう。


 20階層への階段を見つけ、階段を駆け上っていく。


 


 20階層は完全な平原だった。フィールド全体を足首程の長さの草花が覆っていた。


 「まだ日暮れまでには時間あるよね」


 「ああ。ワープポイントまで後少しだ」


 平原という事もあってどうしても敵からは丸見えになってしまい、結構な数の魔物を相手にする羽目になった。襲ってくるたびにアランは魔法で対処した。訓練の成果か、徐々に威力を制御できるようになっていた。


 「もうこれで何体めだよ......」


 「私も数えていない......」


 倒した魔物はすでに60体は超えていた。それでもまだ後ろの方から数えきれないくらいの魔物が追って来ている。


 「ここは逃げるが勝ちだね」


 「賛成だ」


 そう言うやいなや全速力で走り出す。慣性に任せて大剣を振り、魔物の手足や胴体が至る所に飛んだ。


 「アラン、後どれくらいだ?」


 「約300歩。本当に後もう少し」


 ユーラはアランの猛攻を抜け出した魔物を最小の動きで確実に仕留めていく。そして体感で100体は倒したかもしれないと思い始めた頃、やっとワープポイントへとたどり着いた。急いでワープゾーンへ入り、入口へ転移する。



 


 転移が完了し街へと戻って来た途端、2人は地面に崩れ落ちた。ユーラは戻って来てからすでに回復してきていたが、アランはかなり息が乱れていた。


 「死ぬかと思った」


 「10階層のアレよりはまだマシだろ」


 「そうだ、あいつを忘れてた......」


 「まあとにかく、生還できた事だし、どこかで休もう」


 「そうだね。どこにする?」


 「アランが大穴を開けたあそこにしよう」


 アランは全力で拒否したかったが、それができるだけの体力がもはや残っていなかった。



 

 「いらっしゃい。おっ例の馬鹿力少年、やっと来たか!」


 「あはは......どうも」


 2人は挨拶も早々に空いている席に倒れこむように座った。そこにドタドタと店主が注文を取りにやってくる。


 「僕はフルーツジュースを」


 「私はお茶を頂こう」


 店主が来た時と同じように轟音を立てながら奥へと去っていく。



 「今回は途方もなく疲れた。一軒家を1日で建てろと言われて建てたのと同じくらい疲れた」


 「どんな例えだそれは」


 ユーラが引きつった笑みをこぼした時、店主がジュースとお茶を持って来た。


 「でもまだ夕方くらいだし、ゆっくり休めば明日もダンジョンに潜れると思うんだけど、どう?」


 ユーラがお茶を飲みながら少しの間めを閉じて考えた。


 「まあいいだろう。だが当日疲れが抜けきっていなければ延期もあるからな」


 「それはもちろん」


 そんなやりとりをしていると、2人の元へ近づいてくる人がいた。


 「すまん、ちょっといいか?」


 アランが顔を上げると、そこにはすらっとして入るが筋肉質で、短髪の男がこちらを見ていた。アランはまたか、と一瞬ギアが上がりそうになる。


 「はい、何か?」


 「まあまあそう熱くならないでくれ。あんたはあの大穴を開けた本人だろ?警戒するのは分かるが、俺はそこらのゴロツキじゃない。ちょっと話がしたいだけだ」


 「はあ、話ですか......」


 アランが警戒を解いたことによって男が笑みを浮かべた。実に朗らかな笑顔だった。こいつかなりモテるなとこの場でどうでもいいことを考えていた。


 「20階層で鬼のように魔物をぶった斬っていたのはあんたらで間違いないか?」


 「ああ、あれですか。はい、僕達です。逃げるのに必死だっただけですよ」


 「確かにワープポイントを目指していたのは見ててわかった。だがあれは逃げてたわけではないだろ。あんだけ戦闘慣れしていて、邪魔になるやつだけを仕留めていた。そこの嬢ちゃんも大概だが、特にあんただ。その大剣をまあよくもあれだけ上手く扱えるもんだな。しかもそこに魔法を混ぜ変幻自在な戦い方をしていた」


 「褒めてもらっても何も出ませんよ?」


 男は今度は声を上げて笑った。だが今まで出会った男達とは違い、その動作一つに気品を感じる。話し方は別だが。


 「そんなもん期待しちゃいねえよ。少年、あんたランクいくつだ?」


 それを聞かれたアランが露骨に嫌な顔をした。


 「いつも聞かれるんですよ、それ。Dランクです」


 「そりゃ完全に詐欺だな。最近冒険者になったのか?」


 「はい、そうです。冒険者になる前からある人に戦闘の訓練をしてもらっていました」


 「なるほどな。その人はよほどの冒険者だということは想像するまでもないが」


 「あの、それで僕達にどんな用事ですか?」


 「そうだな。あんた達と話すのが用事だ。からかってないぞ?強い奴とは交流しておくべきだろ?」


 「僕達が強いとあなたには見えるんですか?」


 「ああ、だからこうして話をしている。もちろん上には上がいるが、あんたらもその歳にしては異常なほどの力を持っている。ランクがAだと言われても俺なら信じる。あんた名前は?」


 「アランです」


 「アランか。俺はシドル。嬢ちゃんの方は、相応の態度で接した方がいいか?」


 「いや、構わない。私のことを知っているならなおさら普通にしていてくれ」


 「分かった。つまり何が言いたいのかというとだ」


 先が見えない話にシドルが答えを話す。


 「俺は今は拠点をゴルサノにしているが、よくベルファとにも顔を出す。嬢ちゃんのパートナーってことは、アランもベルファトで動いてるんだろ?」


 「確かにその通りです」


 「だよな。いずれは何かの縁で一緒に組むこともあるかもしれない。その時はよろしく頼む。今回はその挨拶に来た」


 アランはシドルの説明にもまだいまいち納得できていなかったが、表情や態度を見るに信用できそうみ見えたし、何よりユーラが何も言わない。彼女が何も言わないということは少なくとも危険は少ない。アランは今となってはそれほどまでに彼女を信頼していた。


 またな。そう言ってシドルはその場を後にした。アランは今の事態を全く把握できていなかった。すかさず隣にいる有能な女性に助けを求める。


 「一体あのシドルって人、僕らに何の用だったの?」


 「分からん」


 「清々しいほどの見事な回答だね」


 「ただ、最低限信用できそうな奴には見えた。あまり気にする必要もないだろ」


 「その肝っ玉が僕にも欲しい」


 「アラン、女子に向かって肝っ玉はないのではないか?」


 「あ、ごめん」


 「いいんだ」


 そう言ってユーラはアランの頭を優しくポンポンと叩いた。


 「子供扱いすんな」


 「まだ子供だろう?アランも私も。それより、早く夕食を食べて休もう。明日もダンジョンに行くんだろう?」


 ダンジョンのことを口に出すと途端に元気になるアランを見て、ユーラもつい元気をもらっていた。





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