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第2話

 「アラン起きて、朝だよ!!」


 体をゆさゆさと揺らされ、アランは眠たい目を開ける。あまりにも疲れていたのか、夢は見なかった。布団をゆっくりめくると、ベッドの端に座っていたユリエを見上げる。


 「起きた??さあ早く、ギルドの朝は早いんだよ」


 アランはベッドから起き上がる。眠い目を左手でこすりながら右手をユリエに引かれ部屋を出る。


 部屋を出ると一気に雰囲気が騒がしくなった。まず人がたくさんいる。普通の人以外にも、お尻のあたりに尻尾を生やした人や、頭に動物のような尖った耳がある人、いろんな人が忙しそうに動いていた。そんな中を2人は器用にかわしながら1階へ向かい、エントランス付近でユリエが声を出す。


 「みんな、そのままでいいから聞いて!この子が今日から働くことになった新入り、アラン君よ」


 「よろしくお願いします」


 紹介されたアランは、ぺこりと頭を下げた。それを忙しそうにしながらも見ていたギルド職員たちは各々の返事を返した。それは概ねがんばれよ、よろしく、などといった好印象なものだった。


 「ユリエさん、僕はなにをすればいいですか?」


 アランがユリエを見上げ尋ねる。


 「そうね、じゃあまずは荷物の搬入からお願いしようかしら。こっちへ来て」


 2人はギルドの玄関を出ると近くに止まっている馬車の方へ向かう。そこでは筋肉を蓄えた男たちがたくさんの樽や重そうな荷物を下ろしていた。


 「ここにある荷物を全部中まで運ぶわよ。私は中でどの荷物をどこへ運ぶか指示するから、アランは荷物を中まで運んできてね」


 「分かりました」


 そういうとユリエはギルドの中へ帰っていった。アランは地面に置かれている大きな樽を持ち上げた。その様子を見た男たちが唖然としていた。


 「坊主、おめえその体で滅茶苦茶力持ちだな......」


 男のその言葉にぺこりと頭を下げながらせっせと樽を中まで運ぶ。


 「アラン、樽は大体酒場関連だからこっちへ運んで」


 ユリエが言う通りに指定の場所へ運ぶと、アランは次の荷物を運びに戻る。


 「それは冒険者に関する書類だから受付の奥にお願い」


 次々とアランは自慢の怪力を生かして荷物を運び入れる。


 「アラン、次はこいつを頼む」


 「はい」


 最後の荷物を運び入れた時には、太陽が天井まで昇っていた。


 「アラン、お疲れさま。休憩よ。それにしても体力もあるのね」


 ユリエがアランをねぎらう。職員の誰よりも荷物を運んだというのに、アランは薄く汗をかいている程度だった。


 「アラン、飯にしようぜ」


 一緒に荷物を運んだガタイのいいおっさんについていき、ギルド職員の食堂と思わしき部屋へ入ると、肉を焼いたような良い匂いがただよってきた。


 「おっ、今日はホワイトボアのステーキか!」


 アランにはホワイトボアがどんな魔物なのかは分からなかったが、食べ物としては上等なものなのだろうということはおっさん達のやり取りを聞いていて想像できた。


 順番待ちの列に並ぶ。働いた後でお腹がすいているので、アランはわくわくしながら自分の番が来るのを待った。


 「お?君は新入りくんだね。たくさん食べて午後からもがんばってちょうだいね」


 中年くらいの女性の職員から大皿にのったステーキをもらう。更にはメインのステーキの他にポテトと野菜が添えられていた。


 テーブルへ着くとフォークをとり、ものすごい勢いで食べ始める。そこへユリエともう一人女性がやってきた。


 「お?アラン少年ではないか。ここ座っていい?」


 「はい、どうぞ」


 アランの対面の座席に座る2人。ユリエの横にいる女性を見て、綺麗な人だなとアランは思った。金髪の髪をショートカットにしている彼女はとても大人びて見えた。なにより豊満な胸にアランの視線は自然と引き寄せられた。


 「そんなにまじまじと見られると恥ずかしいわ」


 その言葉を聞いたアランはすぐにステーキに目線を戻すも、気になってチラチラと女性の顔を覗き見る。胸を見たことで不機嫌になった様子もなく、にこにこ笑っていた。


 「アラン、この子はユキ。私と同じ主に冒険者の受付カウンターを担当してるわ」


 「よろしくね、アラン君」


 アランはぺこりと頭をさげて応えた。よろしくおねがいしますと言った言葉は小さくてユキには聞こえなかったが、彼女がこのことで彼に対して評価を下げることはなかった。


 「アラン君は、出身はどこ?」


 「それが、ここに来る前までのことはあまり覚えてなくて......父さんも母さんも死んだこと以外は」


 「そうなんだ......。ごめん、繊細なこと聞いちゃって」


 「いえ」


 気にする様子もなく、アランはもくもくとステーキを頬張る。それをユリエとユキは和やかな表情で眺めていた。


 「アラン、おかわりできるわよ?」


 「でも......僕今日から働き出したばかりだし......」


 「気にしなくていいの。まだ子供なんだから、たくさん食べて大きくならないとね」


 ユキが頬を緩めて言った。


 「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」


 アランはそう言っておかわりをもらいに席を立ち、おかわりのステーキをもらいに行く。


 「アラン君て、今までどうしてたのかしら......」


 「それがさっぱり。昨日突然冒険者になりたいって訪ねてきたこと以外は何も分からないわ」


 「それに彼、あの体格からは信じられないくらいの力持ちだよね。何か加護とか受けてるのかな?」


 「それも今はなにも分からないわ。でもいい子だし、戦力にもなるから徐々に打ち解けていけばいいと思う」


 自分のことが話題に上がっているとは思っていないアランが、先程よりもさらに大きいステーキを持ってきてもくもくと食べ始めた。


 昼食後は比較的暇になるということで、ユリエが文字の読み書きを教えることになった。アランは自頭が良いのか、ユリエが教えたことをぐんぐんと吸収していった。その間に冒険者から用事を頼まれれば一度勉強を中断し、ユリエの補助をした。


 そうこうしている内に時刻は夕方になっていた。仕事を終えた冒険者が続々とギルドに入ってくる。


 「魔物退治ってもよ、せいぜいゴブリン8匹にオーク2匹だろ?これじゃ儲けにならねえな」


 「でも裏を返せば、それだけ街の周りがが平和ってことだから、悪いことじゃないよ」


 そう言いながら冒険者達が酒場コーナーへと席を着く。


 「おーい、ビール3杯持ってきてくれ!」


 その様子を見てユリエが、アランに酒場の手伝いに行くよう指示を出す。アランは酒場の職員から注文された品物を受け取り、客のところへ持っていく。


 「ビール3杯持ってきました」


 アランがそう言いビールを冒険者達の前に並べていった。


 「お?坊主、見かけない奴だな?」


 そう尋ねた男は壁際に大きな槍を置いていた。それを振り回すためか、体を筋肉の鎧がたくましく覆っていた。


 「今日からここで働くことになりました、アランです」


 「おおそうかそうか、アランていうのか。俺たちは夜明けの民ってパーティのリーダーやってるノークだ。よろしくな」


 そう言ってノークは手を差し出す。かなり迫力のある出で立ちだったが、アランは全く気にせずその手を握り返す。


 「ガハハ、冒険者ってのは血の気の多い奴ばっかりだが、物怖じしないその態度気に入ったぜ!」


 そう言いぶんぶんと腕をふるノーク。


 「ノークそのくらいにしときな。アランが困ってるぜ」


 そう言いノークの前に座っているのは金髪をポニーテールで纏めたつり目の女性だった。


 「私はコスモ、よろしくなアラン」


 そう言いコスモも手を差し出し、握手をする。


 「でもよお、ギルドがこんな小さいやつを雇うなんてこと今まであったか?珍しいこともあるもんだぜ」


 その問いかけにアランはあえて反論することはなかった。


 その後も冒険者の注文を的確に捌いていく。持ち前の怪力のおかげで片手でお盆にビールのジョッキを6本乗せるという荒業を見せ、冒険者を驚かせていた。


 


 夜も深くなり、冒険者の客たちもまばらになりはじめた頃、ユリエがアランへ声を掛ける。


 「アラン、そろそろ今日は終わりにしましょう。お疲れさま」


 「おつかれさまです」


 「おい、ちょっといいか」


 アランが振り返ると、夕方に出会ったノークが話しかけてきた。


 「ユリエ、こいつちょっと借りてもいいか?」


 「ええ、いいけど明日も仕事あるから少しだけにしてよ」


 「わーってるよ、じゃあアラン、いこうぜ」


 そう言って酒場のテーブルまで行こうとするアランに小声でユリエが話しかける。


 「彼はああ見えてもすごい冒険者だから、仲良くなっておくといいわよ」


 「おい聞こえてるぞ、だれがああ見えてもだ。余計なこと吹き込むんじゃねぇ」


 そう言いながらもノークは機嫌を損ねた様子はなく、笑みを浮かべたままアランと酒場の方へ向かい席に着く。そしてノークが頬杖をつきながら尋ねる。


 「ユリエからちょろっと聞いたんだけどよ、アランおめえ冒険者になりてえのか?」


 「はい。でもまだ駄目だって。14歳からじゃないと無理みたいです。僕はまだ12なので」


 「どうして冒険者になりてえんだ?」


 「強くなりたいからです。あといろんなところを旅したいからです」


 「その考えはわかるが、冒険者ってのは戦って命張ってなんぼの仕事だぞ。そこんとこ分かってんのか?」


 「分かってるつもりです。だからこそ強くなりたいです」


 「なるほどねぇ......」


 ノークは笑みを欠かさないままアランを見ていた。多少口調を強くして脅してみても、アランが屈する様子がないところをみて、彼なりに本気なのだろうなとノークは判断した。


 「おめえはなにができる?剣か?魔法か?」


 「今はなにもできません......」


 「それなりの覚悟でいるのは俺から見てもわかるが、そんな調子じゃころりと死んじまうぞ。じゃあ質問を変えるぞ。おめえは何がしたい?」


 その問いにアランは少しの間考え、答えた。


 「剣で戦いたいです。あとは魔法を使いたいです」


 「両刀でいくってのか?また贅沢なやつだな......まあいい。おいユリエ!」


 酒場から大声で仕事の片付けをしていたユリエに声を掛ける。


 「アランの次の休みはいつだ?」


 「えーっと、4日後よ」


 「じゃあアラン、休み俺たちに付き合えや」


 「......なにをするんですか?」


 「いいから付き合え。おめえにとって損することはねえよ」


 こうしてアランの貴重な休みはノークによって潰された。


 


 

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