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第18話

 2人は通りを道なりに歩いていく。建物を見るといろいろな雑貨や服などが路上に飾られており、ここの辺りが商店街であることを示していた。


 「ユーラに似合う服あるかな」


 「私のもいいが、アランの方が切迫してるだろ。簡素な同じような服しか持ってないからな」


 「冒険するにはこれが一番いいんだけどね」


 「しかし、ダンジョンの街にしては意外というか、なかなか洒落たものも多いな」


 ユーラはそう言って一軒の洋服屋に向かった。色とりどりの鮮やかな服が並べられている。


 「アラン、これとこれどっちが私に似合うだろうか」


 そういってユーラが見せているのは、落ち着いた色の花柄の色のワンピースと、オレンジ色のカーディガンだった。アランはじっくりと考えてから言った。


 「どっちも似合うと思う」


 意外な答えにユーラが戸惑いながらも喜ぶ。


 「迷うくらいだったら両方買っちゃおう。貯金もあるから僕でも買えるし」


 「いや、大丈夫だ!いつも世話になってるし、アランは自分から申し出たとはいえ借金持ちの状態だ。私は意見が聞きたかっただけだから大丈夫、両方買おう」


 なぜこうも露骨に慌てだしたのか理由は分からなかったが、アランはその様子にどことなく笑みを浮かべた。


 「2点で1万4000ベルになります」


 ユーラが紙幣と硬貨を差し出し、紙袋に入れられた服を受け取る。


 「やはり今日を休日にしてよかったな」


 「そうだね。今度来た時にはもうないかもしれないし」


 



 2人は洋服屋を後にすると、再び歩きだす。季節は秋の終わりだからなのか、屋台が多かった。そのなかの1つの屋台にアランが興味を示した。


 「あの、これはなんの肉ですか?」


 「兄ちゃんこれはな、ミートラビットの肉と野菜を串焼きにしたもものだ。1つ40ベルだ。どうだ?」


 「それじゃあ、2つください」


 「あいよ、また来てくれよな」


 アランは串焼きのうち1つをユーラに手渡す。


 「アラン、気持ちはありがたいが、肉の食べ過ぎは太る......」


 「逆に全然食べなかったら筋肉もつかないよ?美味しそうじゃん、食べよう?」


 「......そうだな、せっかくのご馳走だもんな」


 そういってアランは豪快に、ユーラは小鳥がついばむように串焼きに口をつける。


 「......美味しい」


 「僕こういうのには目がないんだよね」


 「食べ物のことになるとアランは本気になるからな」


 「そりゃあ本気にもなるさ。食事は僕の数少ない娯楽なんだから」


 「それではアランにとって他にどんな娯楽があるんだ?」

 

 「うーん、冒険したり、剣を磨いたり、魔法の練習や訓練をしたり、かな」


 「全部冒険絡みではないか......」


 ユーラはこの男が将来脳細胞すらも筋繊維に変質しないだろうかと半ば本気で心配した。




 気がつけば太陽が真上から少し傾き始める頃の時間帯になっていた。


 「そろそろお昼ご飯にしようかな」


 「......アラン、一体どれだけ食べるつもりだ?私は食べないぞ?」


 「......そういえばさっきまで山ほど屋台で食べてきたんだった」


 「屋台はこのくらいにして、別の所に行かないか?」


 「そうだね、そうしよう」


 再び二人は散策を始める。とりとめもない話をしながら歩いていると、いつの間にか景色が変わり、見た目が豪華な建物が増えてきた。


 「ここはどういう場所なんだ?」


 「恐らく貴族街だろう。一般的に貴族は派手好きだからな」


 「貴族街なんかに僕が入ってもいいの?」


 「1人だとちょっと衛兵に話を聞かれるかもしれないが、今は私がいるから大丈夫だ」


 アランは鮮やかで豪華な屋敷群に目を奪われていた。


 「どうやったら貴族になれるのかな?」


 「新たに貴族になる場合は、国に対して何かしらの多大な貢献をすれば、王様が爵位をくださる場合が稀にだがある。アラン、貴族になりたいのか?」

 

 「いや、特に興味はないよ。ちょっと聞いてみただけだよ」


 「そうか。それならここを離れよう。なにも悪い事はしていないが、特に見るものもないからな」



 


 2人は歩いてきた道を戻る。


 「そうだ、せっかくだから、武器屋も見ていかない?」


 「ん?いいぞ。でもどこにあるんだ?」


 「さっきの商店街にないかな。探してみよう」


 2人は服を買った商店街の通りに戻り武器屋を探す。だがどこにも見当たらない。


 「人に聞いてみるのはどうかな?」

 

 「そうだな」


 ユーラは午前中に服を買った店を再び見つけると、店員に尋ねた。


 「あの、冒険者用の武器屋や防具屋はどこにあるのだろうか」


 「あっ先程はありがとうございました。武器屋などはもう一本向こうの通りに並んでます。今お客様がいらっしゃるのは日用品や雑貨などのお店が集まった通りなんです」


 「そうだったのか、ありがとう」


 2人は店員が指さした方の道を奥へ進む。5分ほど進むと雰囲気ががらりと変わった。先程の通りはお洒落で子供でも見て回れるような雰囲気だったが、今いる通りはガタイの良い冒険者達がゴロゴロといて、まるで違う街に来たのかと錯覚してしまうほどだ。


 「どの店が良いかな」


 「遠くから見ていても分からない。適当に覗いてみるんだ」


 順番に店頭に並べられている剣や鎧などを見ていく。だが2人を満足させるものは出てこない。アランが小声でユーラに囁く。


 「どこのお店も、あんまり良いのないね」


 「良いのがないというよりも、私達の装備が良すぎるのだ。私のはベルファト家の金庫を吐き出して作らせたものだし、アランのその大剣も恐らく金額がつかない程貴重で強力なもののはずだ」


 「うーん、なるほど。どうしようかな。僕の場合小回りの利く普通の剣があればと思ったんだけど」


 「私は剣の扱いはまだまだだが、アランの大剣の扱い方はなかなかだと思う。それにこれからも技量が上がることを考えれば、大剣の扱い方を極めるのに重点を置くことも1つの手だな」


 「そうだね、僕にはやっぱりその方が良い。こいつの扱い方を極めよう。ユーラ、アドバイスありがとう」


 「私はなにもしていないさ。でも役に立ったのならうれしい」 


 結局、2人の眼鏡にかなうようなものは見つからなかった。それに大分日も暮れてきた。


 「今日はそろそろ帰ろっか?」


 「そうだな、明日からまたダンジョンに潜るわけだから、体力は残しておかないとな」


 2人は宿への道を辿りゆっくりと帰っていく。


 秋も深くなってきた頃だというのに、2人は薄く汗をかいていた。それほど長い間街を散策していた。ユーラは汗をかいていることで自分の匂いのことを気にしたが、今日アランと一緒に散策できたことを心の底から嬉しく思っていた。


 「今日は良かったな。こんなにのんびりとリラックスできたのは久しぶりだ」


 「そうだね。ダンジョンだとどうしても気を張らないといけないから」


 「それもあるが、ベルファトにいた時はどうしても貴族としてやるべきことが多いからな。例えば社交場とか。そういうのを気にせず1人の人間として自由に旅をできるのは私にとってかけがえのないことなんだ」


 アランはそれを聞き、少し真剣な顔つきでユーラを見た。


 「ユーラ、貴重な旅の仲間に僕を選んでくれてありがとう」


 「あ、ああ。アランどうかしたのか?」


 「ううん、どうもしないけど、思ったことは言わないと伝わらないかなと思ってさ」


 「確かにそうだな。私もアランと出会えてよかった」


 アランにとっては何気なく言った一言だということをユーラも分かってはいたが、心は沸騰しそうなほど熱くなっていた。だが、今はまだ行動に移す時ではない。もっと信頼を得てからでないと。ユーラのその思いは間違いではなかったが、アランの方もユーラのことを意識し始めていることを彼女はまだ気づいていなかった。




 のんびりと歩を進めたためか、宿についたのは日も暮れるかという時間帯だった。2人はそのままの流れで、宿で夕食を食べることになった。


 アランが野菜たっぷりのシチューを口に運びながら、ユーラに尋ねる。


 「明日からどうしよっか?」


 それに対し力がつかないからと言われたのでステーキを頬張るユーラが答えた。


 「明日は少しきつい旅になるぞ。次のワープポイントは20階層。一気に10階層も突破しないといけない」

 

 「それはまた大冒険になりそうだね」


 「だが幸いと言って良いのか、フィールドは熱帯雨林が20階層まで続くらしい。水も飲めるくらい綺麗だと聞いている。前のように干からびるようなことはないだろう」


 「それは素晴らしい。ていうかユーラはそんな情報どこで仕入れてきたの?」


 「普通に商人から買ってきた。たまに嘘の情報を流す奴もいるらしいが、怪しい奴は脅してやるとすぐに白状したよ」


 「ユーラって怒ると怖そうだもんね」


 それを聞いて肉を切っていたユーラの手がピクリと止まった。


 「アラン、どういう意味だ?私の顔は鬼のように怖いと言いたいのか?」


 「違う違う!締めるとこはきちんと締める凛々しい女性って意味だよ」


 「なんだ、そういうことか。きちんと説明してくれないと誤解してしまうではないか」


 なんとか攻撃を回避したアランだったが、内心はかなりヒヤヒヤしていた。そんな彼の心の内を知らないユーラがアランに尋ねる。


 「そういえば、この前のとてつもなく大きい魔物の魔石だが、どうするんだ?」


 「どうするって言っても、2人で倒したから、ユーラの意見も尊重しないと」


 「私はアランの好きにすれば良いと思う。幸いにして我が家の財政は潤っているからな」


 ユーラが言うと嫌味に聞こえないと心の中だけで呟いた。


 「今までの魔石の比じゃないくらい綺麗だし、これもしばらく置いておこうかな」


 「アランは、魔石コレクターにでもなるつもりなのか......」


 「あはは、そんなことはないけれど、腐るものでもないから、じっくり考えるよ」


 「話は変わるが、アランの持ってる大剣どうやって手に入れたんだ?あれは国宝レベルか下手をすれば大陸中を探してもあれほどの品はないかもというほどの物なんだが」


 「僕もわからないんだ。冒険者になるときに、ノークさんから祝いだってもらったものなんだ」


 「あ、ノーク様からなのか。それならなんとなく納得できる」


 「それどういうこと?それにノーク様って」


 「いや、なんでもない。今日はこれくらいにしてそろそろ寝よう。おやすみ、アラン」


 「あぁ、おやすみユーラ」


 ユーラの様子に少し怪訝なものを感じたが、あえて聞くほどのことでもなかったのでそのままユーラと分かれた。明日からはまたダンジョンに潜る日々が待っている。

 



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