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第17話

 「厄介な事になったな」


 酒場でユーラが漏らした最初の言葉だった。3人が深刻な顔つきをして腰掛けていた。


 次に口を開いたのはアランだった。


 「僕から提案があるんだけど」


 「何だ?何か不穏な雰囲気を感じるが」


 「まあそう言わずに。僕はこのダンジョンをクリアしたい」


 それを聞いたユーラとシノの顔が強ばる。


 「どうしてそうしたいんだ?」


 「もちろん2人が気が進まないなら無理強いはしない。その上で理由を聞いて欲しい」


 「分かった」


 「かしこまりました」


 2人は半ば覚悟を決めた表情をした。


 「1つ目は、あの魔物を倒せたことだよ。ハゼさんによるとあいつは本来50階層以上でしか出ないレアモンスター。それを2人で倒せたのなら、ダンジョンクリアも可能かもしれない。僕は限界に挑戦してみたい」


 2人は黙ってアランの話を聞いていた。


 「2つ目は、今回の騒動の原因を探りたい。進んでではないにしても自分たちが関わった事の真相を見届けたい。そしてできれば解決したい。この2つが理由かな」


 ユーラが露骨に聞こえるようにため息をついた。


 「はあ......アラン、無理はしないって約束、覚えてるか?」


 「はい......」


 「シノはどう思う?」


 「私はお二人が相談して納得した結論を支持いたします」


 シノならてっきり反対すると予測して話を振ったのだったが、予期せぬ答えにユーラが面食らった。


 「そうだな......私が撤退すると決めたら必ず従う。アラン、これでいいか?」


 「もちろん。僕のわがままに付き合ってもらうんだから、当然守るよ」


 ユーラが自分の意見を尊重してくれたことに、アランは心底感謝した。



 「それで、今日はどうする?」


 「今日と明日は休みにしない?少しリフレッシュして英気を養うってのはどう?」


 「私もそれがいいと思う」


 「それじゃあ、どこか行きたいとこある?まだ日の入り前だから、時間にはまだ余裕があるよ」

 

 「アラン様、ユーラ様」


 真っ先に手を挙げたのはシノだったが、それは一緒に同行はできないという断りの返事だった。


 「申し訳ありません。私はベルファトに現状を知らせるための手紙を書かなければなりません。散策はお二人でごゆっくりとお願い致します」


 「そうなのか?それは残念だ」

 

 ユーラがそれほど残念そうでない口調でそう言う。それを気にすることもなくシノは宿へ戻っていった。


 「それでアランは、どこか行きたいところなどはないのか?」


 表情を一転させわくわくした様子でアランへ尋ねる。


 「うーん、自分は特に。と言いますか、できれば散策は明日にして、今日はゆっくり休みたい。それが僕の希望かな」


 「アランも少しだけ冒険の仕方が分かってきた訳だな。私はうれしいぞ」


 「今までは分かってなかったみたいな言い方じゃないか」


 それを聞いたユーラが鋭い目線を返した。


 「今まで出来ていたとでも??」


 「......いえ、まだまだです」


 「よろしい」





 二人はそのままのんびりと雑談をした。すると話に熱中していていつのまにか日が暮れていたので、そのまま夕食を取ることにした。移動するもの面倒なので酒場で夕食を済ませることにした。ウェイターを呼ぶ。


 「私はシルバーボアのシチューを頼む」


 「僕は野菜炒めで」


 ウェイターが注文を繰り返し、奥へと去っていく。それを見てすかさずユーラが話しかけた。


 「アラン、野菜を食べれるようになったのか?」


 「自分では今までも食べてたつもりだったんだけど、二人が見てそんなに食べてないように見えるなら、そっちが正しいと思う。だから僕は野菜を食べる」


 「アランも成長したんだな」


 「どういうポジションの発言だよ」


 少しすると料理が運ばれてきた。ユーラのシチューは煮込まれた肉と野菜のバランスが良く、食べるだけで健康になるのが目に見えて分かった。一方アランの野菜炒めは文字通り、野菜を炒めたものだ。色とりどりの野菜が盛り付けられてはいるが、今まで食べてきたものに比べるとどうしても味気ない。


 「美味しいな」


 「......うん、美味しい」


 「何だその何か言いたそうな口調は」


 「いや、その......ユーラ、肉少しだけ分けて?」


 「駄目だ。自分で選んだのだろ?少しくらい野菜のみのメニューだけを食べても筋力は衰えない」


 「そういう問題じゃないんだけどなあ」


 その後ユーラが色々と話しかけるが、どこかアランの返事はそっけないものだった。原因は分かりきっていた。彼の食事のペースが普段に比べ以上に遅いのだ。やがて二人ともメニューを完食した。


 「うん、とても美味しい野菜だった」


 「とてもおいしいお肉とシチューだった」


 「わざと言ってるよね?......」


 「ん?何がだ?私はそんな意地悪な女ではないぞ」


 ユーラのその言葉が冗談であることは分かっていたが、アランはすっかり気分が落ち込んでいた。


 「食事だけで機嫌を損ねるなど子供じゃあるまいし......」


 「機嫌損ねてないし」


 「思いっきり損ねてるじゃないか」


 ユーラが我慢できずに思い切り笑いだした。


 「ていうか、僕まだ子供だよ?」


 「確かにそれはそうだな。だがということは、私のほうが精神的に成長しているということだな」



 「ユーラ、僕に何か恨みでもあるの?」


 「いいや、全くない」


 「むう......」


 ユーラはアランをついからかってしまう。戦闘になると強いが、それ以外のこととなると色々と抜けている所などが、保護欲をそそられるのだ。


 「それじゃあ、今日はもう寝ようか。ほんと大変な1日だったし」


 「そうだな。明日は休みだろう?どうするんだ?」


 「僕はまだ決めてない。ユーラはどうするの?」


 その問いにユーラはすぐに応えられなかった。なぜなら明日もアランと一緒に行動するのが当たり前だと思っていたのだから。だが彼の思いはそうではないということに、少しの寂しさを感じる。


 「え?そうだな、まだ決めてない」


 「そうなんだ。それなら、明日付き合ってもらえる?」


 「え?」


 まさか自分にとって最高の展開が向こうから提示されるとは露程にも思っていなかったので、ユーラは拍子抜けした。


 「適当に街をぶらぶらしようかと思ってさ。でも一人で行ってもつまらないし。良ければどう?」


 「行く!私も行くぞアラン!!」


 「すごい気合だね......ありがとう」


 その後も雑談をして時間を過ごし、宿で休むことになった。





 宿内の自分の部屋に戻ってきたアランは就寝する前に自分の大剣を整備することにした。といっても自動修復機能がありできることといえば剣を磨くことくらいだったが、自分で整備をすることによりより愛着が湧き実戦で良い相棒となってくれるに違いないという想いがあった。


 20分ほど磨いた所で睡魔に耐えられなくなり、大剣を元の位置に戻しベッドに横になった。明日はユーラと街を散策する。体力を戻しておかなければならなかった。





 泥のように眠り窓から入る朝の光によって重たい瞳を持ち上げたアランは、ベッドから何とか体を持ち上げる。とりあえず1階の食堂へ行く。アランの好きな窓際の座席に座る。のんびりと窓から景色を眺める。朝からすでに子どもたちが追いかけっこをして遊んでいた。そんな様子を見ていると、2階へと続く階段からユーラが降りてきた。


 「ユーラ、おはよう」


 「おはよう、アラン」


 ユーラは淡いピンク色のワンピースを着ていた。彼女はアランが見たところによるとワンピースが好きらしく、彼女が戦闘用の装備以外を着ているときはワンピースが多かった。


 「今日はどこへ出かけるのだ?」


 「そうだね、ユーラは行きたいところはないの?」


 「私は、アランに付いていくさ」


 「困ったな......じゃあ、適当にぶらぶらしようかな」


 「それも悪くないと思うぞ」


 二人は朝食を頼んだ。二人ともパンと野菜のスープといった軽食だった。


 「そういえば、ユーラのお城での食事は豪華なの?」


 「いや、私の家はそういうのを嫌うのでな。メニューそのものは一般家庭のものとそれほど変わらない。素材は多少良いものを使っているかもしれないが」


 「なるほど」


 「それにお父様が私のことを考えてくださってのこともあるかもしれない。私は物心ついた頃から冒険者志望だったから、粗末な食事でも我慢できるようにあえてそうしたのかもしれない。推測だけどな」


 「ほんとユーラはデューク様に愛されてるね。そもそも普通なら、政略結婚などで他の貴族の元へ嫁ぐのが普通じゃないの?」


 繊細なことを軽いようにアランは尋ねたが、ユーラが気にする様子はなかった。


 「本来そうするのがベルファト家にとっては一番良いのだろう。だがお父様は私の意見を尊重してくださった。お父様にはいくら感謝しても足りないくらいだ」


 「なるほど」


 アランは人の上に立つ者にはそれなりの責任と大変さがあるのだなと話を聞いて痛感し、心の中で自分は平民で良かったと胸をなで下ろした。


 そんな話をしているうちに朝食を食べ終えた。ユーラの食器には食べかすなどはかけらも落ちておらず、豪快に食べたせいで散らかっているアランの食器とは大違いであった。


 2人は満腹で心地よい気持ちのまま宿を後にした。


 「これからどうする?」


 「そうだね、まずは歩こうか。散歩でもしよう」


 2人は宿から通りへ出ると、景色をのんびりと見ながら歩を進める。


 「そういえば、この街に来て観光みたいなことするのは今日が初めてだね」


 「そうだな。ダンジョンのことばかり考えていたせいもあるが、やはりもったいない。ゴルサノには何か名物のようなものはないのだろうか」


 「それをあえて自分たちで探すのも楽しみのひとつかもね。僕らで探してみよう」


 「それはいいな」


 通りを歩く二人をすれ違った人が振り返る。正確にはユーラの容姿に見惚れてだが。彼女はまだ子供の年齢だが、すでに体は大人のそれであり、実に女性的であった。もちろんこの街ゴルサノでもベルファト家のことは有名だが、それとは確実に違う、ユーラの魅力が通りの人々の視線を集めていた。


 そんなユーラの横を歩いているアランも心境の変化が現れていた。以前からユーラはとても綺麗な女性であることは認めていたが、今一緒に歩いていると急にそれを意識し緊張が高まる。いつの頃からか、アランはユーラと一緒にいるとどこか心がざわつくようになっていた。






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