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第16話

 「よし、この階で終わり!」


 「そう慌てるな、最後こそ油断しない方が良い」


 ようやくワープポイントのある階層まで来たこともあって、アランは息巻いていた。それをユーラが馬のようにあやし、制御する。


 「それにしてもこれは......」


 「あぁ、凄い......」


 10階層も砂漠だったが、景色は下の階層とはまるで違っていた。砂の色が淡い緑色なのだ。その色の砂が描き出す風景は正に絵画の中に描かれた楽園と言うのが適切な表現だった。


 「ついさっきまで帰りたくて全力疾走してきたのは、一体何だったんだろうか」


 「そうだな、そう思うのもこの景色を見れば仕方ない」


 2人は先程までよりゆっくりと行進し、ワープポイントを目指す。



 「この階層は一体何なんだろう。さっきから魔物の反応が全く無い。でもものすごい人がいる。10人以上かな」


 「そんなにいるのか??」


 「いや、待って、何かおかしい。人の反応のうち、動いているのは2つだけ。他の人は止まったままだ」


 「急ごう。行ってみないと何が起きているのか分からない」


 「北東へ1400歩の所だよ。ワープポイントの直ぐ側だ」


 

 2人は体力を消耗しない程度に行進速度を上げた。目的地に近づくが、依然として魔物の反応がなかった。それが突然、あと400歩というところで異変が起きた。



 「あれは何だ!?」


 「アラン、気をつけろ!あれは魔物だ!多分止まってる人はあいつにやられてしまったのだろう」


 2人が離れた距離からでも見えるほどの大きさだった。その魔物は銀色の鱗をまとったアルマジロのような外見をしていた。


 「アラン、あの魔物の近くで何かが動いてないか?」


 「恐らくそれはまだ動ける人だと思う。反応と眼の前の人達の動きが一致してるから」


 「それなら、なおさら急がなければ」


 2人がこれから始まる戦闘に向けて意識を切り替える。


 「ユーラ、僕は先に行く、追いついたら援護を頼むよ」


 「分かった、気をつけろよ!」



 アランがさらに走る速度を速める。怪力を使って地面の硬い岩場の間をジャンプで移動しながら急速にアルマジロへと接近し、初手の一撃を見舞う。だが、アランの大剣を使った一撃はアルマジロの背中に弾かれた。


 「硬い!!」


 攻撃を弾かれた時に背中を思い切り蹴り、距離を取って着地した。そして動ける2人に声を掛ける。


 「無事ですか!」


 長身の男が声を掛けられやっとアランに気づいた。


 「応援が来たのか!?」


 「いえ、僕はただ冒険してただけなんですが、こいつを見かけて飛んできたんです」


 それに返答したのはもうひとりの男だった。体型から見るに恐らくドワーフだろう。


 「過程はどうでもいい、加勢してくれるなら助かる。こいつは普段こんなところにはいないはずなんだが」


 そんなやりとりを見逃すはずもなく、アルマジロが立ち上がり長身の男めがけて右腕で薙ぎ払う。それをアランが割り込み大剣で正面から受け止める。だが威力を完全には殺せず、3回ほどバウンドしながら吹き飛ばされた。


 「大丈夫か!?」


 ドワーフの男が思わず叫ぶがそれがいけなかった。アルマジロの注意を引いてしまい、魔法なのか、数えきれない数の氷でできた槍を一瞬の間に生成し発射した。


 避けられない、ドワーフの男が覚悟を決めた時、突然後ろからものすごい勢いで突き飛ばされた。追いついたユーラがアルマジロの攻撃に間一髪で間に合い男を助けた。ユーラが声を掛ける。


 「無事か!?」


 「ああ、助かった。だがどうしたものか。俺たちではこいつは倒せんかもしれん」


 ドワーフの男が思わず弱音を吐くが、それを鼓舞したのは以外にもアランだった」


 「諦めちゃ駄目です!必ず勝機は巡ってきます!」


 「アラン、とはいってもどうするんだ!?」


 アルマジロの攻撃を回避しながらユーラが尋ねる。


 「さっきの攻撃で分かったけど、こいつは氷の魔法を使う。だから僕なら大丈夫だ」


 「そういうことか」


 以心伝心でアランの言わんとすることを理解したユーラが先に戦っていた男達を庇いながら一旦下がる。そこを逃さずアルマジロが氷の矢を放つが、アランが動く。


 「僕を無視しないでちょうだいよ」


 炎を薄く壁のように広げた炎壁を展開し、氷の矢を1つの残らず溶かし切る。それを見たアルマジロが激高し、右手でアランに思い切り振りかぶる。


 腕の動きを予測し最小限の動きで回避し、牽制の炎弾をいくつか足元へ着弾させる。アルマジロが嫌がり後退する。


 「やっぱりね。お前の弱点はそこだな。ユーラ、手伝って!」


 「分かった!」


 「悪いけどあいつの足元へ行って鋤を作ってきて」


 「いきなり無茶を言ってくれる!」


 だがユーラは任されたと言わんばかりに、アルマジロの足元まで潜り込む。ユーラに向けられた魔法はアランが全て炎弾で相殺した。


 「お前の相手が1人増えたぞ」


 細剣を使いアルマジロのわずかに見えている腹を狙ってピンポイントで突きを放つ。だが後退するだけで、決定的なスキはまだ見せていない。


 援護射撃とばかりにアランが炎弾を打つ。それにユーラの攻撃が合わさり、遂にアルマジロが動く。


 後ろ足を思い切り蹴り、後方へジャンプしたのだ。


 「今だ、アラン!」


 いつの間にかユーラの横まで辿り着いたアランが、あらわになったアルマジロの腹を一閃する。一撃で内蔵の奥深くまで切断され、アルマジロが悲鳴もあげずに崩れ落ちた。


 アルマジロが息を引き取ったことを確認した2人は、先程助けた2人の元へと急いだ。体中傷だらけだった。

ユーラが順番に治癒魔法で怪我を治していく。


 「あんた達、何者だ?......」


 「私はユーラ・ゼイ・ベルファト。それにあのデカブツを倒したのはアラン」


 ユーラの名前を聞いたドワーフの顔が引きつった。


 「あんたさんはベルファト家の娘さんですか?」


 「そうだが、そんなことは気にしなくて良い。すぐに応援を呼ばなければ」


 ユーラの呟きに対して長身の男が応えた。


 「生き残りは俺たちだけです。一旦全員で戻り、ギルドへ報告へ行くのはどうでしょう?」


 「それが良さそうだな。アランと合流しよう」





 ワープポイントで帰還したアラン達は、早速ギルドへ向かった。先程合流した2人は念の為に専門の治療魔法師に見てもらうことになり、病院行くために別れていた。


 ギルドに戻った2人は受付にいた職員に事情を説明した。すると職員がひどく慌てて2階へと駆け上がっていった。

そして5分もせずに同じように慌てたまま2人のもどへ戻ってくる。


 「お手数をおかけいたしますが、2階で待機していただけますか?ギルド長が用意ができ次第話がしたいとのことで」


 「はい、構わないです」


 2人は2階へ移動し、応接室に通された。質素ながらも落ち着いた雰囲気の部屋で、2人は備え付けられていたソファに腰掛けた。


 「一体何がどうなってるんだろうね」


 「今それを調べているのだろう。一定のことが分かり次第、私達の話も聞いてより正確に状況を把握したい、ということなのだろう」


 「ユーラほんと頭の回転早いね」


 「これでも一応貴族の娘をやっているからな」


 ユーラがそう言って笑った。





 「お待たせしてすみません。ギルド長が戻られました。ご案内します」


 2人は応接室を後にし、すぐ近くにあったギルド長の部屋へと赴いた。


 職員がノックをすると返事があったのですぐに中に入る。


  部屋の中は質素なもので、ギルド長が使う事務用の机と椅子、それと応接用のテーブルとソファ、あとは本棚に精霊の本が並べられているだけだった。職員が2人を案内すると退出した。それを合図にギルド長が話を始める。


 「お待たせしてしまって。色々と確認に時間がかかってしまいまして。私はここゴルサノのギルド長を務めるハゼと申します。早速ですが本題に入ります。そちらへお掛けください」


 そう言ってハゼとアラン、ユーラは応接用のテーブルを挟んで向かい合う。


 「まずダンジョンの10階層なんですが、あそこはかなり特殊な階層なんです。お二人もご覧になられた通り、10階層は非常に景観が綺麗です。なぜあの階層だけグリーンの砂漠になっているのか理由を調べたこともありますが今はまだ何も分かっていません。次に、10層は通常滅多なことでは敵は出ません。これも理由は不明です。以上のことから、10層はゴルサノダンジョンの中ではオアシスのような場所として機能しています。観光目的で、あの綺麗な景色を見に来る人も多いのです。冒険者を雇えば10層まではワープで行けますからね」


 そこまで言うとハゼは一旦話を止め息をついた。


 「その本来平和な場所にお二人が倒した魔物が出ました。被害は甚大です。10人中5人が死亡、残りも重症者がほとんどです。そしてこれが問題なのですが、お二人が倒した魔物は本来50階層以上の階層にしか出現しないはずの魔物なのです」


 その報告にアランとユーラは信じられないといった顔をしてお互いを見た。


 「50階層、ですか?」


 「はい。それも50階層以上ならポンポン出るというものではなく、その階層でもかなりレアで強力な魔物なのです。その証拠がこれです」


 ハゼがそう言ってテーブルの上に置いたのは、アランが今まで見たよりも随分と大きい魔石だった。手のひら全部に収まるほどの大きさがあった。


 「その魔石はお二人がお納めください。それで問題は、なぜこんな強力な魔物が10階層という低階層、しかもオアシスと呼ばれる場所に出現したのかです。私は2つほど可能性があると考えています」


ハゼは深刻そうな顔をさらに険しくして両手を組んだ。


 「1つ目は、ダンジョンに何かしらの異常な状態になっている。2つ目は、人為的に魔物を10階層に発生させた、または送り込んだ」


 「......なるほど。私としては人為的な可能性の方が高そうに思われますが」


 「どちらにしろアラン君、ユーラ様、ダンジョン探索を続けられるのならば十分に注意してください。ただでさえ予測できないダンジョンが今回のことで余計に混乱しています」


 「ありがとうございます。僕たちも一度話し合って今後の方針を決めます」


 その言葉を合図にこの場は解散となった。アラン達3人は1階の酒場で今後の方針を決めることになった。どこのギルドも作りは同じようだ。



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