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第11話

 ベルファトの街に着いた頃には、夜もかなり更けた時間帯になっていた。


 「もうこんな時間だから、ギルドへの報告は明日にするか?」


 「そうだね。受付自体は空いてるけど、あまり迷惑はかけたくないし」


 「分かった。では明日の朝ギルドで会おう。アランまたな」


 「また明日、お疲れさま」


 「アラン様、本日はありがとうございました。今日はこれにして失礼いたします」



 


 ユーラ達と分かれたアランは、そのままギルドへと直行した。


 「よお、アラン」


 声の方に振り向くと、ノークが何をするでもなく1人で酒場の椅子に座っていた。


 「ノークさん、今晩は。1人ですか?」


 「あぁ。俺もたまには1人になりたい時があるのさ。てのは冗談だ。良かったら座れや」


 そう言い向かい側の椅子を指差す。アランが誘いに乗り椅子に腰を下ろした。


 「随分と賑やかなことになってるじゃねえか。ユーラ様とパーティー組んだんだろ?」


 ノークがにやにやと笑みを浮かべて尋ねた。


 「ええ、どういう訳かそうなってます......」


 「なんだ、嬉しくないのか?」


 「その反対ですよ。なぜ僕なのか戸惑ってます」


 「お前なぁ......自覚がないってのもある種の嫌味だぞ。今後は気をつけろ」


 「はい......。ただ、何を気をつければいいんですか?」


 真剣に何のことか分からない様子のアランに、ノークが呆れて頭を軽く掻いた。


 「もうこの街じゃアランの腕は中堅クラスには入ってるんだよ。しかもその若さでだ」


 「ノークさんとアサノさんに鍛えてもらったおかげです。ありがとうございます」


 「そこんとこ分かってるのは偉い。それはともかく、ある程度の実力者になったアランが領主様の目に留まるのは自然なことだ。そんでユーラ様だが、小さいことから冒険者を目指していた」


 「そうだったんですか」


 「ああ。それが理由で王国の任務にも参加して戦闘技術を身に着け、14歳になって冒険者登録をした時には過去の任務成績が評価されてあのランクにいる。それもこれもいつか一緒に戦ってくれる仲間が現れるのを待つために」


 「......ノークさんやけにユーラのこと詳しいですね」


 「そこは訳ありだ、てか話を逸らすな。そんなところに突如として腕利きの少年が現れた。森の中の魔物を壊滅させる程の実力は、領主様から見ても合格点だったろう。そしてユーラ様とアランは年が近い。お前ならユーラ様と仲良くやっていけるんじゃないかとお考えになり、今に至るという訳だ」


 「なるほど......」


 ここまで話し終えるとノークは窓の外を見た。満月が優しく街を照らしている。


 「色々と余計なことを喋っちまったが、俺が言いたいことはだ。自分の実力を見極めろ、客観的に。それとお前なら大丈夫だろうが、仲間を、周りにいる人を大切にしろ」


 「はい、分かりましたけど......ノークさん、何かあったんですか?」


 「......俺だってこの仕事やって長いからな。色々あるさ」


 そう言ってノークは一息ついた。アランはその様子を見て、深く何が合ったか聞くのは良くないと判断した。


 「あの、ノークさん。僕とユーラ、今日の仕事してる時にグランドオークと出会ってしまって。何とか2人で倒したんですけど、あいつって冒険者からみてどれくらいの強さなんですか?」


 ノークのアランを見つめる目が細くなった。


 「ほお、グランドオークを倒したか。あいつはBランクくらいの冒険者で当たるくらいの魔物だ。つまりお前はもうそのくらいの腕は持ってるってこった」


 「なるほど......」


 「そういうことだ。これからも精進しろよ。そんじゃ俺帰るわ。今度会った時にまた面白い話用意しといてくれよ」


 「あっはい。おやすみなさい」


 ノークがゆっくりと手を振りながら出ていく。それを見届けたアランも自分の部屋へと戻り、疲れの中すぐに眠りについた。





 翌朝、激闘による疲れが残ったまま、アランはなかなか起き上がれずにいた。するとドアが勢いよくノックされた。


 「アラン!!ユーラ様がお待ちよ、早く降りてきて!!」


 徐々に意識が浮き上がってくると、ベッドから飛び起きた。急いで服を着て階段を降りる。



 ユーラは1階の酒場で待っていた。彼女が座っている場所から一定の範囲に人がおらず見事な空白地帯ができていた。



 「ユーラごめん、待った??」


 「アラン、朝会った時は最初におはようの挨拶からだぞ」


 そう言ってユーラははにかんだ。


 「あぁ、そうだね、おはよう」


 「おはよう。それほど待ってないから、大丈夫だ。それより、寝癖が付いてるぞ?アランもそういう所があるんだな」


 アランが慌てて手ぐしで髪型を整える。


 「よし、直ってるぞ。それでは報告に行こう」


 2人でカウンターへ行くと、ユキが体をカチコチにして出迎えた。


 「ユーラ様、おはようございます。あとその他1名様」


 「その他1名様って......」


 「冗談よ、アラン君おはよう」


 「おはようございます。依頼の報告に来ました。これがセルン草です」


 アランがアイテムボックスから紐でくくったセルン草の束をカウンターに置く。


 「はい、確かに。お疲れさまです」


 「あと、これをお願いします。グランドオークの耳です」


 「グランドオーク!?」


 討伐部位の耳を見てユキが目を剥いていた。


 「ホントだ。よく生きて帰ってこれたわね。アラン、ギルドカード貸して。少し待って、あっ、少々お待ち下さい」


 そう言いユキが2階へ駆け上がっていった。


 「何なんだろう?」


 「グランドオークを倒したって報告に来れば、これくらいの騒ぎにはなるさ」


 「そうなんだ......」


 やがてユキがギルドカードを手に持って降りてきた。


 「お待たせしました。アラン君、おめでとう。あなたは冒険者ランクDになりました」


 「え!?もうですか?」


 「アラン、別にそれほど驚くことではないぞ。実力者ならBくらいまでは比較的上がりやすい」


 ユーラがうんうんと頷く。


 「ユーラ様の仰ることも確かに正しいですが、今回はグランドオーク討伐の成果が大きいです」


 「僕たち、相当な大物を仕留めたんだな......」


 高ランク依頼にはやはりそれなりの危険が伴うと、身を持って体験した今回の依頼だった。


 「アラン、これからどうする?次の依頼を受けるか?」


 「いや、ちょっとユーラへ相談したことがあるんだ。酒場へ行こう」


 2人が酒場へ移動すると、それに伴って空白地帯もズレるように移動した。


 



 「それで、相談したいことって何だ?」


 「うん。僕はもっと強くなりたい。そのためにはどうすれば良いかなと思って」


 ユーラが少し難しい顔をした。


 「その年で十分にアランは強いと思うが。私はアランが強くなることに対して急いでいるように感じるんだが」


 「確かに急いでるかもしれない。だけど僕は人の役に立ちたい。そのためには強くならないと。それに将来は、世界中を旅してみたい。そのために自分で道を切り開ける力が欲しい」


 「一つ聞いてもいいか?どうしてそんなに人の役に立ちたいんだ?」


 「それは......一つ目、僕は認められたい。役に立つ人間だってことを。もう一つは、僕がこの街にくる前のことがきっかけだけど、今は言えない」


 「......そうか。それなら今は聞かない。それでどうすれば強くなれるかについてだが、これは高ランクの依頼を受け続けるのがいいと思う。それも魔物討伐や、護衛など戦闘が前提の依頼をな。とはいっても死んでしまえば元も子もないから、見極めが必要だが。実戦で戦うことが一番腕を上げる上での近道になると私は思う」


 それを聞いたアランは、何かを考えているのかじっと目を閉じていた。やがて目を開けると、ユーラと目線を合わせる。


 「そうだね。ユーラの言う通りだ。その方針でこれからも進んでいいかな?」


 「勿論だ。なにより私が言い出したことだ。2人で頑張ろう」


 そう言い2人は笑いあった。だがその意味は違っていた。アランは友人として、ユーラは異性としてお互いを意識した。



 


 この日を境に、2人は主に魔物討伐系の依頼を積極的に受けていった。ランクC、Bの依頼ともなると討伐する対象も手強い魔物が多く、2人、特にアランにとっては存分に腕を磨くことができた。そんな日々を送り、瞬く間に半年が過ぎた。




 「もう飽きた」


 いつもの酒場で2人が夕食を食べていると、ユーラがふと呟いた。


 「飽きたって、依頼のこと?」


 「そうだ。毎日毎日魔物を倒してばかり。ずーーっとだぞ?さすがに飽きてくる。というか最近は強い魔物があまり出ない。もうベルファト周辺の魔物倒し尽くしてしまったのではないか?これではアランの目的から考えても討伐系の依頼ばかり受ける意味がない。なあアラン、たまには違う依頼にしないか?」


 アランは腕を組み、何か良い案はないかと考えた。そしてふと閃いた。



 「ふと思ったんだけどさ。ダンジョン行かない?」


 「ダンジョン?」


 「そう、ダンジョン。あそこならいくらでも魔物いるし、階層によって強さが分かれてるから無理しすぎることもないでしょ?」


 「......」


 アランは怖いものを見た。それは初めて見るユーラの怒った表情だった。


 「なんで早く思いつかないんだお前はーー!!」


 「ごめんって!だけどユーラもダンジョンのことは知ってるでしょ!?」


 「それは......そうだが」


 痛い所を指摘され急速に勢いがなくなった。


 「......ダンジョンへ行こう」





 「それで、どこのダンジョンが良いかな?」


 2人はギルドから借りてきた地図を見ている。ベルファト方面の街やダンジョンが記されている。


 「冬になると馬車で移動するのは難しくなる。幸いベルファトは帝国の南に位置している。が、多少余裕があるとはいえ、近場がいいだろうな」


 「じゃあ、ここはどう?」


 アランが地図上の一つの点を指差す。


 「ここはランクA以上の冒険者でないと入った瞬間殺される高難易度ダンジョンだ。ここは却下だ」


 「そうなんだ。それじゃあユーラが選んで。僕こういうこと分からないから」


 「......それなら最初から言ってもらえれば早く済んだのだが。それではここにしよう」


 そう言ってユーラはベルファトから北東にの位置にある点を指さした。



 



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