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第10話

 「セルン草は、馬車で半日くらいの距離にあるヘンレイの森の奥深くに生息している。というわけで、アランも私も旅の支度で準備がいるから、明日の朝出発でどうだ?」


 「いいよ、それでいこう」


 ギルドを出たところで簡単な打ち合わせを行い、二人は分かれた。


 準備とはいっても、アランの方でしなければいけないことは少なかった。馬車や食料はユーラが用意してくれることになっていた。


 時刻は朝と昼のちょうど間くらいだった。そこでアランは今日残りの時間を鍛錬をして過ごすことにした。南門から外へ向かい、いつもの平原へと向かう。このときも全力ダッシュで体力を鍛える。到着すると、今回の鍛錬は魔法制御に絞って集中的に行った。

 あまりにも集中していたために、気がつくともう日が暮れそうになっていた。急いで街へ戻り、いつもの屋台街で夕食を食べると、ギルドへ戻り早めに就寝し明日への英気を養った。





 翌朝アランは日が昇る前に目覚めた。二度寝しようと思ったがすっかり目が冴えてしまったので、大剣を側に持ってきて整備をする。一切どこにも傷や痛みがないことを確認して、この大剣には自動修復の機能があることを思い出した。


 南門に近づくと、すでにユーラが待っていた。側には馬車があり、それを引くバトルバッファローとよばれる調教された魔物が2頭退屈そうにあくびをしていた。形は牛に似ているが、全身が岩のような硬い鱗で覆わており、その下にある筋肉が体型を屈強なものにしていた。大きさも尋常ではなく、体高だけでも大男のノークよりも遥かに高く。


 


 「アラン、おはよう。早いな」


 「おはよう。ユーラの方が早起きだよ」


 


 そういってアランが笑った。ユーラは戦闘用の防具を身に着けていたが、動きやすさを重視して軽装の鎧にしていた。


 「おはようございます、アラン様」


 「シノさん、今日はよろしくお願いします」


 シノはベルファト家の執事であり、今回のようにバトルファバッファローの手綱を握ることもある。


 「それではアラン、出発しよう。シノ、頼む」


 アランとユーラが馬車に乗り込み、シノが衛兵とやり取りを終え出発する。



 

 馬車の中はさすが貴族が使っているだけあって広く、中央にテーブルがあり、前後にゆったりできる座席が配置されていた。夜就寝するときは座席を倒してベッドにすることもできる。そうユーラは自慢した。


 バトルバッファローの怪力により、ぐんぐんと馬車は進む。そんな中アランは、のんびりと流れていく景色を見ていた。


 「アラン」


 「ん?どうしたの?」


 「今回がパーティー組んで初めての仕事になるな」


 「うん」


 「何とも思わないのか?」


 「そんなことないよ。ユーラと組めるのはうれしい」


 「ならもっと態度に出してもいいと思うんだが」


 そう言ってわずかに頬をふくらませる。


 「ごめんごめん、今まで誰かと一緒に何かをするってことがなかったから、まだ慣れてなくてね」


 「そうか。それならいいんだ」


 「ユーラは、こういう初めてのこととか、大事にする方?例えば記念日とか」


 アランから質問されたことがユーラには嬉しかった。自分に興味を持ってもらえている証拠になっているからだ。


 「そうだな、私は大事にする方だな。というよりも女子なら気にする子の方が多いと思うが」


 「そうなの?」


 「多分な。アランはもっと乙女心を勉強しないといけないぞ」


 「確かに......それじゃあユーラを見て乙女心を勉強させてもらうよ」


 「え!?あぁ、是非そうしてくれ!」


 他愛もない話をしているうちに時間は過ぎていき、昼過ぎにはヘンレイの森入り口へ到着した。

簡単な昼食を済ませると、準備をし中へ入る。



 「シノさん、留守の間頼みました」


 「ご安心ください。何かあってもこの子達がいますので」


 シノはそういってバトルバッファローを軽く撫でた。


 「ではシノ、行ってくる」


 2人は森の中へと足を踏み入れた。






 幻想的な風景だった。とてつもなく高い木々が等間隔で生えている。しかも枝から生えている葉の色が薄い青色で、淡く光っていた。2人は思わず仕事を忘れ、青い空の絨毯をずっと見ていたい衝動にかられた。


 「見とれてる場合じゃないね。セルン草ってどうやって見分ければいいのかな?」


 「こういうこともあろうかとちゃんと調べておいたぞ。葉の色は赤紫色で、腰の高さまで伸びる。必ずひとつの根から8本だけ葉が伸びているから見分けるのは簡単だ」


 「ほんとにユーラがいて良かった......。僕もこれからは準備きちんとしないと」


 「そういう所だけで言えばアランはまだまだだな」


 そうは言いながらも、ユーラはアランを責める様子は全くなかった。




 「アラン、魔物はいるか?」


 「周辺400歩以内はいないけど、魔力を隠してる奴がもしいたら不意打ちをくらう可能性はある」


 「そうか、警戒は怠らずに行こう」


 2人はゆっくりと森の奥に進む。


 「ユーラ、聞きたいことあるんだけど」


 「ん?なんだ?」


 「女子にいきなり聞くべきじゃないことなのかもしれないけど、ユーラって年いくつ?」


 「知らなかったのか?アランと同じ年だ」


 「え、そうなの?大人びてるから年上かと思った」


 「それは、褒めてくれているんだよな?」


 「もちろん褒めてるよ。そっか、同じ年なんだ」


 「どうだ?親近感が湧いたか?」


 「そうだね、ユーラを身近に感じる」


 「......そういう誤解を招く言い方は控えた方がいいぞ」


 ユーラが頬を赤らめながらやさしく指摘をした。




 30分ほど歩いた時、アランが見つけた。


 「お?ユーラ、これじゃない?」


 「ん?......特徴通りだな。持っていこう」


 「僕のアイテムボックに入れよう」


 アランはセルン草を採取しボックスに入れ、探索を再開した。



 珍しいものではないようで、セルン草は所々で見つかった。順調に採取を続ける。として4ヶ所目の採取をしようとした時、異変は起きた。


 「ん?ユーラ危ない!!」


 突然影から何かがアラン達へ飛び出してきた。咄嗟にユーラを突き飛ばす。


 「アラン!敵か!?」


 ユーラは瞬時に突き飛ばされたことが自分を庇ってのことだと理解し、バランスを立て直しながら着地した。何かが飛んできた先を見ると、そこには巨大な魔物がいた。


 

 「ごめん、魔力を隠していたからギリギリまで分からなかった。それにしてもなんだコイツは!?」


 「アラン、コイツはグランドオークだ!」


 「グランドオーク!?ジェネラルが最上位じゃなかったの?」


 「グランドオークはそのジェネラルの変異種なんだよ!!気をつけろ、強いぞ!」



 アランとユーラが剣を構える。それを見てグランドオークが突撃してきた。狙われたのはユーラだった。強靭な右腕で殴りつける。それを体をそらして僅かな差で回避する。


 「なんつう風圧だ!当たったら一撃でやられるぞ!」


 

 腕を振りかぶったグランドオークのスキを狙い、アランが大剣で突きを入れる。それを足で蹴り上げ、剣筋が逸らされる。


 「やたらと武闘家なオークだな!」


 アランが思わずぼやいた。だが心は常に冷静で、すでにグランドオークの戦い方を見極めつつあった。


 「もうそろそろいいよね。ユーラ、サポートお願い!」


 「任せろ!!」




 アランが炎弾を打つ。それに気づいたグランドオークが凄まじい音量の雄叫びを上げ、衝撃波で炎弾を打ち消される。しかしその間に足元へ潜り込んだユーラの一閃によってグランドオークの左腕を切り飛ばした。


 今度は痛みによって雄叫びを上げるオークにアランが大剣を振り、首を跳ねた。巨体がゆっくりと崩れ落ちる。

 


 「ユーラ、ありがとう。助かったよ。たださっき剣を逸らされた時にすこし肘の筋を痛めた......」


 「見せてみろ」


 ユーラが右腕の肘に手を当てると、小さく光が灯った。みるみると痛みが引いていく。


 「すごい、一瞬で治った。ありがとう」


 「これからも頼ってくれて良いからな。アランも見事だった」


 2人は仕留めたグランドオークへと近づく。


 「アラン、こいつの魔石は胸の当たりにある」


 「胸のあたり......あった、すごく大きいね」


 「このレベルの魔物になると魔石もそのくらい大きくなる。めったに出ない魔物の魔石だから、ギルドで高く売れるぞ」


 「そうなんだ、でもどうしようかな。すごく綺麗なんだよね、これ」


 「腐るものでもないし、じっくり考えればいい。討伐証明部位は耳だ。これも取っておこう」


 アランは魔石とグランドオークの耳をアイテムボックスに入れた。


 それから2人はセルン草の採取に戻った。グランドオーク以降出てくる魔物はゴブリンやコボルトばかりであり、時々通常種のオークも出てきたが2人の敵ではなかった。




 「結構集まったんじゃない?」


 「そうだな、これくらいでいいだろう」


 2人は採取を終え馬車に戻ることにした。


 「結構奥まで来てしまったな」


 「うん、そうだね」


 「......」


 沈黙が場を支配する。聞こえるのは動物の鳴き声、木々がゆらめく音、歩く足音だけだ。 


 ユリエは何とかしてアランと話をしたかったが、話題が思いつかない。どこかそわそわした様子にアランが気づいて声を掛ける。


 「ユーラ、どうしたの?」


 「え!?なんでもないぞ??」


 「そっか、それなら良いんだ」


 ユーラはここまで人と話すのに苦労したことなどあっただろうかと思い、苦笑いを浮かべた。貴族という立場上色々な人々と話をするため、自然とコミュニケーションや話術にはそれなりに自身があった。


 だが今はたった1人の男性を相手なのに今までのように上手くいかない。話せないこと自体が悪いことではない。それよりもユーラが気にしていたのは、自分がなにも話さないことによってアランに悪い印象を与えていないだろうかという点だった。


 「ふう、やっと馬車が見えてきたよ。」


 「ああ。グランドオークが出てきたこと意外は順調に終わったな」


 疲れてはいるが朗らかとした表情から見て、恐らく嫌われてはいないだろうとユーラは判断した。



 「おかえりなさいませ、ユーラ様、アラン様。セルン草の採取は捗りましたか?」


 「はい、十分な量が取れました。結構お待たせしてしまってすみません」


 「とんでもない、私も仕事ですから、お気になさらず。それでは戻りましょう」



 帰りの道中の馬車の中。疲れからかアランが頭をこつこつとさせ眠り始めた。それを見て、ユーラは自分のアランに対する気持ちの正体に気がついた。



 


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