第1話
本日もう1話投稿します。
「冒険者登録......ですか?」
「はい。お願いできますか?」
今ギルド職員に登録を申し込んでいるのは、背伸びをしてやっとカウンターから頭が見える程度の少年だった。着ている服はところどころに穴があいていてボロボロだ。
黒髪に人形のような大きな目、青色の瞳、その顔立ちによって彼の見た目はより幼く見えた。
「あなた、歳はいくつ?」
「12歳です」
「あのね、冒険者になるには14歳からじゃないと駄目なのよ」
「そこをなんとか、お願いできませんか?」
そう言って少年は瞳をうるうると潤ませて懇願している。
「そんな目をしても駄目なのよ......規則だから」
「どうしても駄目ですか??僕お金もなくて、このままだとのたれ死んでしまいます」
「そんなこと言われても......」
ギルド職員は頬に手を当ててしばらく考え込んでいたが、ふと席を立ち上がった。
「ちょっとここで待っててね?」
そういって職員の女性は建物の奥へと入っていく。そして少年の体感時間にして5分ほどした頃、カウンターへと戻ってきていた。
「君、ちょっと奥へ来てくれる?」
そういって女性は少年を手招きする。少年はカウンターの下を潜り抜け女性に従いついていく。
少年から見てギルド職員の女性はとても綺麗な人だった。8頭身はあろうかという体のプロポーション。肩あたりでおさげにしている白髪がよく似合っていた。
「こっちよ」
そういって振り返った女性の顔を改めて少年は見た。程よくふっくらとした顔つきに緑色の目をしていて優しそうな雰囲気を出していた。
奥の階段を女性について登り、2階へと向かう。廊下を進み、一番奥の奥の扉まで進む。女性が扉を4回ノックする。
「どうぞ」
女性に続いて少年も部屋に入る。入った部屋には高級そうな絨毯が敷かれており、部屋の両サイドには本棚があり、本がびっしりと並んでいた。
正面の手前には来客用のテーブルがあり向かい合うようにソファーが置かれている。奥には仕事をする用だと思われる机が設置されていた。そこには長身の女性がいた。彼女は少年をちらっと見て口を開く。
「ユリエありがとう。この少年がさっき言ってた子ね。そこに座ってもらって」
ユリエと呼ばれた職員と少年がテーブルを挟んで右側に座り、反対側に長身の女性が座った。
「さてと。私はこの街ベルファトのギルド支部長をしているコナツと言います。あなたの名前は?」
コナツは少し前かがみになり少年と目線の高さを合わせる。
「......アランです」
「アランくんね。どうして冒険者になりたいの?」
「お金がないんです。食べ物も......」
「ご両親は?」
「死にました」
なんの感情もこもってない言い方にコナツは少し驚いていた。
「そっか......でもユリエが言ったとおり、冒険者は14歳からしかなれないのよ。どうしようかしら......」
そう言ってユリエは腕を組み上の方を見上げていた。そしてしばらくたった頃、アランに聞く。
「なにか特技とかある?読み書きは?」
「読み書きはできません。だけど、力持ちです」
「力持ち?その体で?」
「はい。力持ちだと思います」
ユリエはそう言うアランをじっと見つめていたが、思い立ったように立ち上がる。
「それじゃあ、私についてきて」
そういいコナツは部屋を出ていく。2人も彼女に付いていく。コナツは部屋を出て廊下を渡り階段を降り、1階へと向かう。
1階へと戻ってきた3人。ユリエが口を開く。
「じゃあアランくん、この中でどれか重そうなもの持ってみて?」
ユリエがそう言った後、アランは1階の中を見回す。そして酒場スペースのカウンターへ行き、奥の方へ行き、どすんと置かれていた大きな樽に両手をのばすと、軽くひょいと持ち上げた。
「ええ!?マジすか......」
「とんでもない怪力ね......でもユリエ、これならいいんじゃない?」
「コナツ様がそうおっしゃるなら......」
2人がやり取りを終えると、コナツがアランの眼の前へ来てしゃがみ込んだ。
「アランくん。規則は規則だから冒険者になるのはまだ無理よ。その代わり、ギルドで働いてみる?」
それを聞いたアランの目に光が灯った。
「どんなことをすればいいんですか?」
「まだ文字は書けないのよね?仕事の合間にユリエに教えてもらいなさい。文字を覚えるまでは当分はユリエの補佐をしてもらうわ。新しい冒険者の受付の手伝いとか、酒場の手伝いとか、雑用全般よ。どう?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
アランは丁寧にお礼を言ったが、言葉に乗るはずの感情が感じられないことに、ユリエとコナツには少し気になった。
「じゃあユリエ、あとはお願いね」
そう言って、コナツは階段を昇り2階へと戻っていった。
それを見届けたユリエがアランに向かう。
「じゃあアランくん、ついてきて。どうせお家ないんでしょ?部屋空いてるから、使っていいわよ。住み込みで明日からバリバリ働いてもらうから、今日はもう寝なさい」
「はい、明日からがんばります」
「期待してるわよ?」
ユリエはそう言ってやさしくアランの頭を撫でた。そして2人は2階へ行きずんずんと奥へ進んでいき、ユリエが端にあるちいさな扉を開けた。
「ここがあなたの部屋よ。明日の朝になったら迎えにくるからね」
ユリエがそう言いアランを部屋へ入れると、扉を閉めた。コツコツという足音が徐々に遠ざかっていく。
部屋の中にはベッドが一つだけと、質素なものだった。だがベッドに座るとふかふかとした心地にアランは心が休まるのを感じた。得体の知れない子供を引き取ってくれたばかりかこんな良いベッドで寝れることを感謝しながら、アランは瞬く間に眠りに落ちた。