第7話 陸浮の祭り(中編)
「すごい……これが、お祭り……」
通りは活気で満ちていた。いつも以上にたくさんの人が楽しそうに歩いている。それに、たくさんの露店が開かれていた。
それは、食べ物からアクセサリーなど本当にさまざまな物であった。
「あんまり高額なのは買えないけどさ、少しなら色々と買ってあげれるから、遠慮なく言ってよ」
「いや、でも悪いよ……」
遠慮がちにそういっていた。でも、露店で買ったであろう食べ物を目でチラチラと追っている。
「こういうの祭りとかってさ、楽しんだもの勝ちだと思うんだ。だから、気にしないでよ。こう見えても、僕もかなり稼いでいるからね」
ちなみに、父親の財産をあてにしているのではない。しっかりと商売で稼いでいるのだ。仕事については、機器の修理や制作である。余談だが、今多くの家に普及している蛇口を作ったのが僕である。
「そうなの? じゃぁ、この恩は絶対に必ず返すね。そうじゃないと、罪悪感で、ね? じゃぁ、あれ食べたい!」
そう言ってから、僕の袖を引っ張って歩き出した。意外と力が強かった。引っ張られて連れていかれたのは、クェイと呼ばれる菓子の店であった。
クェイとは小麦を水で溶いた生地を薄く焼いて、砂糖漬けにした果物や、生の果物、生クリームなどを挟んだものである。
「クェイ、二つ貰えますか?」
「おっ? なんだ、ソーレイドの旦那も。春ですかい? くぅーっ、羨ましいぜ! そんな旦那の春とべっぴんの嬢ちゃんを祝って特別に生クリームを付けてやるぜ。べっぴんの嬢ちゃん、どの味がいいかい?」
否定する間もなく、立て続けに話すクェイの店主。その前にこの店主、結婚してもう七年にもなると仕事の時に聞いたのだけど……
それに、べっぴんと言われたからか、それとも僕と付き合ってることになってると間違われたことが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤である。
「僕は、いつものやつで。あと、付き合ってないよ」
「わ、私も。カズト君と一緒の奴で……」
「なぁに、隠したくなるのも分かるってもんよ。結婚式には呼んでくれよな? スピーチしてやるからな!」
ガハハ、と笑いながらクェイを作るために後ろの調理器具を使い始めた。
絶対にからかってやっているな、あの店主。隣で、ティルアが真っ赤になっているし、なんだか話しかけづらい。なんて事を言ってくれたんだ、と思いつつ数分後。
「ほら、ナッツと焼きリンゴのクェイだ。毎度あり」
いそいそと二人分の代金を出して店を離れた。終始ニヤニヤしている店主を見て、次に修理に言ったとき覚えていろっ、と心の中で思った。
「美味しいから食べてみてよ」
そう言ってから僕は一口食べた。うん、いつも食べているのは生クリームが入っていないから少し、新鮮に感じる。それにやっぱり美味しい。
焼きリンゴは、ほどよく焼かれておりしなしなとシャキシャキの中間のような食感。そして、少し固めのナッツがアクセントになっている。
そんな僕の様子を見て、ティルアも一口食べた。
「本当だ、美味しい。いつも食べてるリンゴよりもずぅっと美味しいし、甘い!」
がっつくように、クェイを食べるティルア。急ぎすぎて頬に生クリームがついていた。
「右頬、クリームついてるよ」
「本当だ、ありがと」
人差し指で掬って口に運んだその仕草さえも可愛い。どうしてだろう? このもやもやした感じたことの無い気持ち。
やっぱり、一人で見るよりも他人といる方が楽しいから、なのかな?