第6話 陸浮の祭り(前編)
朝食を終えてから、僕は一つ思い出した。これは最初に伝えておかないといけないことであった。
「最初に言っておくね。こっちでは、ティルアさんの母国は罪を犯した国として罵られている。これが、ここの常識なんだ」
「分かってるわよ。分かってるけど、なんだかねぇ」
不満げにそう言いながら髪を編んでいた。これで、おそらく分かって貰えただろう。問題なく行動できるはずである。
祭りの日は割引している店が多い。ついでに犯罪も多い。そう言えば、ティルアの耳は目立ってしまうかもしれない。僕も尖った耳なんて初めて見たから。
「悪いけどフード被って、行動して貰ってもいいかな?」
「えぇ、どうして? って、耳か」
気がついてくれたようである。と言ったが、ティルアの着ていた服にはフードは着いていない。
「悪いけど、僕のパーカーで言いかな?」
「仕方がないね。いいよ、それで」
わかった、ありがとうね。とだけ言って自室からなるべく可愛いと思うパーカーを持ってきた。
祭りの時に、ティルアの服を買わないといけないかもしれない。さすがに、一着しか持っていないのはダメな気がする。
あれ? どうして、こんなにもティルアのことを考えるのだろ?
「これでいいかな?」
「うん、いいよ。着替えてくるから、ちょっと待ってて」
僕のパーカーを持って別の部屋に歩いていった。すぐにまた戻ってきた時には、ちゃんとフードも被っていた。
少しだけ髪がフードから顔を出しており、耳はまったく見えない。これなら怪しまれないはずである。
それにパーカー姿のティルアも可愛らしい。どこか、幼げな子供のようにも見える。
「じゃぁ、島浮の祭りに行こう」
「楽しみに!」
僕は扉を開けて非日常へと飛び出していった。
※※※
地歴248年 某所にて
「ゼェード様。エルヴァでの爆発について、新しい情報が入りました」
椅子に座って報告を聞くゼェードと呼ばれた男と、報告を言っている秘書のような女性が会話している。
「エルヴァ……水の都か。それで?」
無駄な会話はいらない、とでも言うように続きを促すゼェード。
「爆発跡の上空で人が叫び声を上げているのが近くの住民から確認されました。しかし、周辺には人影はなく無人であった、とのことですが」
上空から人なんて、お伽噺話みたいですね、と言うように報告をしている。だが、ゼェードはピクリと眉を動かした。
「そうか、ご苦労。しばらく一人にしてくれ」
「分かりました。失礼します」
いそいそと出ていく秘書。そして、ゼェードは出ていったのを確認してから笑いだした。
「そうか、天空人が落ちてきたのか……いい、サンプルになりそうではないか。くっ、くくっ」