第5話 祭りの朝
「おはようございます。朝のクックルニュースの時間です。えー、速報です。水の都 エルヴァの郊外にて爆発跡が発見されました。直径10m弱のクレーターとのことです。捜査局は、燃焼跡が無いことから何か氷のようなものが落ちたのではないか、としています。次のニュースです」
ラジオをつけた瞬間に流れたのが、このニュース。吹き出しそうになってしまった。
完全に犯人はティルアである。どうして、あんな風になったのか、ちょっと興味が湧いてきたので朝食の時に聞いてみることにしよう。
先程目覚めて、作り置きの昨日のスープを暖め直しているところである。まだティルアは起きてこない。昨日も遅かったからまだ眠っているのだろう。
だが、朝食も出来上がったことだしティルアを起こしに行くとしよう。ずっと待っていたら何時になるか分からない。
二階に登って、ティルアの眠っている部屋に向かう。昨日と同様に、入るよ、と告げてから扉を開けた。
布団にくるまりすやすやと眠っているティルアがいた。不思議なことに布団は新品同様に綺麗になっていた。魔法とやらの力なのだろうか?
「ティルアさん? 起きてください~。朝ごはんですよ」
「カーデのあにさまぁ……後、少しだけ寝かせてぇ」
寝惚けたように嫌々と布団に抱きついてしまった。下手に体を触れないので起こしづらい。男なら布団をひっぺがして起こすのに。
カーデ、とはティルアの兄の名前なのだろう。と、言うことは日常的に起こされているのか。
「カーデさんでは無いですよ~。カズトです。いいから起きてください!」
考えついたのは、布団の端をもって引っ張ることだった。揺れる感覚でようやく目を覚ましたのか、気持ち良さそうに目を半分開けた。
「カーデの兄様ぁ。まだね、ティルア寝てたいの」
それだけ言って、目を閉じた。完全に勘違いされている。これでは埒があかない。
「カズトです! おきてくださぁ~いっ!」
「うにゃ? カーデの兄……カズト? ふにゃぁっ! どうして、ここに居るのっ!」
目が覚めたようだ。それと同時に枕が顔面に飛んで来た。かなりの威力が込められていたようで後ろに綺麗に倒れた。
ゴリッ、と鈍い音と激痛が走る。ついでにズキズキと痛みだした。
「ごめん、避けると思った」
枕を掴み、ティルアを見ると物凄く申し訳なさそうにそう言った。この娘は日常的にどんな生活を送っているのだろうか。
「いや、いいよ。それよりも朝ごはんにするから降りてきて」
「うん、分かった。行こう」
なんだか少し嫌そうな顔をした。僕と食べるのが嫌なのだろうか?
「これ、何?」
机の上に置かれているスープとパンを見て言った。
やっぱり王女様だからこんな貧相な食事じゃなくて、なんかこう? ね。ほら、すっごい豪華なのを食べていたりするのかな?
「朝御飯だけど……やっぱり」
「美味しそうじゃん! いつも食べてるのよりもずっと豪華!」
予想と違う言葉が出てきたぁ。
「そ、そうなんだ。いつもはどんな食事を?」
「魔導式固形食とたまに果物、が三食」
まどうしきこけいしょく? なんか凄いのが出てきた。それで、嫌そうな顔をしたのか。ずっと食べ続けたら嫌にもなるか。
「ねぇ、はやく。食べましょう!」
「じゃぁ、食べようか」
「いただきます」
「ん? 何それ?」
不思議な挨拶だな。なんの意味があるのだろうか? 僕の知らない言葉だった。
「え? 知らないの。食べ物に感謝するための挨拶。昔の風習なんだって。ん、おいしっ」
そう言いながらティルアはスープを食べていた。
「そうなんだ……でも、そっか。いい風習だね。真似しようかな。いただきます」
そう言って、スープに口をつけた。
いつもより食事がありがたく感じるのと同時に、久しぶりに他の人と食事をしたなぁ、と思ったのであった。