第3話 衝撃の事実
「こんな贅沢していいの?」
ティルアが風呂場を見たときにそう言った。贅沢、なのだろうか? 普通のシャワーに浴槽、このぐらいはどの家にもあると思う。
でもティルアは目を輝かせて見ていた。そんなに不便な生活を送っていたのだろうか?
「いや、いいよ? 浴槽に張ってあるお湯はもう冷めてしまっていると思うからシャワーで我慢して貰うことになるけどね。じゃぁ、上がってくるの待ってるから、ゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
僕はそのまま脱衣場を後にした。扉を閉めてから、そのまま扉にもたれ掛かる。何かあったら駆けつけられるように。初めて見るような顔つきだったから心配なのだ。
断じて、それ以外の気持ちはない。そもそも、相手は男の子である。
するとシャワーから水の流れる音が聞こえ始めた。シャワーは使えるようだ。これで少しは安心した。
ここで大切な事を思い出した。シャンプーとボディソープの説明をしていなかったのだ。間違って使ってしまっうと髪が、ギッシギシになってしまう。
一度間違って使ったときに、とても大変な思いをしたのだ。
「ごめんっ! ティルアさん、シャンプーとボディソープ、どっちがどっちだか分かる?」
扉越しに、大声で聞いてみる。意外と外の音が聞こえないのが風呂場である。
「しゃんぷー、ぼでぃーそーぷ? 何それ? 何か違うの?」
考えもしない返答だった。まさか、シャンプーとボディソープを知らないとは。だが、説明のしようが無いのだ。どちらもそっくりな容器に入っているから。
「えっと、シャンプーって言うのが髪を洗う為の石鹸で、ボディソープが体を洗う為の石鹸なんだけど、間違って使ったら髪がギッシギシになる!」
「えっ? 髪がギシギシになるの?」
シャワーが止まり風呂場の扉の開く音がした。少しだけ脱衣場の扉が開く。そして、上からボトルが一つ出された。
頭の上に水滴が落ちてくる。扉を背もたれにしていた僕はボトルとそれを持つティルアを見上げることになる。
濡れた髪が頬に張り付いて、美少女にも見えるティルアは僕が見上げていることに気がつくと顔を赤らめて勢いよく扉を閉めた。
「それがシャンプーだよ。髪を洗うやつ!」
どうして、顔を赤らめたのだろうか? とても不思議である。同性なのだから、関係ないと思うのだが。まぁ、それは人それぞれだし。
「分かった。あ、ありがと」
声が少し震えていた。そんなにも恥ずかしかったのだろうか。そんなに恥ずかしがられると罪悪感が湧いてくるのだが。
また扉が閉まる音がした。立て続けにシャワーが流れる音も。
もうそろそろ眠たくなってきたのだが。今日も、いや、昨日か。昨日もたくさん歩いたのだ。買い物に行ったり、散歩をしたりととにかく体力を使った。それに今日は早く寝るつもりだった。
「ま、たまには徹夜するのもいいか」
そんな呟いて、ティルアが出てくるのを待っていたのだった。
※※※
そこから数十分後。ようやくティルアがでてきたのだった。顔は薄紅に染まり、湿気った髪から、先程までとは違った印象を受けた。
それに、倒れていた時の服装とは違いノースリーブのシャツに、ホットパンツという出で立ちであった。手には、長袖のシャツとズボンを持っている。
「上がってきたね、どうだった?」
「とても気持ちよかった、ありがとう。カズト君」
「それは良かった」
どうやら使い方は分かったようだ。少し安心した。
「一つ聞いてもいい? どうしてあんなに贅沢ができるの? 体を洗うために水、それもお湯を使うなんて。魔法を使えば節約できるのに」
とても不思議そうな顔をして聞いてきた。
魔法? おとぎ話の世界の単語が出てきた。魔法なんてない。あるのは、原理の説明ができる科学だけである。
「魔法? それってお伽噺の世界のものだろ?」
「え?」
どうして知らないのか? みたいな顔をされてもとても困る。
「見たこと無いの? じゃぁ、見せてあげる」
ティルアの右手に、水が集まりだした。それも何もないところから、いきなりだ。どんどん集まっていって、大きめのボール程の大きさで、浮いているのだ。
初めて見る光景に、目を奪われていた。こんなもの見たこともない。今までに見たどんなマジックよりも素晴らしかった。
「これが魔法。今のは初歩の段階の、だけどね。ここから発展させていくの」
「すごい。これが、魔法なんだ……」
その称賛の声に得意気にティルアが笑った。
「改めて名乗るね。私はティルア・ロッド・サヴァート。天空を統べる天帝を母に持つ、継承権第二位の王女よ」
「え?」
先程の魔法を見たときよりも、驚いた。まさか、本当に女の子だったなんて。てっきりずっと、男の子だと思っていた。