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第10話 絶体絶命の状況

「そうだったんだ。って、どうしたの?」

「あれ? どうして私、泣いてるの?」


 ティルアの目からは涙が溢れていた。思い出した、のだろう。ここからは、自分の家に帰れないと言うことに。



「かえりっ、たいっよ……でも、かえっ、れないっ」

「大丈夫。大丈夫だよ。ティルアさんはちゃんと帰れるよ」


 大丈夫、としか無責任な言葉しか言えなかった。ここでほとんど他人と会話していなかったツケが回ってくるとは。



「じゃぁっ、あなたが私を家に送り届けてよっ! あなたが私を守ってよっ!」


 激しい感情のままにティルアが怒鳴る。だが、僕は何も言い返せなかった。だって、そんな重大なことをぽんっ、と決断できる勇気が無かったのだ。



「出来ないんでしょっ! だったら、だったらさっ、大丈夫なんて言わないでよっ!」


 そう言うとティルアは泣きながら、家を出ていった。僕は呆然とするしか無かった。ティルアに言われたことが心の中をぐるぐると回り続けた。



 なんて無責任な言葉だったのだろう。慰めるにしても、もっと別の言葉があったであろう。それに、もう夜になってしまった。夜になれば気温がぐっ、と下がる。


 それに、夜は危険なのだ。日陰者が活動を始める時間帯でもある。そんな時間帯に少女が一人で居れば、ロクなことにはならない。




 一人になってしまった、この家で気がついてしまった。今日一日がとても楽しかった、こと。色々あったが、彼女の隣にいてとても楽しかったのだ。ずっと居たいと、思ってしまったのだ。


 また一人になってしまったら、久しく忘れていた、寂しさが溢れだしてきた。




「あぁ、もうっ!」

 そのまま僕もティルアを探しに、夜の通りに出ていった。



 いない。どこにもいない。あらかた今日通った場所は探したのにどこにもいないのだ。どうしてだろうか? もしかして、捕まってしまったのか?




「おっ? どうしたんだ? ソーレイドの旦那。嬢ちゃんはいねぇみたいだが?」

 声をかけてきたのは、クェイを売る店の店主だった。仕事帰りなのだろうか?


「ティルアが居なくなったんです。どこかで見かけませんでしたか?」


「何っ、この時間帯にか? ったく喧嘩でもしたのか? おっちゃんも探してやるからしっかり探すぞ。服装はさっきと変わらないんだろ? 見つけたら帰るように言っとくぞ」


 なんと心優しいことか。すぐに手伝ってくれるなんて。それでもそれどころではないので、お礼も言えずにそのまま他の場所を探すことにした。






 大通りはあらかた探し終わった。もう残っているのは裏路地しかない。ここは、この時間帯に入るのは危険すぎる。





 それでも、僕は裏路地に入り込んだ。絶対に探し出すという強い意思を持って。









 そして、何分か歩いた時にティルアの叫び声が聞こえた。これは嫌な予感しかしない。


 声がしたところに行ってみると、柄の悪い男三人に囲まれていた。着ていたパーカーは男の一人が持つナイフによってざっくりと切られている。



「ティルアから離れろっ!」

 僕は頭が真っ白になって、叫ぶと同時に男たちに向かって走っていった。だが、僕は体を鍛えているわけでもない。ただの一般人である。



 顔面を殴られて、そのまま地面に転がる。激しい痛みだが、それでも立ち上がろうとして背中を踏みつけられた。



「なんだこのガキ。こいつの彼氏か? やっべぇ、良いこと思い付いた。こいつの前でさ、ぎゃはははっ、」


 立ち上がることすらできない、ティルアは怯えてしまって腰が抜けている。どうやっても万事休すである。



「どうだ? 無力だろ? バカだなぁ。黙っていればこうならなかったのにぁ」


「うるっさいっ! 黙れっ。くそっ」

 足に力を入れて、立とうとするが立てない。どう足掻いても無理だ。このまま無力なまま助けられずに終わってしまうのか?



「ほら早くしないと、彼女が大変なことになっちゃうぞ~。ほらほら」


 パーカーが切られていく。ティルアは抵抗できずにいた。涙が溢れだしていても、男は止めることはない。




「ちっ、つまんねぇの。もういいや本番に行くか」


 ナイフがティルアを捉えた。僕は何もすることができずにいた。


「やめろっ!」

 僕の精一杯の叫びはあまり意味がないみたいだ。また目の前で助けられずに終わってしまうのか?

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