導かれた学園④
案内された空き教室で理事長さんから貰った予備の制服に着替えてみる。
サイズが合っていないのか、少しタボタボな感じがする。
袖がながいせいか、指が袖で隠れてしまっている。
標準サイズの制服を渡してくれたと思うのだけど、私はその標準から少し小さい印象を与えるので標準だと少し大きいのかもしれない。
「着替えた?」
「は、はい」
「あー・・・・少し大きいね」
私の制服姿に彼は指摘する。
「そう、ですね」
すると、彼はそっと私の腕を優しく掴む。
「!?」
突然の行動に困惑して体が強張る。
「はい、できた」
「えっ」
どうやら彼は、長い袖口を手首の当たりまで折ってくれたようだ。
「ん?どうした?」
「あ・・・・いっいえ」
(あーびっくりした)
何かされるんじゃないかとヒヤヒヤしてしまった。
普通の事なのに困惑していたらいけないと分かっているけど、慣れていかなきゃいけないんだ。
「あ、でも着てきた制服」
福袋みたいなのは持ってきていないし、そう思っていたら彼が「ああ、それならこれに入れたらいいよ」といつの間にか取り出した紙袋を渡してくれた。
制服に着替えたところで、自分の教室へと向う。
「そういえば、君ってセイントクラシィア女学院から来たんだっけ?」
「あ、はい。えっと知ってるんですか?」
「知ってるのも何も有名でしょ?」
「そうですよね」
(確かに有名なんだもんね、あの学校)
「そういえば、まだ名前言ってなかったよね」
「あ」
(そういえば、聞いていない)
すると、彼はすっと右手を出し
「俺はセンリ・クロイド、君と同じ1年だよ、よろしく」
そう言って、ふわっと笑う彼のグレーの瞳と綺麗なオレンジ色の髪が優しく感じる。
「あ、私はルノン=ルイ・シアータです」
私も返すように名前を言って左手で握る。
「ふっ・・・・俺ら同い年なんだから敬語いらないよ」
「あ、ごめんなさい、あ、う、うん。
男の人とほとんど接した事なかったから」
「そうなの?」
「う、うん」
もしかしたら、同い年の男の子は彼が初めてかもしれない。
「そっか、でもここ男ばっかだよ?」
「えっ━━━━」
「男の人ばっかりなの!?」
「う、うん。というか、ほとんど男しかいないと思う」
(えーーー)
どうやらこの学園は、というよりは私が入った学科は、ほとんどが男子しかいない場所だった。
女子もこの学園にいるけど、科が別で校舎を分けている為、私の入った魔術科は男子ばかりで女子は私が初めてだそうである。
「そんなにショックだった?というか知らなかったんだ」
「いえ、大丈夫・・・・。う、うん、突然だったから」
「そっか、セイントって女性しかいなかったんだ」
「うん、家でも男の人って言ったら、おじさんとかおじいちゃんぐらいだから」
男の人ばかりだとやっていけるか自信がない。
(どうしよう、大丈夫だろうか)
不安そうに思っていると、センリくんがふわっと優しい声音が降ってきた。
「分かった」
「?」
「じゃあ、何かあったら俺を頼ったらいいよ。一応、任されてるしな」
「・・・・・・・・えっ」
「まあ、俺も男だけど」
そう言いながら、頬を軽く掻く。
センリくんが言ってくれた言葉に少しだけ驚いたけど、彼の優しさにくすぐったいものを感じた。
「ありがとう、センリくん」
にこっと笑顔を向けて彼にお礼を言うと、センリくんは嬉しそうに頷いた。
「・・・・・・・・!・・・・ああ」
彼の優しさにほんの少しだけ気持ちが軽くなったきがした。