新しい生活②
「あ、ようやく、来た」
ロレッタさんが寮の門を開けると同時に玄関扉が開き、中からセンリくんが出てきた。
「センリくん」
もしかしてずっとここで待っていたのだろうか。
「どうぞ、案内するよ」
そう言って、玄関扉を開けたままにしてくれる。
「おじゃまします」
寮の中もオシャレな雰囲気が漂っている。
「ルノンの部屋は俺の隣だから」
「うん」
センリくんの隣か、それはそれで安心だと言える。
「あらあら、わざわざ空けたの?」
ロレッタさんが、にやけた表情でセンリくんに言う。
「たまたま空いてただけです!」
センリくんは少し強調した口調で否定する。
「あら、そう」
ロレッタさんは少し残念そうな表情をする。
「でも、隣って・・・・。なんならあたしの隣にすればよかったのに」
「俺の隣が一番安心でしょ」
「えーどうかしら?センリくんだって一応男なんだし」
「ついでに言うけど、あんたも男でしょうが。
自分のところは大丈夫そうな言い方してるけど」
「あら、だったらあなたもよ♪」
この言い合い、どっちもどっちな気もするけど。
おそらく言わないほうがいいのだろう。
「部屋の掃除はもう済ましておいたから」
「ありがとう」
「壁から天井まであらゆるものすべてに掃除しておいたからね!」
センリくんはすごく自慢気に話す。
そこまで丁寧にしてくれるなんて、とてもありがたい事だ。
「あなたって掃除好きよね~」
ロレッタさんはセンリくんに茶化すかのように言ってくる。
「綺麗な方がいいでしょ」
「それもそうね」
センリくんが手でドアノブを触り魔術で鍵を空けてくれて、中に入ると部屋の中にはたくさんの箱の荷物が置かれていた。
「あ、荷物届いてたんだ」
「うん、さっき届いたらしいよ」
「それと、これ鍵な」
「あ、ありがとう」
「魔術出来ないから、出来るようになったら取り込み方教えるよ」
「うん」
そっか、鍵も魔術に取り込んでやっているらしい。
「これでも、センリくん管理人の役割してるから」
こそっとロレッタさんが私の耳にささやく。
「それは、ここの寮長と副寮長が適当すぎるからです」
ロレッタさんのささやいた声がはっきりと聞こえたのか、センリくんが反論する。
「そんなに適当かしら?
理事長の指示通りやってるけど」
「まあ、やってるでしょうね。
適当にですけどね。
その適当だったのが、原因で大変な事ばかりなって怒られてるんでしょう」
「それは、反省してるつもりよ。
だから、管理人システムを取り入れたのよ」
「本当、この人はやっかい事ばかり押し付けてくるんだから」
「でも、妥当でしょ?」
「うるさいですよ!」
いったい、どのような大変な事が起きたというのだろうか。
気になるような気にならないような。
それから2人は寮の中を案内してくれて、案内しながら寮の決まり事も丁寧に教えてくれた。
「ここが浴室。各部屋にはないから」
「むしろ大浴場と言ってもいいぐらい広いのよ」
各部屋に浴室がないって事は、共同になるのか。
入る時間とか考えとかないと色々大変な気がする。
鍵とかは見たところ付いていなさそうだ。
「で今回、女子が来たから、時間設定が必要となったから」
そう言って、センリくんは浴室の扉の横に貼ってある紙を指差す。
「早めに入ってもいいし全員が終わった頃に入ってもいいけど、とりあえずは日付変わる3間時前までには入ったらいいよ。時間があれば見張りとか来てあげるから」
「う、うん」
(それなら、安心かな)
そんな事を思っていたら━━━。
「かと言って、下心満載でしょ?」とロレッタさんがまたにやけた表情でセンリくんに言う。
「そんな事ありません!
あくまでも見張りです!」
「えーー本当に?多少あるでしょ?
女の子が来たんだから」
「ほんと怒りますよ」
(また始まった)
この2人さっきから微妙な言い合いを繰り広げてばっかりしている。
でも、どこか仲良さ気な感じなのは気のせいではないだろうか。
「あれーその人って・・・・ロレッタさん」
2人が言い合いを続けていると、2人の間からひょことサーモンピンクのフワフワした髪でイエローのくりくりした大きな瞳の可愛いらしい男の子が割って入ってくるように現れた。
「フウラちゃん」
「フウラ」
「またくだらない言い合いしてるんですか?2人は」
「言い合いじゃねーよ。ロレッタさんが、変な事言うから」
「あら?本当の事でしょ?」
「違います!」
「・・・・・・・・」
(また再開しちゃった)
「ふーーん くんくん」
「!?」
いつの間にか、【フウラ】と呼ばれた男の子が私の近くに来ていて、なぜか匂いを嗅がれていた。
(さっきまで2人の所にいたよね?いつの間に来たの?)
「君、なんかいい匂いする」
「えっ・・・・」
その男の子はどんどん近付いてきて、すっと腕を触ってくる。
「ちょっ!?」
2人の言い合いを再開していたが、この男の子の行動に気付いたセンリくんは目を大きく開く。
「ねえ、味見していい?」
「ええ!?」
(味見って何!?いったい何する気なの?)
「あらら」
その光景にロレッタさんは唖然となっていた。
そして、さらに近づき首のところまで顔を近付けられる━━。
どう対処したらいいのか分からずあたふたしていたその瞬間━━━。
「ーーだめに決まってだろうが!!」
とセンリくんが怒鳴り放ちバシっと少し強めの音が成り響いたのだった。
「いたーー!?」
「まったくもう・・・・・・・・っ」
「セ、センリくん」
「頭叩くとかひどいじゃないですか!」
頭を強く叩かれ身構えになりながらもセンリくんに口論する。
「だったら、変な事しようとするな」
「だって、おいしそうな匂いがしたんだもん」
(お、おいしそう!?)
「あの子に近づいたらダメ!」
「なんで、味見ぐらいいいじゃないですか!
僕ずっと体調悪くて、成分の入った匂いは僕の体には合わないんですよ!おいしくないんですよ」
(ん?・・・・なんの会話これ?)
だんだん意味深な会話に聞こえてくる。
「そんなの知るか!とにかくこの子に近付づいちゃだめだかんな!」
「えー」
「行こう」
「!」
センリくんはその男の子にそう言い残し、私の手を掴みその場から離れたのだった。
そして、私の部屋へと戻ってくる。
「ごめんな、びっくりしたろ?」
「う、うん」
確かに色んな意味でだけど驚いた。
「えっと、あの子は」
一応、あの男の子について聞いておいた方がいいのかもしれないと思って口に出した。
「ああ、アイツは。2年のフウラ・クライディア」
「2年生だったんだ」
「まあね」
てっきり同い年と思ってたけど、上級生だったんだ。
「でも、あいつ。敬語とか使わなくても大丈夫だよ」
「そうなの?」
「うん、嫌ってるから。本人は敬語使ってるけどな」
そういえば、敬語だった。
「それじゃあ、夕飯なったらってもうすぐだけど、呼びに来るから。それまでに着替えといて」
「うん、分かった」
「あ、それと。着替える時は絶対に鍵閉めてね、絶対にね」
「う、うん。わかってるよ」
「うん、よし。では」
頷くと、センリくんは安心したように出て行った。
本当にセンリくんって心配症な人だな。