第一章 『覚醒』
第一章「覚醒」
受験と同時に中学校生活が終わったこの年、鈴木鉄夫は新しく始まる高校生活に不安を抱いていた、家でゴロゴロしていると母に新しく買ってもらったスマートフォンに一件の通知が来た、見てみるとかおるからのラインだった。
柳かおる、小学校からの同級生で女子の中では一番仲がいい、ショートカットの黒髪で二重が特徴だ、ラインの内容は中学校の卒業式の打ち上げの話だった。
「入試で疲れ切ってるのに・・・。」
そう思った鉄夫だったが、またあの仲間たちと会えると思うとわくわくが止まらなかった。
「これからはもう、皆バラバラになっちゃうんだ…。」
次の日の夕方、かおるに教えてもらった飲食店に行くとクラスの皆が集まっていた、懐かしいなぁと思いクラスの皆を眺めていると一人の男が話しかけてきた。小林雄大、クラスで一番中が良かった親友だ、イケメンで運動神経が良くて、頭もいい、俺とは程遠い存在だ。
「久しぶり!入試どうだった?俺は完璧だったぜ!」
そう、雄大は少し自分に酔ってるところがあるのだ、でもとても優しくて、頼りになる男だ。「数字が全然出来なかったよ笑笑、お前ほんとすげーよな!」
俺がそう言うと雄大は声を上げて笑った、だがその時の笑いはいつもの笑いではなく、心の奥になにか切ないものが詰まっているような感じがした。クラスの皆の何気ない会話をしたり、高校生活の不安や楽しみなことを語り合ったり、最近見た映画の話をしたりして久しぶりのクラスメートとの会話を楽しんだ。あいかわらず皆は元気そうで、今日来て本当に良かったなと心の底から思った。皆とたくさん話した後、近くの公園に行った、級長の合図で皆で写真を撮って解散した。俺とかおるは家が近いので一緒に帰ることになった、雄大は家が真逆なのでその場で別れた。
「じゃあな鉄夫!高校行っても頑張れよ!」
雄大が大きい声で俺に言った。
「おう!お前も頑張れよ!」
俺がそう言うと雄大は微笑んだ。
帰り道、かおると好きなアニメの話をしていた。
「やっぱりあのアニメ面白いよね!特に主人公が敵と戦うところとかさぁ!」
目をキラキラさせて俺に話すかおるを俺は可愛らしいなと思い見つめていた。
話に夢中になっていた時俺の目の前に車が見えた。かおるとの話に夢中になっていたのだろう、その車はブレーキをかけても止まれない距離まで迫っていた。
「キキー!!」
タイヤがスリップする音とともにドン、という鈍い音がした。かおるの悲鳴と車のクラクションの音が聞こえる中、おれは気を失ってしまった。
目が覚めると俺は病院にいた、真っ白なベッドにシーツ、病院独特のこの香り、目の前にはテレビがあった。
「家じゃない…、ここはどこだ…?」
手元にあったテレビのリモコンを手に取った、つけてみるとニュースがながれた。
「えー、本日のニュースです。」
アナウンサーが軽快に喋り始めた。
「昨日、A県C市で起きた自動車による事故ですが、飲酒運転をしていた三十二歳の男性を今日過失運転傷害で逮捕しました、被害者の中学生二人についてですが、男性の方は頭を強く打ち、女性の方は軽傷とのことです、えー次のニュースです。」
鉄夫はこのニュースを聞いて昨日の事故のことを思い出した、すると。
「コンコン。」
扉をノックする音が聞こえた、するとかおるが入ってきた。表情は心配そうな顔をしており、いつものかおるとは想像がつかないほどだった。
「鉄夫、大丈夫?お水持ってきたよ。」
かおるの声は震え、どこが悲しかった。
「大丈夫だよ、ありがとう。」
俺がそう言うとかおるの表情は少し和らいた。
「車が突っ込んできた時、鉄夫、私をかばってくれたんだよ、覚えてる?」
そうだったっけ?そう思いながらかおるの話を聞いていた。
「鉄夫が助けてくれなかったら私まで…。」
「よかったよかった、怪我はないか?」
俺がそう聞くとかおるは首を縦に振った。
「鉄夫ぉぉぉぉおお!」
大きな音を立ててドアが開いた、雄大だ。
「お前が車と事故ったって聞いたぞ!本当か!?」
雄大は息を荒くしながら俺に言った。
「大丈夫だって!そんなに心配すんなよ。」
雄大は少し落ち着きを取り戻した、その後二人はまだ心配そうな顔をしながら帰っていった。誰もいない病室、二人が帰ってしまったので少しさみしかった。ベッドに寝ながら右を向くとチョコレートがテーブルに置いてあった、きっとかおるが持ってきてくれたのだろう、手を伸ばして取ろうとするが体の傷がまだ完治していないせいか痛くて動けなかった。
「あーあ、魔法みたいにチョコレートが浮いてこっちまで来ればいいのに。」
そんなアホくさいことを考えているときだった・・・、ふわっとチョコレートが宙を浮いた、そして自分の方へ向かってきた、そして自分の手の中へと吸い込まれていった・・・。
「嘘だろ・・・。」
その瞬間、俺はすべてを手に入れた気持ちになった、そして、その日を堺に俺は変わった。