マイペース先輩たち
1、話を聞かない姉さん
「あれー、冷蔵庫の中空っぽだね。じゃあ、たらこスパの材料買ってくるついでになにか
買ってきてあげるね。りおクンはなにか欲しいものある?」
姉さんは冷蔵庫の中を確認しながら僕に尋ねる。
「えーと、納豆と梅干し買ってきてくれる?」
「渋いジェイ! なんでもっとモアイのマーチとかHigh10とかおやつっぽいものに
しないんだジェイ!」
「いや、まあ、好きなものはしょうがないと思う」
「そーよ、りおクンが好きなものにケチをつけちゃダメよ?」
「だだ甘やかしだジェイ……。なんか疲れてきたジェイ……」
僕たちの中では普通になってきつつある会話に明子さんが疲れてきている。
僕も慣れるまではちょっと疲れてたし。
「あ、明子。ちょっとりおクンと一緒にお留守番しててね」
「一緒に行くんじゃなかったのかジェイ!?」
「そーよ?」
さも当然と言わんばかりに返す姉さん。
「じゃあなんでお留守番なんだジェイ!?」
「だってりおクンを独りにするなんてできないじゃない?」
さも当然と言わんばかりに返す姉さん。
「いや、一応僕はここで一人暮らしをしているんだけど……」
「りおクンは偉いわねえ、一人でお留守番できるんだね」
「なんか聞き捨てならないジェイ! まるでアタシが一人でお留守番できないみたいに
なってるジェイ!」
「というかお留守番じゃなくて一人暮らし――」
「お姉さん、りおクンが立派になって嬉しいような悲しいような……。もっとお姉さんを
頼ってもいいのよ?」
「あー、うん、分かった」
「美香、人の話をもうちょっと聞いた方がいいジェイ……」
「明子さん、諦めましょう」
「……そーねジェイ」
「じゃ、買い物行ってくるわね」
「「いってらっしゃーい(ジェイ)」」
こちらを向き、手を振りながら出かけていく姉さんを見送った。
2、あまり誘惑しないで!?
さて、いつも通り明子さんと二人になったのだが、どうしたものか。
明子さんも姉さんがいないといろいろと――
「理央クン、アタシを襲わないジェイ?」
「ぶーーーーーー」
僕は思わず噴き出した。
「だってぇ、年頃の男女が二人きりならやることは一つだジェイ?」
「さっきまで姉さんいたし、すぐに帰ってくるよね!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、オネエサンに任せなさいジェイ」
「勝手に話を進めないで!?」
「あ、理央クン、そんな、激しい、ジェイ」
「僕なにもしてないよね!?」
「もう、理央クン、ノリが悪いジェイ」
「……」
疲れる。
姉さんの相手も疲れるけど明子さんの相手もすごく疲れる。
二人きりになると妙に僕と密着したがる。
男としては嬉しいことは嬉しいが、姉さんに見つかったらと思うと気が気でない。
いやいや、なにを考えているんだ僕は。
好きでもない女性を襲うなんてやってはいけない行為だ。
「どうしたジェイ?」
「上目遣いで僕を見上げる明子さん」
「い、いや、なんでもないよ」
「ははーん、さてはアタシを淫らな妄想で汚してたなジェイ?」
「だからなんでそっちの方向に持っていこうとするの!?」
「もう、理央クンのエッチジェイ」
「だから僕なにもしてないよね!?」
「理央クン、つまんないジェイ」
本当に疲れる。
何よりいつもしている予習復習が全然できない。
ちょっときつい言い方になるけど、仕方ないか。
「勉強するから少し黙っててもらってもいいですか?」
「ひどいジェイ! 先輩に対して言うセリフじゃないジェイ!」
「じゃあ先輩らしく振る舞ってくださいよ……」
「だから、先輩らしく理央クンを誘惑してるジェイ」
「いいから黙っててください!」
「ぶーぶージェイ」
……。
さて、落ち着いて勉強を――
「あ、理央クン、歴史なら教えてあげるジェイ」
できなかった。
もう諦めるしかないのだろうか……。
「現代史限定だけどねジェイ」
「ただいまー」
結局なにもできずに姉さんが帰ってきた。
というか、買い物し終わるの早すぎないか?
「りおクンが心配しないように急いで帰ってきてあげ……って明子!? なにりおクンに
密着してるの!? そういうのはりおクンにはまだ早いんだから離れなさい!」
「でも理央クンも乗り気だジェイ?」
「嘘を言わないで!?」
「りおクン、そんなに我慢できないなら、お姉さん、一緒に添い寝してあげるよ?」
「だからそういう方向に話を持っていかないで!?」
「あ、そうそう。たらこスパなんだけど、材料が売り切れていたから冷凍の買って
きたんだけど、これでも大丈夫?」
「え、あ、うん、大丈夫だよ」
「えー、冷凍のなのジェイ」
このマイペース先輩共め。
まあ、自分で夕食を作らないで食べられるのだから、感謝こそすれ文句を言うのは筋違いかな。
……多分。