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理央の姉

1、理央の姉


 学園から帰るとそこには見慣れた人物がいた。

「お、帰ってきたな、りおクン」

「ただいま、姉さん」

 僕の姉で唯一の肉親、田村()()だ。

 姉さんは一人暮らしをしている僕の元に週一で訪れて部屋の掃除やら料理やらしてくれる。

 ただ、僕は普段からこまめに掃除をしたり、自分で料理を作ったりしているので、姉さんはいつもやること少しはとっときなさいよ、と言っている。

 僕がわざわざこなくてもいいのに、と何度か言ったことがあるが、姉さんは毎回お姉さんをもっと頼りなさいよ、と言って聞かない。

 だから最近は僕の方が諦めて姉さんがやりたいようにやれるようにしている。

 もう、おわかりいただけただろう。

 僕が昨日わざわざ残り物を弁当にして買い物も行かず冷蔵庫の中を空っぽにしたり、洗い物をそのままにしたり、お風呂掃除をあえてさぼったりしていたのはこのためなのだ。

「ね、ね、りおクンはお姉さんがきてくれて嬉しい?」

「あー、うん、嬉しいよ」

「なにー、今の『あー』て言うのは」

「……」

 姉さんはちょっと、いや、かなりブラコンなところがある。

 毎週会う度に必ず今の質問をされる。

 クラスでは冷たい態度しかとられないから新鮮ではあるが、これはこれで疲れるところがある。

 ただ、好意を持ってくれているのでそこは素直に感謝している。

「なに黙ってるのかな、りおクン。そんなことしてると今日の晩ご飯にりおクンの好きな

 ロールキャベツ作らないぞ」

「あー、うん、ごめん」

 ……だだ甘である。

 ちなみに謝っても謝らなくても僕の好物を作ってくれる。

 謝らないでそのままにしていると、

「あ、あ、ごめん、お姉さん、ちょっと意地悪しちゃったね。だからロールキャベツ

 食べて機嫌直して、ね?」

と言って、結局作ってくれるのである。

 とてもだだ甘である。

「分かればよろしい」

「ははは……」

「それじゃ、早く開けて。いつまでも扉の前で会話してるのはお姉さん、変だと思うんだ」

「ごめん、すぐに開けるよ」

「あ、そうそう。今日は明子もくるけど大丈夫?」

「うん、別に構わないよ」

 明子とは姉さんの友人の一人で、フルネームは(ふる)()(あき)()

 なぜか姉さんと初等部から一度もクラスを違えたことがないすごい人だ。

 ちょっと変わっているところもあるが。

「やーごめんごめん。教授手伝ってたら遅くなっちゃったジェイ」

「大丈夫だよ、私も今から入れてもらうところだから」

「そうなんだジェイ。それなら良かったジェイ」

 そう、語尾に必ずジェイを付けるのだ。

 姉さんから聞いた話だと、初等部の頃からずっと言っているらしい。

 一度、本人になぜ語尾にジェイを付けるのか聞いたことがある。

 返ってきた言葉が、かっこいいから、だそうだ。

 僕は理解してあげることはできなかったが、スルーすることはできた。

 姉さんもきっとスルーすることに決めたんだと思う。

「ささ、早いとこ掃除終わらして料理作っちゃおう」

「あ、アタシたらこスパ食べたいジェイ」

「だーめ、今日はりおクンの好きなロールキャベツって決めてるの」

「ロールキャベツとたらこスパ作れば問題ないジェイ」

「でも、あまりりおクンに食べさせ過ぎちゃうと、りおクン、太っちゃうよ?」

「甘やかしすぎだジェイ!?」

「僕は大丈夫だから、好きなものを作っていいよ」

「ほら、りおクンもそう言ってるんだから、ロールキャベツを作らなきゃ」

「今の流れだとたらこスパも作って良さそうに聞こえたんだがジェイ……」

「えーと、たらこスパも作ったらどうかな、姉さん?」

「うん、りおクンがそう言うならたらこスパも作ってあげるね」

「弟を甘やかしすぎだジェイ! というか弟の意見ならなんでも聞くのかジェイ?」

「もちろんよ?」

「即答だジェイ!」

 なにを当たり前のことを、と言わんばかりの姉さんに衝撃を受ける明子さん。

「あ、でも、恋人を作るなら、ちゃんとお姉さんに話を通してからにしてほしいかな」

「すごく束縛してるジェイ! 理央クンもなにか言った方が良いんじゃないかジェイ?」

「いや、なにを言っても無駄だし……」

「あー、なに、りおクン、お姉さんのこと面倒くさいと思ったわねー。そんなに一生懸命

 姉離れしなくてもいいのに」

「「……」」

 僕と明子さんは揃って言葉を失った。



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