木島の気まぐれ
1、先生は味方じゃない
翌日。
僕はギリギリで学校に到着した。
少しでも木島に絡まれるのを短くするためだ。
始めからこうしていれば良かったんだが、先生がギリギリに行くといろいろと言ってくるので、時間をまちまちにしていた経緯がある。
ただ、昨日のことがあるから先生よりも木島に絡まれないことに比重を置いた。
そのおかげか、席について木島が絡んでくる前に先生が教室に現れた。
「田村ー、ギリギリは感心しないな」
「すみません」
「まあいい、出席取るぞ」
先生は普段僕と木島の関係をどう見ているのだろうか?
いや、あの先生のことだ。せいぜい友達ぐらいにしか見てないのだろう。
どう見ても友達の関係ではないというのに。
ちなみにギリギリに来ていろいろと言われるのは僕以外存在しない。
他の生徒には特になにも言わないのだ。
木島とかは遅刻しても出席扱いにされている。
僕の担任、僕の思っている以上にひどい奴なのかもしれない。
2、木島の気まぐれ
昼休み。
いつも通り木島が近づいてくる。
「よお」
「今日はなに?」
「いやなに、たまには自分で選びたいからよ。ちっとばかし貸してくれないか?」
「……」
やれやれ、昨日の懸念がこんなに早く訪れるとは。
僕は常習化されないことを祈りつつ、
「いくら?」
と尋ねた。
「千円もあれば十分だよ」
「そう」
財布から千円札を取り出し木島に渡す。
「ちゃんと返してね」
「おいおい疑うなよ。ちゃんと返すからよ」
「分かった」
僕はそう言いながらもう返ってこないだろうと思った。
木島のことだ。次の日になれば覚えていてもとぼけるだろうし、下手に追求すれば僕が木島からお金をたかっていることになりかねない。
昨日のやりとりを考えると、多分木島は平気でそういうことをしでかす。
これくらいは想像できる。
今日は昨日用意しといた弁当があるから木島が買いに行っている間に昼食を済ます。
もうすぐ食べ終わるか、という時に木島は購買から帰ってきた。
「いやあ、購買ってあんなに面倒なところだったんだな」
「そうだね」
購買は昼休みになると、パンを買いにたくさんの生徒が群がるので、ちょっとした満員電車の中みたいな状態になる。
あの中から目標のものを手に入れるのはかなり難しいが、僕は常連なのが影響していつも買っているパンなら例え購買で売り切れていたとしても購買のおばちゃんが隠してとっといてくれる。
購買のおばちゃんは僕にとって数少ない学園の味方みたいな人だ。
そのおかげで、木島のパンはいつも同じものが買えるようになっている。
「あ、そうだ。田村、暇か?」
「いや、まあ、うん」
「なんだ煮え切らねえ態度だな」
「いつもより早起きして弁当を作ったから、ちょっと眠いんだ」
僕はもっともそうな嘘をついて机に突っ伏そうとする。
「そうかそうか。じゃあスカッと目が覚めること教えてやるぜ」
なにか良からぬことを考えついたようだ。
木島は僕に耳打ちするように顔を近づける。
「そこの女子に告白してこい」
「……は?」
「だから、そこの女子に告白してこい」
「いや、なんで?」
「いいから言うこと聞けよ田村。やらねぇんならあの子に田村が襲おうとしてるって
言うぞ?」
「……分かったよ」
仕方がない。
絶対に白い目で見られるだろうけど、木島に余計なことを言われるよりはマシだ。
僕は仕方なく、向こうで友達とパンを食べている結城さんに声をかけた。
「結城さん」
「は、なによ田村」
「えーと、その、僕と、付き合ってください」
「はぁ~?!」
木島がゲラゲラ笑っている。
やっぱり自分が楽しみたいだけか。
さて、どんな返答が返ってくるかな……。
「なんで私が田村なんかと付き合わなきゃいけないのよ。頭おかしいんじゃないの?」
「ほら、田村君、元から頭おかしいじゃん」
「そうね。あ、田村、ノーに決まってるからね」
「あ、うん、分かった」
僕は木島のところに帰ってきた。
「あっはっはっは! いやあ面白いもん見させてもらったわ。あんがとさん」
「……僕は寝るね」
「あっはっは、どうぞご自由に」
やれやれ、またクラスの女子から遠ざけられる理由ができてしまった。
僕自身、あまり親しくなりたいと思ってないから別に構わないけど。
僕は机に突っ伏して寝始めた。
周りの声が少々騒がしかったが気にしないことにした。